宴の中で〜孤独に蟲毒な祭りの最中〜
宴は続く、くるくる続く。
「……あれ、俺どうしたんだっけ?」
――ようっ、俺、天使様!
――あの、僕、悪魔ですぅ
「いかんいかん。何か幻覚が見える。ちょっと何してたか思い出せないのだが、何か精神系の、やばい実験でもしてたかなぁ?」
――おう、天使であるこの俺様を無視するとはいい度胸だな、てめぇ!
「や、天使とか言われても」
――ぁ、あの、僕の事も無視……しないで欲しいです
「無視っつーか、なぁ」
――何だよっ!?
――な、なんですか?
「先ず天使、貴様だ」
――何だてめぇ、俺にガンつけやがって、やる気か、このヤロっ!
「煩い黙れ手のひらサイズの分際で何ほざくか。むしろ貴様が何だ。……ていっ」
――うおっ!? ……で、でこピンだとぉ!? 天使の俺様に向かってなんて厚顔無恥な態度……お前、空恐ろしい奴だぜ
「それと次に悪魔」
――は、はいぃ!? お願いだからぶたないで、打たないでぇぇ!?
「うざい黙れ手のひらサイズ二号。つか、お前オスだろ? そのなよなよした態度が無性にムカつく」
――そ、そんな事言っても自分だってぇ……のクセに
「あ? 何か言ったか?」
――ひぃえ! 何でもないです僕は何も言ってないですだから睨まないで打たないでふべっ!?
「だから五月蠅い、ギャーギャー騒ぐな鬱陶しい」
――う、うぅ、お父様にも打たれた事ないのに。お母様にしか打たれた事ないのに
「……もう一度やられたいのか?」
――ひぃぃ!? ごめんなさい、ごめんなさいぃぃ
「――で、だ。何よりも我慢ならない事が一つあるわけだ。おい天使と悪魔、俺の質問に答えろ、もしくは消す」
――ははっ、お前面白い冗談を言うヤ……
――ひ……ひひ、ひぃぃぃぃぃ!? 天使くんが、天使くんがぁぁぁ!?
「さて、悪魔。お前はさっきの奴よりもオリコウさんだよなぁ? だから俺の質問に答えられるな?」
――天使くん!? 天使くんが、天使くんが消え……うわああああああああああ
「あ、そ。つまりお前も俺の質問に答える気はないわけだ」
――ああああ、て、ぇ? いや、そんな事はな
「もう遅い。……で、ここはいったいどこなんだろうなぁ? 見渡す限り何もない場所、つか俺って直前まで何してたんだったかな? ……まずいな、全く思いだぜないぞ」
◇◇◇
「……さて、どうしたものか」
「どうしたものか、じゃないわよ、全く」
「ん? また天使か悪魔のお出、まし……か?」
「そうね、天使みたいに愛らしくて悪魔の様に妖艶であるとは自負してるつもりだけど、それをアンタに思われてもねぇ」
「……参った。これは夢の中か?」
「嬉しい事に夢じゃないわよ」
「夢じゃない……って事は俺は死んだのか。まぁ短くない人生だったけど、終わりなんてこんなものか。あいつらを遺して来て大丈夫かどうかってのだけが心配ではあるな」
「大丈夫。あなたは死んでもいないから」
「これが夢じゃなくって、死んだでもない? ならどうしてあんたがこん――ぶっ!?」
「全く。しばらく会わない内にアホゥにでもなったの?」
「ってぇなあ。いきなり横面殴り飛ばすなんて、なにしやがるっ!?」
「どうやら一度じゃ理解しなかったようねぇ。……ねえ、レム? 私、あなたをそんな子に――母親に向かって“あんた”なんて口汚い言葉を吐くような教育はしてこなかったつもりなんだけど?」
「……うるせぇよ。独りで勝手に先に逝きやがって、バカルナ」
「親に向かってバカはないでしょ、バカは。私だって好きで逝ったんじゃないし……でもそれは悪いと思ってるわ、って、そんな言葉を今の私が言ったとしても仕方ないのだけれどね」
「……どういう意味だ?」
「そうね、ここは言うなればあなたの精神世界で、私は貴方の記憶から作り出された“ルナ”って言う存在。だからあんたに都合のいい言葉しか吐かないし、吐けない」
「俺の都合の悪い……? ならさっきの俺が殴られたのは?」
「さあ? 私がそうできたって事は少なくともあんたにとってそれは都合の悪い事じゃないんでしょ」
「いや、そんな事はない……はず、なのだが」
「自分の事なのに言い切れないなんて、まだまだね」
「むぅ〜」
「それとついでに言っておくとさっき出て来てた悪魔があんたの良心で、天使があんたの欲望ね」
「それって普通逆じゃないのか? 天使が良心で、悪魔が欲望で、とか」
「そんな事私の知った事じゃないわ。それに、早々に『良心』と『欲望』を脱落させるなんて、あんた時々信じられないことするわね」
「脱落?」
「そそ。なんでか知らないけど、あんたの『気持ち』を分割して生まれた私たちは“此処”で潰し合う訳よ。それで最後まで残ったモノが一番ってわけ」
「一番になると何かあるのか?」
「知らない。でもそうするって事だけは分かってるの。だからそうする」
「ふーん。……あ、それじゃあルナは一体俺のどんな『気持ち』を分割して生まれたモノなんだ?」
「んー、『母性』?」
「絶対、違う」
「なによっ、この母性溢れる私に母性がないって言いたいの?」
「ないだろ、てか元は俺なわけだし。そもそもルナだし」
「へぇ、あんたも言うようになったわね」
「伊達にルナより長く生きてないよ」
「……そっか。もうそんなに経つのね」
「あぁ……って、そう言えば『良心』と『欲望』以外の俺の気持ちってのはどこにいるんだ? 見てないけど」
「ああ、それね。“ソレ”ならもういないわよ」
「は? それってどういう、まさか俺には『良心』『欲望』あと何か分からないルナのカタチをしたモノしかないとかってわけじゃないよな?」
「ええ、大丈夫よ。他のレムの気持ちは私が先に潰しておいただけだから」
「へぇ、なるほど。ルナが潰しておいたのね。なら納得できる、よ……?」
「で、理解した?」
「……何となく、した気がする。つまり俺とルナが最後の俺――レムの『気持ち』の分割された姿だって訳?」
「多分、ね。と言う訳だから、せっかく成長した息子と再会できたのに、もうお別れだなんて辛いわ」
「――あれ? 俺、動けない?」
「あ、それね。それって多分私がルナのカタチをしてるからね。ルナ、つまり勝てないって図式があんたの頭の中にあるからよ、きっと。ふふっ、もう私の一人勝ちは決定じゃない」
「いや待てルナ、ルナ様……お母様、待って下さい」
「あんたにお母様、なんて畏まった呼ばれ勝たされると背筋が寒くなるだけだわ」
「それは確かにルナが言いそう……」
「それじゃ、この勝負有り、ね。一体何が起こるのかよく分からないけど、きっと大丈夫よ」
「いやいやいや、ほら、話し合いとかって大事だし? それに協力した方が何かといいかもしれないかもよ?」
「ソレは確かにそうね」
「なら――」
「ううん、そこを裏切るのが、やっぱり楽しいとは思わない?」
「やっぱりルナっぽいー!?!?」
「それじゃ、今度はあんたが先に逝っててね? 何が起こるかは分からないけど、きっとあなたなら大丈夫よ」
「滅茶苦茶根拠のない言葉!?」
「大丈夫だって。それともあんたは私の育てた自慢の息子を信用できない?」
「……その言い方はずるいなぁ、ルナ」
「勝つためには手段を選ばず、ってね。じゃ、短い間で――たとえそれが本当に幻の記憶だったとしても、楽しかったわ、レム」
「あぁ、俺も。母さ――」
――あぁ、最後に本当の事を教えておいてあげるわ。私の『気持ち』は『約束』よ。それとあんたは――『絆』。……だから言ってるのよ、自慢の息子だ、ってね
「――」
――あ、それと最後になるけど、ストーカーの自称女神にはちゃんと気をつけないと駄目よ? あと、口を酸っぱくして言うけど、女の子にはいつも優しく――
本題はもう少し先になりそうです。
そもそも蟲毒ってのはあれですね、毒虫を互いに食い合わせて、一番強い毒を作る、みたいな?
そのヒトバージョン