21. どれいと剣士
〜前回までのあらすじ〜
遂にリリアン姫様救出に向かう事になったレム君一行、んで、何事もなく目的地到着。
セミリファ・・・救出に選ばれた、まあまあ強い女性。決してどれいとかではありません。
リン・・・同じく救出部隊に選ばれた女の子。
マーサ・・・道案内役として救出部隊に選ばれた女の子。元・レムの奴隷で本名はテッラー
アル・・・しゃべる事の出来ない、奴隷の女の子。久しぶりに登場?
レアリア・・・ツンデレにして永遠のツン100%の奴隷の女の子。ついでにカトゥメ聖国の王子様の父親違いの姉らしい。王族ではない。
ラライ・・・灼眼の剣士様。とにかく強い。そして普段は寝惚けているけど今は覚醒中。
「……ふむ、何事もなく目的地まで来てしまったな」
「当然でしょう。それともアイリアス、貴方何を期待してたの?」
「いや、実はこっちの動きを悟られてて、敵からの刺客とか暗殺者とか呪いの人形とかが襲ってこないかなーと、ちょこっとだけ」
「そんなもの来ないに決まっているでしょ。こっちは砕身程の注意をして行動してるのよ。……それと最後の呪いの人形って、何?」
「あれ、呪いの人形知らないのか?」
「……聞いた事もない。けど何故かその言い方、腹が立つわね。リン、マーサ、貴女達は聞いた事、ある?」
「私は、ない」
「あ、私知ってます。確か呪った相手を只管付け回すお人形の事ですよね?」
「付け回すって、それで何をされる訳?」
「いや、呪いの人形は単につけまわすだけだ」
「……それって害はあるの?」
「単につけまわされるだけが、それだけだと思ってると痛い目見るぞ」
「アイリアス、あんたはあるのね、つけまわされた事が」
「……あぁ、あれは色々と、精神的に辛かった。奴ら四六時中、あの無垢な瞳で俺の事を見つめてきやがるんだ。朝起きたら絶対目の前に奴らのつぶらな瞳があるし、トイレ風呂食事団らんとどの時間帯でも見えなそうで絶対視界に入ってくる場所に陣取って、ただじっと見つめてくるんだぞ。しかも周りの奴らには愛想ふりまいてお辞儀しやがって。くそっ、何が可愛い〜、だっ! どう考えても気味が悪いって言葉しか当てはまらないだろうが!!」
「お、落ち着いてくださいレ――、……あ、あいりあす様」
「っと、悪い。ちょっとあの時の事を思い出したらヒートアップしてしまったみたいだ。いや、うん、つまり奴らはそれだけ侮りがたいって事なんだが、理解できたか?」
「……えぇ、何となくね。アイリアスの様子を見てると、確かに御免被りたいわね、それは」
「そうだろ、そうだろ」
「って、変な所で話が逸れたけど、兎に角、砕身の注意を払ってここまで来たんだから、今のところカトゥメの奴らには気づかれてはないはずよ」
「そうか。それは何と言うか……詰まらんな」
「詰まらない? それ、どういう意味かしら? ただでさえ姫様の安否が掛かってるのよ。それを言うに事欠いて、つまらない、ですって?」
「ってか、俺の正直な感想としてはリリアンが黙って捕まってるってのがそもそもおかしいと思うんだけどな。たぶん、何かしらのトラブルがあって離れるに離れられなくなってるって辺りだと思うぞ」
「確かに姫様が捕まったままと言うのは想像しがたいけれど、何事にも例外はあるでしょう? いったん姫様が捕まった以上、注意をしておくにこした事はないわ。……それとアイリアス、先ほどから姫様の御名を軽々しく呼んでるけど、死にたいの?」
「いや、だからって直ぐに魔力込めた手を向けるのは止めてくれ。生きた心地がしない」
「……なら、姫様の名を呼ぶときは細心の注意と敬意を払うようになさい」
「……めんどくせぇ」
「――今、何て言ったかしら? 私には面倒、とかなんとかって聞こえたけど、死にたいようね」
「レ、レム様ぁ〜」
「仕方ない。ここはマーサ殿の顔を立てて許しておいてやろう」
「許す? 随分と態度がでかい物言いね?」
「つかよ、脅す時は相手と場所をちゃんと見てからした方がいいぞ」
「……どういう意味?」
「今の場合、ブラフって事が分かり過ぎ。ここで騒ぐことが出来ない以上、どのみち俺に何かするなんてこと無理だろ? つー事は今までの脅しも脅しどまりで、ここにいる限りは俺は危険でも何でもないってコ――」
「――それは良かったですね、犯罪者さん」
「あ、アイリアス。言い忘れてたけど、リンは元暗殺者よ。私と違ってヒトを消すのに派手な音は立てる必要もないわよ?」
「……そー言う事は出来る限り早く言ってくれると助かります。……それとリンさん?」
「……リンでいい」
「ならリン」
「なに、犯罪者さん?」
「背中に突き付けてるナニかをどけてくれませんか?」
「断る、と言ったら?」
「実は案外お茶目さんだったんだね、リ――痛ぇ!?」
「アイリアス、リンは冗談通じない性質だから気をつけた方がいいわよ。それとその子、やるって言ったら本気でやるわよ」
「……それはもう少し早く言ってくれると助かるのですが?」
「だから言わなかったのよ」
「……」
「れれ、レム様、ファイトです!」
「……本気で応援する気があるなら手助けをしてくれると嬉しんだけどな、“マーサ”ど・の!?」
「ひい!?」
「……これ以上マーサをいじめると次は刺します」
「何を!? つか本気で止めて!? 全部俺が悪かったです!!」
「――リン、ちょっとアイリアスを黙らせて」
「了解。……――黙れ」
「……はい、黙ります。黙りますからそれ以上背中のモノを突き出さないで」
「アイリアス、あなた、今ここが敵地で一つの油断も命取りだって事を忘れてるんじゃないでしょうね?」
「忘れてない、忘れてないけど、てかどっちかと言うと俺は全面的に被害者だと思う」
「気の所為でしょ。そもそもの原因はアイリアスが姫様を馬鹿にした事だし」
「してないつーの。それにリリアンの事はお前らの言う姫様ご本人から許しは得てるんだぞ。……ついでにマイシアからも」
「王妃様まで呼び捨てをっ――リン」
「て、待て待て待て。だから本人たちからそう呼んでいいって了解を取って……むしろ下手な敬称付けるとこっちが危ないんだよっ!?」
「……む。王妃様や姫様なら確かにそう言いそうだけど……リン、マーサ、アイリアスの言ってる事は本当だと思う?」
「嘘を吐いている感じじゃない、から。本当だと、思います」
「えーと、私も一応、本当だと思います。……レム様はこういうとき嘘吐かないし、実は異常なくらいの交友持ってるって噂で聞いたことあるし」
「ほら見ろそら見ろしかと見ろっ、俺は何も悪くない!!」
「だから今煩くするなってさっき言ったでしょうがっ」
「……ぁ。それは悪かった」
「分かればよろしい。って、随分と騒いじゃったから早くこの場から移動した方がいいわね。リン、周りの様子は?」
「異常な――、っっ」
「――ひとり」
「散開しろ!」
「「っ!!」」
「――させな、……ぇ?」
「――ん?」
「っ、レムさ――」
「ラらいちっ!?!?」
「――ま避け、……てレム様済みません大丈夫ですかっ!? そ、そんな、こんなに酷い顔に。済みません済みません済みません!!!!」
◇◇◇
「ラライー? 急に走りだしてどうかし……て、それレム?」
「そうなんです。レム様が、レム様が私の所為でこんなひどい顔に……!!」
「……いや、顔に傷はついてないわよ?」
「でもこんなに――」
「だから、これ元々。ほら、アルからも何かしてあげて。と言うよりも少し落ち着かせて」
「……、?」
「――げふっ!? ゃ、止めて『燎……じゃなかった。アルちゃん、私を殺す気……ですか?」
「私としてはただちょっと首を傾げたくらいでどうしてそこまで興奮できるのかが不思議でならないんだけど」
「それは私もそう思いますけど……ぐふぅ!!」
「そう思うなら落ち着きなさいよ。そのうち本当に死ぬわよ?」
「す、好きでやってるわけじゃありません。……だから灼眼、いい加減落ち着いてくださいっ!!」
「……灼眼って、さっきから思ってたんだけど、それって自分の事でしょ? 何言ってるわけ?」
「色々と事情があるんです! それよりもレム様、レム様!! お気を確かにして下さい!!」
「しっかしレムめ、……ちっ、生きてたか」
「……(ふるふる)」
◇◇◇
「……何者? アイリアスの知り合い――敵? それとも味方?」
「ぁ〜」
「マーサ、知ってるの?」
「えっと、多分。それよりもリンちゃんは大丈夫ですか?」
「ええ。ちょっと気絶させられただけみたいね。そのうち気がつくわ」
「そうですか、よかった」
「それで、彼女たちは? アイリアスの知り合いみたいだけど」
「えー、多分ですけど、ラライ様です。灼眼の剣士ラライ様。残りの二人はちょっと判りませんけど」
「灼眼の剣士……――って、“あの”!?」
「えーっと、前にお会いした時と雰囲気が随分違うので多分、としか言えませんけど。それにさっきラライって呼ばれてましたし」
「……それが本当だとして、灼眼の剣士様がどうしてこんなところに? まさか、姫様を攫ったのは――」
「ふぇ〜ん、レム様ぁぁぁ、死なないで下さいぃぃぃ〜〜」
「……とても“あの”灼眼の剣士様とは思えないんだけど、マーサ?」
「……私もそう思います。以前見た時はもっと寝惚け、もとい凛々しかったはずなんですけど」
分かりにくいので今更ちょいと補足を。
襲撃者はラライさん。相手がレム君だと見てとって注意しようとしたのもラライさん。でもそのままぶちのめす。
……何故に気がつくとレム君は酷い目に合ってるのか、不思議でなりません。