ど-195. 刺激、ぷりーず!
メイドさんは狙っている
「なーんかシャトゥが出て行ってから気の抜けた生活を送っている、と俺は思う訳だ」
「そうでしょうか? 相も変わらず日に数度の命の危険にさらされておられる旦那様の科白としては素晴らしくヤル気に満ち溢れたもので御座いますね」
「…その半数にお前がかかわっている事を俺は知っている」
「それが何か?」
「…いや、今更過ぎるし何も言う事はないけどな。それで、とにかくちょっと刺激みたいなモノが足りないんじゃないか、と俺は思う訳だよ」
「つまり旦那様は新展開を望んでいらっしゃる、と」
「新展開ってなんだ?」
「さて? 旦那様が望まれているものですので、今のような時が続けば良いと唯只管に平穏を望んでおります私としましては一切の興味関心も御座いませんし、ましてや見当もつきません」
「俺だって別に刺激強すぎな事は望んでないんだぞ? ただちょっと日常に彩りを、程度の事があればいいかなーって思ったり思わなかったりしてるだけだ」
「そうで御座いますか、日に少なくとも三度死にかけるのは旦那様にとっては刺激にもなっておりませんか」
「いや。それは断固として否定したい。俺としてはもっとだな、こう、楽しい方向での刺激がほしいわけなんだ」
「旦那様は楽しんでおられなかったのですか!?」
「いやムカつくな、おい」
「これしきの事、お褒め頂くまでも御座いません」
「…とにかく、だ。何か楽しい事、俺にとって嬉し困ったようなハプニングが起きてくれないかなーと思っているわけだ」
「そうで御座いますか」
「ああ、そうなんだよ」
「では――」
「な、なんだ?」
「起きないのならば起こしましょう、旦那様」
「――おぉ! それはグッドアイディアだな。んで、楽しい事って何か思いついたりするか?」
「では僭越ながら私めの意見を述べざせて頂きますに、世界征服などはいかがでしょうか?」
「…いつもならここで否定するところだが、敢えてその案に乗って見るのも悪くないかも、っと今の俺は思ってたり思ってなかったり」
「旦那様の旦那様による、ただし旦那様の為では決してないであろう世界征服の手段としてこちらに10億飛んで301の方法がご用意できておりますが、どれになさいますか?」
「……できるなら俺の為の計画を用意して欲しいぞ?」
「旦那様もご無体な提案をなされます」
「え、これって無体なのか? 俺が俺の為に世界征服するのって無体な事なのか!?」
「ですが旦那様の望みならば、それが不可能な事であれ可能にして見せるのが私の務めなればこそ、旦那様のその決して叶わぬ望み、叶えて見せましょう」
「自分で矛盾したこと言ってるって分かってるか、お前?」
「ええ、当然心得ておりますとも。ですがやってやれない事はない、と私は考えております。昔から言うでありましょう? 無理を通せば――」
「道理が引っこむ、ってか? あれは単に力づくで自分の意見を推し進めてるだけだぞ。それに実際は道理が引っ込んでるわけじゃないし」
「いえ、無理を通せば旦那様が痛がる、と私は申し上げたかったのですが」
「痛がる!? 俺が痛がるって、どういう事?」
「さて、なにしろ昔から言われている事ですので、私にもこの言葉で何を言いたいのか、えぇ、はっきりと解かりますとも」
「むしろお前が昔から言ってるだろ、それ」
「そのような事も御座いました、と記憶しておりますが?」
「……よしっ、それじゃあ『俺に優しくて楽しそうな、ちょっとびっくりするハプニング』を考えておくように! 分かったな?」
「それが旦那様のお望みであるのなら」
「うん、てかやっぱり刺激がほしいんだよ。いや拳を握りしめるな、そういう直接的な刺激じゃなくてだな。……むしろ俺は新しい出会いを求める!!」
「…はぁ」
「何だよ、その『またいつもの病気が始まりましたか』みたいな溜息はよぅ?」
「流石は私の旦那様、正にその通りに御座います」
「当たってても全然、嬉しくねー」
「景品はこちら。南の浜辺でちょっぴり照れ屋なメイドさんとラブラブいちゃいちゃできる券――」
「………さて、仕事に戻るか。そう言えばシャトゥの手紙、しばらく来てないな。どうしたんだろうな、シャトゥの奴」
「――実に久方振りに、本気で、少々旦那様に殺意を覚えました」
旦那様はメイドさんの反感を買いました。
旦那様はメイドさんの反感を買いました。
Let's 下剋上?
とあるお方のコメント×2
「……まったく、あの子もダメダメねぇ。ちゃんと女の子には優しくしなさいって教えたつもりだったけど、まだ甘かったかしら?」
「――」
「あら? 女神様、珍しく黙ったままで、どうかした?」
「う……羨ましい。私も愛し子とらぶらぶ――」
「……あ、そう。じゃあ得意の妄想の中だけで頑張ってね?」
「う、うぅぅ……って、誰が得意の妄想か、誰がっ。無礼にもほどがあるぞ、出来損ない!!」
「貴女様以外誰もいないわよ、女神様」
「――その笑顔が憎い! できそこないの分際で!!」
「でも私に手だしが出来ない女神様、そう言う所、可愛いですよ?」
「全く以て、嬉しくありません!」