DeedΣ. ハカポゥ
今回のお話はかなり趣旨が異なります、たぶん。なので訳の分からない事ばかりかもしれません。
お気を付けを。
――素は空間。何もない、空の間。世界の理の通じぬ、世界のどこでもない場所。
其処に出でたるは一人の男と、一人の女。ただし姿は人なれどその存在は人為り得ない。
「……やれやれだ。居なくなったと思えば突然現れて、面倒な事を言ってくれる。ミミルッポからの願いがなければ引き受けなどしないものだ」
「――誰だ?」
「誰だ、とは不粋だな。我に名を訪ねるより先に己の名を名乗ったらどうだ?」
「不粋……不粋か、まさかヒトの住処に無断で立ち入ってくる輩にそのような事を言われるとは思ってもいなかったわ」
「ふむ、そうか。それは済まなかった。まさかこのような辺鄙な場所が汝の棲み家とは思いもよらなんだ。我の無礼を許せよ」
「許すも何もない。この場に立ち入った時点でお前の命運は決まっているのだから」
「ほう、それは面白い事を云う。汝が我を如何こう出来ると、そう云うか」
「ヒトの分際で大きな口を利く男だね」
「ヒト? 我が“ヒト”と言うか。そちらこそ面白い口を利く」
「何だ、違うとでもいうのか? 巨人族……ではあるまいし、ならば妖精族? それとも龍種か魔種とでも?」
「――やれやれ、本当に面白い口を利く女だな。我とこうして立ち合ってもなお気づかぬとは。昔は見なんだ顔の様であるし、とんだ三下だな」
「三下? よりにもよってヒト風情が何を――」
「それが違う、と言っている。確か悪魔、と言ったか。我や汝の様に“外”から来た者の事をこの世界ではそう呼んでいるらしいな」
「――その口ぶり、おま……あなたも、そうなのか? いや、でもそんな情報、私は何も聞いてないわよ……?」
「聞いていない、それはそうかもしれないな。我はどうやら少し長い間眠っていたようでな」
「眠って……? あなた、名前は?」
「スィーカット」
「スィ――……馬鹿なっ!? そんな事あるわけがないっ!!」
「何がバカな、か。我が嘘を吐かねばならぬ理由がどこにある?」
「そんな、そんな馬鹿な事があるはずがないわっ。……あの『破王』が、こんな辺鄙な世界にどうしているものかっ!?」
「『破王』とはまた随分と懐かしい呼び名だ。我をそう呼ぶ輩は久々だ。だが、その様子では“外”では我の事はまだ覚えられているのか。それは行幸な事だ。ならばちょうど良い、我の用事を果たすとするか」
「な、何を……っ!?」
「そう恐れずとも我の方より汝に危害を加える気はない。――少なくとも汝がこの世界に手を出さぬのであれば、な」
「……どういう事?」
「焦るな。先を聞けば自ずと分かろうよ」
「なら、一体何の用なの、『破王』?」
「では一つ尋ねよう。ハカポゥ、と言う娘児の母親とやらは汝の事か?」
「ハカポゥ?……あぁ、あの子ね。一応そうだけど、それがどうしたって言うの?」
「いや何、聞いたところによるとあまり良い育て方をしていないらしいな」
「余計な御世話だよ!」
「ああ、その通りだ。確かに余計な世話だが、それでもその世話を焼きたがる輩がいてな、我はその伝令役として来たのだ」
「伝令……? はっ、天下の『破王』様も落ちぶれたものねっ! こんな世界のイチ人間にでもこき使われているのか、それはお笑い事よっ」
「ふむ、その物言い、まだまだ青いな。だが我としてもあの男に使われる気は毛頭ないのだが、まあ同族が迷惑をかけたとあっては世話を焼かぬわけにもいくまいよ」
「……それで、『破王』スィーカット様はいったいどんな用事で私に会いに来たって? 娘が何かしたみたいだけど、あの子と私は関係ないよ。あの子の事で私に何かするって言うんならそれはお門違いもいいところだね。煮るなり殺すなり、勝手にすればいいじゃない」
「――ふむ、成程。そういう事であるのならば、我としても一つ気が楽になるな」
「気が楽になるって? そりゃよかったよ。それで、一体何の――」
「――去ね、下郎」
「っっ」
「ハカポゥと言う娘児は我らが預かっておこう。汝は、……二度とこの世界に近づかぬと言うのであれば見逃そう。ただしそうでないと言うのであれば我が『破王』の二ツ名に誓い――ナレを消す」
「……――はっ!! 『破王』だの何だのと、もてはやされてたのは昔の頃だろうっ!? それを今更のこのこ出てきてでかい面してるじゃないよっ!!」
「真にそう思っているのであれば向かってくるが良い。一つしかないその命、無駄にしたいのであればな」
「……」
「……」
「……ふんっ、こんなところで危険を冒すって言うのも馬鹿ばかしいわ。あんな邪魔な子、引き取ってくれるって言うんなら私としても清々するしね」
「ならば早々に去ぬが良い。我の気が変わらぬうちにな」
「そうさせてもらうわ――――なんて、言うと思ったか。隙だらけだよ、『破王』!!」
「――」
「あんたなんて所詮、既に過去の遺物なのよ。それをでかい顔して、私に命令? 何様のつもりって言うの?」
「――」
「まあこうして私に腹打ち抜かれてりゃ、もうでかい顔も何か言うなんてこともできないでしょうけどね、ははっ」
「――」
「『破王』、あんたなんて所詮は『霊王』であるこの私の敵じゃ――」
「では命はいらぬと言う事か。遠慮はすまい。警告は既にした」
「――ぇ?」
「……相手の力量も計れぬとは、だから三下と言うのだ。しかしやれやれ、あの男には何と説明するべきか。下郎を一つ処分した、で通じれば幸いなのだがな」
悪魔
世界の“外”から来たモノたちの総称。スィーカットも今レム君たちのいる世界の“外”側から来ているので、悪魔です。
……ちなみに破王だとかなんとかと呼ばれてたらしいですけど、そちらの情報は全くと言っていいほどお話に関係しないので気にしないように。