ど-22. おめでとう、ありがとう
点睛……一応ですが『てんせい』と呼びます。
「おめでとう」
「…それは何に対する祝辞でしょうか、旦那様?それとも今になってようやく私の手頃な偉大さ加減にお気付きになられたという事でしょうか。いえ、有難う御座います」
「お前は俺がお前に対してありがとうと言うのがそんなに可笑しいか?つか偉大さ加減て何だよ?」
「私の旦那様に対しましてお役にたち得なそうでいて非常にお役にたっている…はず、の不可分かつお手頃感覚の重要性の事です。しかしそうなされると旦那様。先ほどのお言葉は果たして何に対します謝礼辞なのですか?」
「なにって…今日が何の日か覚えてるか?」
「今日、でございますか」
「ああ、そう。今日」
「今日は…そうですか、もうそんな頃になるのですね。今日は丁度二つの月が重なる新月、と言う事は本日は“白日”ですか。しかし白日は本来龍種を祀るもの……近年としましては既にアクツォルトの近隣で密やかに行われている祭り程度のはず。…ああ、確か処理部のツォトマー様などはその辺りのご出身ではありましたが“隷属の刻印”を刻まれておられる以上地方の事情になど感知なされないはず。…これは旦那様の企みですか?」
「企み…違うって。スヘミアの奴がな、どっかから“白日”の知識持ってきて『龍種を敬うくらいならこの私を敬いなさーい、あははっ』で、始まった。それでどうせ祝うなら日頃の感謝を込めてお前に感謝でもしようかってどこからともなく湧いて出てきてな、んでこの結果。てよりもやっぱり気付いてたか」
「はい、それは当然。皆様のご様子がおかしいのは当然と致しまして、本日準備段階であれだけ騒がれましては私に隠し通す事は無理かと思われます。何もせずとも聞こえてきたくらいですから。しかし、『どこからともなく』…ですか」
「…何だよ、その目は。てかそれだけお前が奴隷達に慕われてるって事だろ?俺を疑わずに素直に喜べよ」
「はい、嬉しいです」
「表情変えろ、せめて声に濃淡を付けろ」
「うれしーですね」
「もういい。事、この件に関して注文をつけた俺が悪かった」
「……申し訳御座いません。旦那様の下種にも劣る妄想の塊を処理いたしますのが私の役目たるところなのですが流石に本日は調子が宜しくないようです」
「今夜から新月だからな」
「はい」
「まあ今はその事は忘れて折角他の奴等がここしばらくずっと準備してくれてたんだ。しかもご丁寧に極力お前にばれないように、な。今日は素直に祝ってもらえよ。あと、俺は決して妄想の塊じゃない」
「旦那様は祝って下されないので?」
「…さっきおめでとうって言ったぞ」
「有難う御座います。……それっぽっち?」
「お前…いや、新月だから仕方ないか。……日頃からお前にはちゃんと感謝してるよ――で、いいか?」
「言葉にお心が篭っていられるのならばどのような事でも」
「それじゃ、奴隷達も待ってるはずだからそろそろ行くぞ。太古の昔に滅んだ龍種に誉れと、日頃のお前の働きに労いを。まあ、しばらく休めって事だ……て、あれ、もういないしっ!?てかマジ何処行った、あいつ?」
「旦那様、何を御独りで宣っておいでなのでしょうか?私は旦那様の不毛な独り言には既に慣れておりますので気に致しませんが、皆様がお待ちしています現在にいたっては速やかにいらして下さる事を期待いたします」
「あ、あんな遠くに……つーか、よ。何で俺が置いていかれなきゃいけないんだ、くそぅ」
「旦那様、速やかにいらしてください……………速やかに、しかし緩やかに。先ほどのお言葉に少々、照れて顔が困った事になっておりますので」
本日の一口メモ〜
『白日』
遥か昔に行われ、今は一部の地域でしか行われていない祭り。
龍種、特に皇族の白龍を祭る為に行われていたお祭り。
この世界には月が二つあるのだが百数十年単位で同時に新月になる、その日の事を指している。
超蛇足だがこのお祭りは原初の白龍と言われる龍種の初代王様が始めたものである。元は誰かを祭るものではなく、日頃の鬱憤を晴らすためだったとかなんとか。
新月の日は魔力が弱まって色々な問題が起きやすいとか、そんな事は一切関係ない。