ど-203. 二人目・トマトマイの街角で?
トマトマイとは、どこかの街の名前。
「……良い、空気だ。そうは思わないか?」
「温度、湿度、風速、どれも昨日と変わり御座いませんが。旦那様の気の狂いでは御座いませんか?」
「ははっ、お前も上手い事を言うな」
「いえ、上手い事など何も言ってはおりませんが」
「ふっ、お前には分からないのか? 風が、空気が、世界が俺の新たな出会いを祝福してるって事が」
「全く以て分かりません。理解しかねます」
「ふふっ、この違いが感じ取れないなんて不幸な奴だな。いや、あぁ、でも仕方ない事なのかもな。気にする必要はないぞ?」
「気にしませんし今後気にする予定も一切ございません」
「ふっ、分からないからってそう拗ねるなって」
「全く、これっぽっちも、微塵たりとも拗ねるなどと言う可能に行き着く謂れはなく旦那様の存在そのものを疑ってしまいますが、ここはそう言う事にしておきましょう」
「おお。それじゃあ……新たな出会いに乾杯、だ」
「……完敗、で御座いますね、恐らく」
「きゃっ!?」
「おっと」
「ぇ、あ、……あれ?」
「大丈夫かな、お嬢さん?」
「あ、ありがとう御座います」
「何々、気にする必要はない。今にも倒れそうな女性を見かけたら手を伸ばすのは男の当然の義務ってものだから、俺は当然の事をしたにすぎないよ?」
「は、はぁ……?」
「ところでお嬢さん? 俺はいつまで君を支えていればいいのかな、いや勿論君が望むのであればいつまででも――」
「きゃっ!! ……ぁ、その、ありがとう御座いました」
「いやいや、お嬢さんのような可愛らしい娘を支えられて嬉しいとは思いこそすれ、それ以上の感情など湧こうはずもない。むしろ感謝するのは俺の方だ。――ありがとう、お嬢さん?」
「……はぁ」
「ところでいつまでもお嬢さん、と呼ぶのも失礼だと俺は考えるのだが。名前を聞いてもいいかな?」
「……えっと、つまりは新手のナンパ、ですか? なら御免なさい、私それほど暇じゃないんで――」
「軟派? いやいやいや、そう言うつもりはなかったんだ。それよりもあそこの店でお茶でも一杯どうかな?」
「私の話、聞いてますか? それとあそこは私の働いているお店です」
「お、それは偶然だな。それに勿論、お嬢さんの話を聴き逃すなんて失礼な真似、俺がするはずがないだろう?」
「はあ? でも、偶然も何も私、今あそこから出てきたんですけど。今買い出しの最中で――」
「ふむ? 仕事中とは、それは失礼した。お嬢さんの邪魔をする気はなかったんだ。ごめんな?」
「いえ、謝られる事は何もないですけど……あの、私行ってもいいですか?」
「おっと、これは済まない。ああ、勿論。お嬢さんの道を塞ごうなんて野暮な真似、俺はしないさ」
「はぁ」
「それじゃ、またな。……あぁ、それと俺の名前はレムって言う。いや、やっぱり聞き流しておいてくれればいい。次に会う時に覚えてもらう事にするよ。じゃあ、振られた俺は一人寂しくお茶でもしますかね」
「……だから、そこ私が働いてる店。…………って、何、あの変なヒト?」
「……宣言通り、しかも少々探りを入れてみましたが狙ったようにこの街でもほどほどの人気者らしい器量良しの女性の方と出逢われるとは、コレは何と申し上げればよろしいのでしょうか。あの謎の液体の効果? それとも覚醒した旦那様の超直感? ……どちらにせよ傍迷惑なものではありますか」
何か一話完結じゃなくてちょっと続きものになってしまっているのはどうしたものか、と思案中。
でも一話一人も無理があると言う、どうしたものか。
とある姉妹の騙り合い
「私にも一言くらい褒め言葉が欲しいです」
「褒める? 愚昧なお前のどこをどうとれば褒めるなんて奇天烈な発想が出て来るんだ?」
「例えば姉様の様に野蛮ではない所や、姉様には決して真似出来ない女性らしさがあふれているところなどを、です」
「その一言ごとに毒を吐かなければ喋れない口をどうにかするのが先だな、とは言っても生まれついたものでは仕方ないか。一度死んで生まれなおして来い、その方が世の為、何より私の為だ」
「寝言は寝てからほざいてくださいね、姉様? ……その間に私が寝首をかいて差し上げますから」
「――やっぱり殺す、今殺す」
「姉様如きには無理なお話ですね、それは。――返り討ちにしてあげます、姉様」