ど-204. 続二人目・トマトマイの街のシルファさん
レム君、絶賛暴走中。
「やあ、お嬢さん、また会ったね?」
「……はぁぁぁ、やっぱりまだいたのね」
「ため息なんて吐いて、どうかしたのか?」
「いいえ、買出しから戻ってくる頃にはもういないかなって……儚い希望でした」
「何はともあれ、溜息を吐くと幸せが逃げていくぞ?」
「幸せ……そうですね。一度や二度ってわけじゃないですし、性質の悪いナンパって事で諦めて置きます」
「別に俺は軟派のつもりはないんだけどな」
「コレがナンパじゃなかったらどれがナンパなんですか、ほんとにもうっ」
「ふむ、ちょっと拗ねた様子も可愛いね?」
「……はぁぁ」
「ところで、君の名前を聞いてもいいかな?」
「……私の名前なんて、ずっとこの店にいたんならもう知ってるんじゃないですか?」
「そうかもしれないな。でも君の口から直接聞きたいんだ。だから、改めて聞くよ」
「お兄さん、変なヒトって言われたりすることありません?」
「ないな。あったとしても周りの風評なんて今の俺には紙くず同然だけどな」
「紙くずって……随分高価ですけど?」
「そうかもしれない」
「……やっぱり変なヒト」
「それじゃ、改めまして自己紹介と行こうか。俺の名前はレム、君の名前は?」
「……シルファ、です」
「ありがとう。シルファ、ね。うん、キミに似合った良い名前だな」
「別に、名前なんて隠すものじゃないですし」
「いや、その考えは改めた方がいいぞ? 性質の悪い奴になったら名前一つで相手に呪をかける奴もいるからな」
「呪なんて、そんな物騒なモノ誰も――、……あの、お兄さん?」
「何だ? それと俺の事はレムって呼んでくれればいいぞ」
「それじゃ、レム……さん?」
「何かな、シルファ?」
「……呼び捨て。まあいいですけどっ。その性質の悪い奴って、レムさんの事とかじゃないです、よね?」
「ははっ、何を言うかと思えば。俺は世界のお嬢さんの味方、そんな無粋な真似をするはずないじゃないか。そうだな、するとすればあいつ――くらいか」
「あいつ?」
「いや、何でもない。シルファは気にしなくていいんだ」
「はぁ? まあ気にしませんけど」
「うん、それでシルファ、時間はあるかな? 俺と一緒にお茶でも一杯どうだ。あぁ、不純な動機は何もない。ただ君と、親睦を深めたいだけなんだ」
「私、見ての通り仕事中です。だから今もレムさんが仕事の邪魔してるせいで凄く迷惑してます」
「ふむ? それは悪い事をしていた。なら“仕事中”に声をかけるのはもう止そう。態々俺の戯言に付き合ってくれてありがとうな、シルファ」
「……いえ。こう言うたちの悪いお客さんを捌くのも仕事のうちですし、って私ってばお客さんに向かって何言ってるんだか……」
「ははっ、素直なのはいい事だぞ、シルファ?」
「……何か、調子が狂います」
「おっと、悪いな。シルファの調子を崩すつもりはなかったんだ。ただ今の俺は少しばかり――自分に正直になり過ぎてな」
「はぁ、見てれば分かります」
「そうかそうか。だから、俺の事は気にしないで仕事を続けてくれ」
「はあ、それじゃあそうさせてもらいますよ……?」
「うん、了解」
「……まだいる、って言うよりずっと居るし。本当に話しかけては――私の方を一瞥すらしてこなかったけど、結局仕事もせずに日がな一日居座ってたし、もしかしてどこかの貴族、とか? ……やだな、今以上の面倒事は御免したいなぁ。どうして男運がないんだろ、私」
この世界では紙は高級品です。つまり紙くずってのは価値の高いものって事ですね?
……まだまだ続く。
とある姉妹の騙り合い
「……傍で見てるとムカつくな」
「……本当に」
「珍しく意見が合う、と言う訳でもないか。この件に関してだけはな」
「ええ、そうですね、姉様。真に遺憾ではありますけど」
「……私も一緒にお茶、したいな」
「……姉様?」
「――はっ!? いや、何でもない、何でもないぞ!!」
「――、……まあ、良いですけど。意外にも姉様にも可愛らしいところってのがあったんですね」
「――なんだ、それは。愚妹、お前喧嘩を売ってるのか?」
「いえ、コレでも珍しく褒めてるつもりですけど?」
「……ムカつく。やっぱり死んでおくか?」
「ヒトが折角……いえ、所詮姉様ですし。そうですね、ここは禍根が残らないように、消えてもらっておくとしましょうか」
「この――大層な事をほざくっ!」
「それは私の科白です!」