宴の後で〜孤独に蟲毒な祭りの最中〜
比較的、何故かネタばれが多い。
「皆様、何をなさっておいで――」
「ふふっ、愛い奴等め」
「ぁんっ、ご主人様、そんな……」
「ずるいですぅ、ご主人様、私にもお情けを下さいましぃ」
「私も――」
「私にも――」
「……ミミルッポ、見ちゃダメよ。見ちゃダメだからねっ!!」
「???」
「皆っ、そう慌てるなって。俺はどこにも逃げはしないさ。順番に、順番に、な?」
「「「「「ご主人様ぁ〜」」」」」
『……“れむにぃ〜様”、私も』
「――、さて」
「お、お姉ちゃんっ!! お願いだからどこか行かないでっ、見なかった事にしてどこかに行かないでっ!?」
「……スヘミア様、大変申し訳ないのですが、ただいまの状況を説明していただけると非常に助かります」
「状況……状況って言われても私にも全然分からないよぅ。ただこれを飲ませたら、レム兄様が急に変になっちゃって、そのレム兄様が一言しゃべるたびに皆どんどん変になっていって、お前に点睛まで現れて、ねえ、これって夢なのかな? もしかして私って今夢でも見てるのかな??」
「落ち着いてくださいます様、スヘミア様。そしてこれは決して夢などではありませんので現実逃避離されぬよう」
「……そっか、そうだよね。これってやっぱり夢なんかじゃないんだよね」
「はい。夢などでは御座いません。……それでスヘミア様、そちらの瓶を少々見せていただいてもよろしいでしょうか?」
「う、うん。はい、どうぞ」
「では失礼いたします。……――これはまさか、いえ、ですが」
「お姉ちゃん、これの事知ってるの?」
「知っているも何も、これは“蟲毒”では?」
「う、うん。そう言われてたけど」
「……やはり、ですか」
「やっぱりって、お姉ちゃん、これ――」
「おぉ、ちょうどいいところに来たな。お前もこっちに来いよ?」
「……旦那様。少々お伺いしてもよろしいでしょうか?」
「ん? 何だ、どうした?」
「今、何をなさっておられるのでしょうか? そしてご自身で何をされておるのか正確なご自覚は御座いますでしょうか?」
「そんな当たり前の事を聞くなよ、当然じゃないか」
「では失礼ながら……ご説明いただいてもよろしいでしょうか?」
「ああ、良いぞ。でも何してるかなんて、お前たちなら見りゃ分かるだろ? みんな纏めて俺の愛しい奴隷たちを“愛して”やってるんだよ。女の子には優しくしないといけないからな。……あれ? 女の子に優しくって、誰が言ってたんだったか……っと、まぁんな事はどうでもいいか」
「比較的、どうでもよくは御座いませんが」
「それよりも、だ。確かお前も混ざりたいんだったよな?」
「いえ、その様な事は一片たりとも申し上げてはおりませんが」
「なら混ざりたくないのか?」
「それが二択であるのなら素直に混ざりたい、と申し上げておきましょう、旦那様」
「ならお前もこっちに来いよ。……えっと、フォロゥ?」
「っっっ、私をあんなのと一緒にしないで下さいっ。例え旦那様と言えども不愉快ですっ!!!!」
「おっとと、悪い悪い。間違えた。ならホロンの方か?」
「……私をあんなモノと同じに見られても迷惑です。不愉快極まりない、侮辱です」
「おいおい、ならお前の事をどう呼んだらいいんだよ?」
「只今挙げられた名以外であるのなら如何様にでも」
「良く分からん理由で嫌がるなぁ。どっちだって同じだろ?」
「全く、違います。違うに決まっております」
「……ん〜、ま、いいや。深く考えるのは止そう。考えようとすると何か頭が痛くなってくるしな。――おい“フォロゥ”、いいからつべこべ言わずにこっちに来い」
「っっっ、……――い、今の状況でそれを言うのは卑怯と言うものではないですか、旦那様?」
「ん〜……何がぁ? つかいいから来いって。ほら、お前達もちょっと愛しの『お姉様』に道を開けてやったらどうだ?」
『はいっ、ご主人様! お姉様、さあ、こちらにどうぞどうぞ!!!! ……ふぅ、これでようやく御主人様から解放、んん?』
「スヘミアは……あれ? さっきまでそこにいた気がしたんだが、どこ行ったんだ?」
「スヘミア様……は、先ほど逃げられましたか。賢明な判断ではあります、けれどしかし――ふふっ、この私をよりによって、旦那様のイケニエとしますか、いい度胸ですね、スヘミア様」
「それより“フォロゥ”、ほら、ここここ」
「私をその名で呼ばないでほしいと……今の旦那様には言うだけ無駄ですか。それと旦那様? そのようにご自分の膝をぽんぽんと叩いていらっしゃるだけでは旦那様が何を望んでいらっしゃるのかが理解できかねますが」
「嘘だぁ、お前なら絶対分かってるって。それでも敢えて恥ずかしがってるって言うんなら俺が直接言ってやろうか? ほら、お前の特等席、遠慮せずに俺の膝の上にどうぞ?」
「お断りいたします」
「どうして?」
「旦那様と二人きりの時であるならばまだ考えるだけ考えさせては頂きますが、このように衆人環視の目があるところですと恥ずかしいではありませんか」
「恥ずかしいって、お前が? 面白くない冗談を言うもんだなぁ、はははっ」
「――旦那様?」
「まあ、んな事はどうでもいいから――さっさとこっちに来い」
「っっっ」
「“フォロゥ”」
「――だ、旦那様?」
「あれ? それともやっぱり“ホロン”? つべこべ言わずに俺の膝の上に座れ。そして存分に甘えるがいい」
「っぁ! ……身体が、勝手に……」
「うんうん、そうやって最初から素直に従ってりゃいいんだよ」
「誰も、素直に従ってなど居りません。……それとも旦那様はこのような、無理やり従わせる方がお好きなのですか?」
「ん? いや、そんな事は全然ないぞ。俺としてはただ日頃のお前たちを真摯に労ってるだけだからなっ!」
「……本当にたちの悪い“酔い方”をされたもので」
「よし。ちゃんと座ったな」
「……屈辱です。このような辱めを受けるなどっ」
「ん〜、いい子いい子」
「……とはいえ、これはこれで良いものかもしれませんが。しかしやはり――」
「んー、ちょっと大きさがなぁ。大きすぎるな。ほら、もっとちいさくな〜れ、小さくな〜れ〜」
「いくら旦那様と言えどもそのような無茶な要求は承伏致しかねま――」
「リトル――あぁ、小さなあの頃に戻りたいっ」
「んなっ!? 旦那さ――」
「うわっ、お姉様が!?」
「い、妹様……?」
「は、破滅的に可愛いっ!!」
「ぎゅっ、ってしたい〜」
「あ、でも――」
「今のご主人様にはそれ以上に近寄りたくない」
『うん、うんっ!』
「ん〜、いい感じに小さくなったな。よしよし〜」
「――……屈辱に次ぐ屈辱とは正にこの事。いくら旦那様と言えどもこのような事が許されてよいのでしょうか?」
「なんだ、自分から小さくなっておいて不満でもあるのか?」
「自分から――!? そのような、いえしかし不満と言うのであればこの状況すべてに対して不満が御座いますが――?」
「そうかぁ、それは残念だ。ほら、いい子、いい子〜」
「……とはいえ、今の旦那様には何を言っても無駄なのでしょうね」
「ああ、無駄だぞ」
「ご自分で言わないで下さいませ。ですが旦那様、後で覚えておいてくださいな?」
「嫌だ、忘れる」
「……まぁ、そう言って後悔するのは旦那様の方ですが」
「ふっ、俺は常に後悔しない生き方を選ぶねっ」
「――嘘吐き」
「さあ、ちょうど手ごろなサイズになったって事で――今こそ俺に存分に甘えるが良い!!」
「……それでは、甘えるついでに一つよろしいでしょうか?」
「おう、何だ?」
「と、その前に――申し訳ございませんが、皆さまにはただ今の記憶は忘れて頂きます」
『ぇ?』
「――」
「おーい、もしかしてご乱心? つか、あんまり無茶するなよ?」
「……心配には及びません。私も別段危害を加えたいわけでは御座いませんので。ただ少々――そうですね、先ほどまでの記憶の、都合の悪い所を『壊した』だけですので」
「おいおい、記憶を壊すって、穏やかじゃねぇなあ」
「――それもこれも、総ては旦那様が……いいえ、敢えて言わせてもらいますけど、“れーむ”が悪いんですよっ!?」
「ん? 俺何か悪い事したか? むしろ感謝されてもいいはずだっ!」
「……こ、のっ!! そもそも、よりにもよって“れーむ”が龍種特製の“酔酒”なんて呑むからこんな事に――!まさか製法がまだ残っていた事に関しては驚きですけど」
「おお、珍しく表情が豊かだな、お前」
「感心するのはそこじゃありません!!」
「なら随分と久しぶりにお前が俺の名前を呼んだってところか? うん、いつもの旦那様もいいけど、ちゃんと名前で呼ばれるって言うのもいいモノだよな? そうは思わないか、“フォロゥ”?」
「――ですから、先ほどから……!」
「良く分からないが何を怒ってるんだ?」
「怒りもしましょう。そのように軽々しく、皆さまの前で真名を呼ばれては困ります、屈辱にも程があります。まさか私たちの真名の意味を忘れたなんて――言わせませんよ?」
「何だっけ?」
「……“れーむ”、例え酔った勢いだったとしても冗談なら言わないで、忘れたのなら覚えておいて。私の真名を呼んでも――知っていてもいのは貴方ただ一人だけなんですから」
「んん???」
「……ヒトが真面目に話している時のそのような態度とは、相変わらずいい度胸ですね?」
「そう褒めるなよぉ〜」
「――眠りなさい! 悪酔いしすぎです!!」
長く続ける気はなかったのです。
面白くなくて御免なさい、生きてて御免なさい、存在してて御免なさい。
……と言う事で次回からは通常通りに戻りますので、なにとぞよろしくお願いします。