ど-208. 開店、そして三人……目?
何かしなくては……!
「やはり地道に足を地につけていく必要があると俺は睨んだ。と、言う訳で『何でも屋』を開店してみた。なんでも屋……イイ響きだとは思わないか?」
「全く以て思いません。なんでも屋とはつまるところ雑務をこなして日々の糧を得る方々の事に御座いましょう?」
「そう言う言い方をされると確かに夢も希望もないな。でも問題はない。俺は日々の糧がほしいんじゃなくて美しいお嬢さんとの出会いが欲しいだけだからな。そして今の俺には天運がある。こうやって放っておいてもお嬢さんが向こうから飛び込んでくるに違いない!」
「そのような都合の良い事など、先のシルファ様だけで充分――」
「す、すみませんーん」
「……」
「……」
「ビンゴォ!! はいはい、ちょっと待っててくれよお嬢さん、いま扉を開けるからな、……っと、いらっしゃいお嬢さん、君が何でも屋『出逢いと絆』の一番めのお客、さま?」
「成程。確かに旦那様の仰られたとおりお綺麗なお嬢様で御座いますね。私めの目算といたしまして少々……そう、十年ほどの歳月が足りていないとは思われますが、それは旦那様であると言う一点のみで納得する事に致しましょう。――……この鬼畜」
「あ、あのね。みーくんがいなくなっちゃったの。……ここって、何でもしてくれるところなんだよね?」
「――、ふっ」
「旦那様?」
「その通りだよ、お嬢さん。君の様な可愛らしいお嬢さんの言う事なら喜んで聞くとしよう」
「……ぁ、でもわたしお金、」
「大丈夫。君みたいな可愛らしいお嬢さんならタダでお願いを聞くのは男として当然だからね」
「えっと、どういう事?」
「お金はいらないよ、って事」
「ほんと!?」
「ああ、本当だとも。それとも俺が嘘を吐いてるように見えるかな?」
「……う゛〜、前にお母さんがそう言う事言う男のヒトは信じちゃダメって言ってたけど……ううん、信じる! わたし、お兄ちゃんの事信じるもん!! だから、みーくんを見つけて!?」
「良い子だね、君は」
「…………ハカポゥ」
「ん?」
「……君、じゃなくってわたしの名前、ハカポゥって言うの」
「そっか。ハカポゥちゃん、ね。ああ、覚えたよ。それじゃあお返しに、俺はレムって言うんだ。『お兄ちゃん』も悪くはないけど、名前で呼んでもらえるかな、ハカポゥちゃん?」
「レム……お兄ちゃん?」
「うん、そう。それでいい。よくできました」
「……えへへへっ」
「――私はただいま大変嘆かわしい光景を眺めている気がしてなりません。このようにして無垢な童女が鬼畜王として後世に継がれるであろう旦那様の手に堕ちて往く様をただ眺めている事しか叶わないとは、あぁ、私は何と無力なので御座いましょうか」
「おねぃちゃん、泣いてるの?」
「あぁ、そいつの事は気にしなくても大丈夫だよ、ハカポゥちゃん」
「でもおねぃちゃん泣いてるよ?」
「大丈夫、それは嘘泣きだから」
「嘘? 嘘で泣いちゃうの?」
「涙は女の武器に御座いますればこそ、ハカポゥ様も今後の為に常に涙を流す事が出来るよう、頑張って努力しておく事をお勧めいたします」
「そこっ、“俺の”ハカポゥちゃんに余計な事を教えるな!」
「うん分かった、わたし頑張る!」
「……ハカポゥちゃんもそれは頑張らなくていいからな。大丈夫、君に必要な事は全て俺が教えてあげるよ」
「……」
「ハカポゥちゃん?」
「……レムお兄ちゃんって、お母さんが『こう言う事言うヒトは信じちゃダメ』って言われた事ばっかり言うけど、本当に信じていいんだよね? みーくんの事、見つけてくれるんだよね??」
「――信じてはなりません!!」
「あの嫉妬心丸出しのお姉ちゃんの事は放っておくとして、」
「……“お姉ちゃん”。そこはかとなく良い響きの言葉です。特に旦那様にそう呼ばれてしまいますと、嬉しい様な恥ずかしい様な、複雑な心境、と言うものでしょうか」
「それじゃ、ハカポゥちゃん、そのみーくんってのは“ナニ”なんだ?」
「うん、あのね……首の三つついたでっかいワンちゃんなの」
「成程。首がみっつだからみーくんなんだね、ハカポゥちゃん?」
「うん!」
「ふっ、任せてくれ! 俺にかかればワンちゃんの一匹や二匹見つける事なんて些細な事さ」
「わぁぁ、ほんと!?」
「ああ。だから安心して待っててくれていいよ、ハカポゥちゃん」
「うん! ありがとう、レムお兄ちゃん!!」
「お礼の言葉はみーくんが見つかってから、だ。その可憐な笑顔を俺に贈ってくれるのはまだ早いよ?」
「……うん、わかった」
「――三頭種……と、言う事は魔物の一種で御座いますか。さて? 魔物が――魔種がそうヒトに懐くとも思えないのですが」
旦那様の運はただ今絶好調中。あるいは絶不幸中ともいう。幸運と不運は紙一重とかという奴ですね。
???の技名紹介(気まぐれシリーズ)
≪Srash――慈悲深く刈り取れ≫
通称、死神の鎌。首を落とす。雑草とかを刈り取る時には便利らしい。けどその場合は周りに生き物がいない事を確認してから使う事!
じゃないとその生き物の首が優先的に刈り取られちゃうっぽいぞ!
とある姉妹の騙り合い
「……ロリコン、ではないですよね?」
「……ロリコン、ではないと思うぞ」
「何故そのように自信なさげなのですか、姉様。いつものようにふてぶてしい態度はどこへ行ったのです?」
「愚妹よ、お前こそどうして自信なさげなのだ。お前の神経はもっと図太いだろう?」
「…………今思えばアルも小さかった」
「それを言うな! ……考えないようにしてるんだから」
「でも事実は事実ですから」
「確かに」
「くっ、まさか私たちのスタイルの良さが裏目に来る日が来ようとはっ!!」
「――仕方がない」
「姉様、どちらへ?」
「なに、少しだけ……旅に出ようと思ってな」
「なっ!? 姉様ダメです、と言うよりも虚空なんか見つめて何を見てらっしゃるんですか!?」
「……なあ、愚妹よ。ヒトなんて、やる気になれば何でもできると思わないか?」
「そう、ですね。というより先ほどはつい叫びましたが、姉様がいなくなるならそれはそれで万々歳です」
「と、言う訳で私はちょっと出かけてこようと思う」
「ええ、逝ってらっしゃいませ、姉様。……――黄泉の旅路へ」
「……いや待て、少し忘れ者をした。――愚昧、お前を始末して後の憂いをなくしてから、往くとしよう」
「ちっ、厄介な姉様です事。……素直に去っていればいいモノをっ」