ど-170. 二人の日常
巣立ちの後?
「ほろり。子が巣立つというのは寂しい様な、嬉しい様な、複雑な思いに御座います」
「そうだな。…つーても俺は今まで親になった事とかないから正直な所は分からないけど」
「それは私も同じに御座います」
「そー言えばそうか」
「はい。ですが旦那様がお望みとあらば私はいついかなる時と場合でも至上の喜びを以て……ちらり?」
「でも今回のシャトゥの事だって似たようなものだろ?おまえ、親代わりを自称してたし」
「ご返答はなしで御座いますか。流石はつれない旦那様。……しかしそうで御座いますね。そのような意味では此度の事は私にも大変感慨深いものに御座います。これを機にステップアップを」
「しなくていい。しなくていいからな?」
「…そうで御座いますか」
「残念そうにするなぁ」
「それはもう」
「っと。あんまり深くは突っ込んでやらないぞ?明らかな地雷地帯だからな」
「本当に、つれない旦那様であります事」
「そう言うなって。それはそうとシャトゥの奴もついに独り立ちかぁ。思い返せば、こう…………随分とお前に毒されてるよなぁ」
「えへん、に御座います」
「わざとらしく胸を張るな、偉そうにするな。無性に殴りたくなってくるから」
「流石は旦那様であらせられますね。ご自分の思い通りにならない事はすぐに暴力で解決なさろうとされるなど、言葉で表し尽くす事も憚られる利己主義っぷりに御座います」
「…と、言いつつ日頃暴力を振るわれてるのは俺の方だけどなっ?」
「そのような驚愕の事実が!?…旦那様、どなたに危害を加えられているのです?至急、対策を取らねばならないと私は考えます」
「お前以外に誰がいる?」
「と、一瞬は思ったのですが良く考えてみればそれは旦那様の純然たる趣味で御座いましたね?今更気にする必要はない、と言う事です」
「勝手にヒトの趣味捏造するのやめようよ、ねぇ!?」
「嘘も通せば真となる、とは昔の方もよく言ったものに御座います」
「それは絶対、こんな場合には使わない。普通はもっとポジティブな思考に使うべき言葉のはずだ」
「ちなみにただいまの発言は嘘では御座いませんので敢えて訂正する必要もないと私は判断いたします」
「嘘だからっ!!つか俺にんな趣味は本当にねぇよ!!」
「私は旦那様の事を旦那様以上に存じ上げている自信が御座います。…ぽっ」
「…それは、その言葉はこういう時に聞く言葉じゃないよな、絶対。ついうっかり洗脳されそうになる」
「洗脳などと…そのようなご謙遜を」
「謙遜なんて一切してねぇよ!?だから何度も言わせるなって。俺にそんな趣味は断じてないって何度言えば分かると――」
「ちなみに今の『そんな趣味はない』発言は通算三億回目に御座いました。おめでとうございます、旦那様」
「……そ、そんなに言ってたのか、俺。つか、それだけ言っても直らないって、どれだけだよ、お前?」
「直らないわけでは御座いません。単に直そうとする意志が欠如しているだけに御座います、旦那様」
「そっちの方が性質悪ぃ!?」
「実に久しぶりの旦那様との実りのある会話。…楽しいですね、旦那様?」
「全然!楽しくねぇよっ!!!!」
「そうとも申し上げるかもしれませんね?」
「そうとしか言わねえよ!!」
「…ふふっ」
「お前が笑えば俺が泣くー!!……て、ふざけるなー!!!」
「ご自分で仰られておきながら、理不尽ですね、旦那様」
「そうだよ!この世は全部が理不尽ばっかりだ!!主にお前の発言とかな!?」
「さて、何の事でしょう。と、惚けてておくのが最善と判断いたしましのでこの場はそのように発言しておくと致しましょう。旦那様、おほめいただきありがとうございます」
「前半と後半で言ってる事が違ぇ!!しかも常々言ってるが俺がお前をいつ褒めた!?」
「そんな、綺麗なだのと本当の事を今さら仰られずとも…」
「ど・こ・に!そんな発言があったんだよ!?」
「旦那様の隠されたお心を受信してみました」
「思ってないし隠してもいない!……て、お前まさか本当に読心とかの特技持ってないよな?」
「仕事を思い立ちました。では失礼いたします旦那様」
「明らかな話題転換!?てかこれをそのまま何も言わずに放っていくのか?本当に放って??………え、マジですか???」
「――ふふふっ、っといけませんね。もう少々気を引き締めなければ」
割と唐突、シャトゥは旅立ちました。
きっと立派な女性になって帰ってくる事でしょう。…立派、にも色々とある。
旦那様の今日の格言
「静かなモノだな」
メイドさんの今日の呟き
「…ふぅ、何とも言えぬ心地です」




