ど-213. 小休止と閑話休題
とある朝の会話。
「さて、この街に拠点もできて、ようやく人心地ついた、ってところだな」
「人心地、と仰られる割には先の『驚異? 富豪の館が突如として一夜で消失!?』や『一昼夜の悪夢? 伝説の魔物・ケルベロス現る、勇者よ討伐求む!』などという張り紙が未だに見られるなど、通常では起こりえない事件が立て続けに2件も、既に起こり得てしまっておりますが」
「知らないな、てかそれどっちも別に俺の所為じゃないし?」
「そのふてぶてしさは流石は旦那様であられますね」
「……いや、でも考えてみれば全ては俺が悪いのか。この俺と言うどうしようもない魅力に充てられてしまうお嬢さんが数多にいすぎるせいで、あんな悲劇が起こってしまうんだ。あぁ、俺は、俺はどうすれば――!!」
「取り敢えずはもう一度、私が解呪でも行ってみましょうか?」
「ん? そんなの必要ないって。俺は別にどこも呪われてなんてないぞ。まあ、俺に恋い焦がれるお嬢さんが俺のこの何処までも広くて果てのない愛を独り占めしようとちょっとお呪いを掛ける、なんてことはまれにあるかもしれないけどな。ははっ!」
「では私も早速その中の一人に入れてもらうと致しましょうか。さて、呪いの準備でも――」
「いや、お前はそんな事をする必要なんてないぞ? 不満があるって言うんなら俺が今すぐ全身全霊を以て受け止めてやる。さあ――どんと向かってくるんだ!!」
「――、……では旦那様、失礼させて頂きます」
「おう、さあ来い!」
「………旦那様、私は旦那様のお傍にさえいさせていただけるのであれば、多くを望む事は決してありません」
「んな謙虚にならずとも、俺にできる事があれば何でもしてやるぞ。それとも俺の器はそんなに小さいか?」
「いえ、そのような事は断じて考えては、思い浮かべてさえもいませんが。そうではなく私にとってはそれだけで十分であると、ただそれだけの事に御座います」
「――ふーん、そうなのか」
「はい。それでも一つ、ひとつだけ私の我儘を聞き届けていただけるのであればお願いいたします」
「――ああ、なんだ?」
「あまり、私を忘れないで下さい。ただ――それだけです」
「――」
「……旦那様?」
「――、ふぅ、俺もまだまだって事だな。ったく、俺は今まで何をしてたんだか」
「あの、旦那様?」
「ああ、お前への返事がまだだったな。悪い、少し反省してた」
「いえ、それはよろしいのですが、反省とは?」
「本当に、駄目駄目だな、俺は。こんなにも愛しいお前の事を不安にさせてたなんて。俺の愛は世界のお嬢さん全てのモノ? 俺の器はこんなものじゃない? ふっ、笑わせるぜ」
「はい、それは全く以てその通りかと。……ただ私としましては今の旦那様ですと一笑に出来ないのが怖いところなのですが」
「ああ、そうだ、そうだともっ! 俺はまだまだ未熟なんだ。――いや、だからこそ今以上に俺は輝ける、それを俺は知っている!!」
「えー、そーですね」
「だけどな、他の誰かなんて、まずは何より目の前のお前の不安を取り除いてやる事ができなくて、何が俺かっ。俺は……俺は今以上に不甲斐無さを感じている!! だからな、俺はお前に安心をあげよう。さあ、こっちにおいで?」
「……旦那様、ずるいです。そのような事を急に仰られるのは――」
「ふっ、俺はいつだってずるいのさ。でもそんな狡さも、時には必要になるんだ。その為だったら――お前を不安にさせない為だったら俺はどんな批評だって喜んで受けてやるさ!!」
「――それでは小憎たらしい程に狡く在られる旦那様? ひとつ、私の不安を除く為にご協力くださいませ」
「ああ、いいとも。お前の為だったらこの身この身体この心、何だって――ぐふっ!?」
「…………取り敢えずストレス解、もとい、ようやく生じた隙に殴っ……いえ、衝撃を与えてみましたが、これで旦那様がいつもどおりに戻ってくだされば有難いのですが――」
「ふ、ふふ。いい突きだ、ったぞ。――ぅ……」
「……よしよし、痛いの痛いの、とんでいけ〜。…………これはこれで有り、な気がやはりしないでもありません、が――」
「……にゅ? ふぁぁぁ、おねぃちゃん、おはよー」
「はい、おはようございます、ハカポゥ様。……と、やはり問題は大ありですね」
時折、精神不安定
???の技名紹介(気まぐれシリーズ)
≪Press――甘美に圧し殺せ≫
ジワリジワリと押し潰される。一気に押しつぶす事も可能。でも圧縮はできても解凍、と言うより元の大きさには戻せないので注意が必要。
無言の圧力、とかにも使えるらしい?
とある姉妹の騙り合い
「協力しないか?」
「姉様と私が? 珍しい。それと協力ではなく相互有効活用と言ってください。仲がよく聞こえてしまうじゃないですか」
「……それもそうか。なら言いなおそう、愚妹、お前を利用してやるからありがたく思え」
「……姉様、一度死んで置きますか?」
「お前が消えた後でなら検討だけはしてやろう」
「ああそうですか。それと姉様、先ほどのお答ですけど、お断りします。どうして私が姉様野りになる行いをしなくてはいけないのです? ご自身の立場で考えてみては?」
「……なるほど。私もお前のりになる行いなど、死んでも断るな」
「でしょう」
「と、言う訳で愚昧、お前の諭されたなんてとんだ屈辱だ。死んで詫びろ」
「――この礼儀知らずめ」