ど-206. 二人目・街角のシルファさん
ちょっと失敗。
「よっ、す。シルファ」
「あ、レムさん。この前、これ忘れて行ったでしょ、駄目じゃないですか、こんな大金!! ……あの子たちは受け取ってくれないし、扱いに困ります!!」
「ん? あぁ、そう言えば忘れてた。態々ありがとな、シルファ」
「いえ、この程度何でもないですけど。それよりもレムさん、昨日の用事ってどんなのだったんですか?」
「気になるのか、シルファ?」
「いえ。それに私、今はそんな事に構っていられませんから」
「構ってられないって何かあったのか、と言うのがばかばかしいほど慌ててるみたいだな」
「そう思ってるならこれ以上私に話しかけて邪魔しないで下さい!」
「いや、それは無理だな」
「どうして!?」
「何故って、それがシルファだから?」
「……、はい?」
「君の事は全て知りたい、なんて言ったりしたら少し軽率過ぎるかもな。でもそれが俺の正直な気持ちでもある」
「……え〜と、私、レムさんの戯言に付き合ってるほど暇じゃないんですってば! 本当に急いでるんです!!」
「ああ、一目見れば判るよ。それに、知ってる」
「知ってる? 知ってるなら……」
「いや、しかし大変だよな。五大商会の一つが“また”襲われるなんてな。ま、死人が出てないのが幸いっちゃ幸いだよな」
「そうです! だから私今から行かなきゃ……」
「行く? どこに?」
「だからダルートン様のお屋敷に――」
「とは言っても今は何も残ってない、ただの更地だぞ。ついさっき見て来たから間違いない」
「……え、でもあれだけ大きなお屋敷が――」
「何も残ってない。綺麗さっぱり、建物も、財産も」
「……」
「それと――シルファの借金の証明書、誓約皮も。…………今なら、踏み倒してもばれやしない」
「っ……そんな事、私しません!!」
「――……、そっか」
「当り前です!! それに、あの誓約皮には特殊な魔法が掛かってるって“あいつ”が言ってたし、仮にお屋敷が焼け焦げてもあの証明書だけは残って――」
「じゃ〜ん。これ、なんだ?」
「……、ぇ?」
「『契約書。私、シルファ・クリミナはここに以下を誓う事を契約致します。一.私、シルファ・クリミナはダルートン商会より金50を――」
「っ、それ、私の誓約」
「当・た・り」
「ど、どうしてレムさんがそれを……って、まさか!!」
「――俺、賢い子は嫌いじゃないよ、シルファ?」
「それじゃ、昨日ダルートン様のお屋敷が誰かに襲われたって――」
「残念、外れ。それは俺じゃない。まあ、俺の知り合いに違いはないけどね」
「そんな、レムさん、何て事を……」
「シルファの為なら高々売奴の一人や二人敵に回すのも苦じゃあ、ない」
「そんな! ダルートン商会は五大商会って言われているほどの大きさで、そんなもの敵に回したら生きてられない――」
「五大商会? なら、残り四つもある。十分事足りるとは思わない?」
「っ、……っっ、レムさん、あなた――」
「何かな? いや、言いたい事は分かるけど、俺は俺だよ。たとえどこまで往こうと、何をしようとされようと」
「――」
「それにね、シルファ。君は一つ勘違いをしている。この誓約皮は不当に手に入れたものじゃない。ちゃんと正式に――そう、正式にシルファの借金を俺が肩代わりしたから持ってる、それだけに過ぎない」
「ならダルートン様のお屋敷がどうして……!」
「――あれはね、あいつらが約束を反故にした。シルファに二度と手を出さないって言う、何よりの条件を無視しようとした。だから、報いを受けたに過ぎない」
「――……、な」
「ねぇ、シルファ? ……いや、そう怖がらなくてもいい」
「――なに? レムさん、貴方、一体…………ナニモノ?」
「……うん、あぁ、そうだね、そうだな。女の子を怖がらせたりなんて、――確かに、こう言うのは俺らしくない。俺に相応しく、ない。あぁもう、本当に駄目だなダメダメだな。まだまだ俺は甘いって、そう言う事か。ふふっ、俄然、やる気が出てくるじゃないか」
「………」
「――シルファ? ねぇ、君に、夢を見せてあげよう」
「な、何…………ぁ」
「スヌーズ――それが転かの夢の様に在れと、君に贈ろう」
「行くぞ」
「旦那様、よろしいので?」
「ああ、あんなのは俺らしくなかった。少し勝気も過ぎたようだ。だから、今度は俺らしく正々堂々と行こうと思う。それに……繋がりは“ここ”にまだ残ってるからな」
「それでこそ、私の旦那様かと」
「あぁ、それじゃあ夢を叶える前に少し寄り道を――世界でも獲りに行くとするか」
「はい、旦那様。私どもも喜んでお付き合い、致しましょう」
でも過去は振り返るなとヒトは云う。
???の技名紹介(気まぐれシリーズ)
≪Graviton――安らかに沈め≫
超加圧で対象を沈めさせる。相手に膝を吐かせる時には便利だけど、心まで屈せられないのが玉に瑕。
山火事の消火作業とかには向いてるらしいゾ!
とある姉妹の騙り合い
「――世界を取る、か。ロマンだな」
「そんな事を思うのは姉様くらいのものです」
「ふんっ、夢のない愚妹だ」
「一応伺って置きますけど、夢と妄想の区別はついていますか、姉様?」
「ああ、少なくともお前にある“女性らしさ”よりはあるな」
「ひ、ひとが気にしている事を抜け抜けと」
「何だ、それでも気にしていたのか。なら忠告してやろうか。姉妹だからって変な希望は持たない事だ、諦めろ」
「い、いざとなれば私には創造の御技が――」
「堕ちたな、愚妹。それも最低辺まで。そんな事を言い出した時点でお前は女として終わっている」
「っ」
「ふふんっ♪」
「そんなに自慢ですか!? ヒト様よりもほんのちょっぴりだけ胸が大きな事がそんなに自慢ですか!?」
「……見苦しい奴め」
「――死ね、姉様。それで、私の禍根が消えてくれます」
「やれやれ、だ。最後には暴力なんて、やはり所詮は愚妹のする事だな。――お前が死ね」