ど-19. 切る
殺人は犯罪です。気をつけましょう。
伐採は犯罪ではありません。泣き喚きましょう。
「や、止めろ。何か怨みでもあるのか…?」
「怨み、ですか?……ふふっ」
「何だー!?その意味有り気な笑みは何だよっ!?つか、いい加減その刃の切っ先を退かせ!!冗談でも本気でもどっちでもいいから兎に角止めろー!!!!」
「可笑しな旦那様。何も怖がることなんてありませんよ。はい、例え感じたとしましても痛みなど一瞬で終わります。心配には及びません。なんと言っても私は綺麗好きですから」
「綺麗の意味違うー!?」
「流石は旦那様で御座います。私が今用いました“綺麗”は仕事がスムーズに済む、と言う意味で用いた言葉でございます。最も私が綺麗好きであることに変わりは御座いませんが」
「や、説明されずとも分かるから、それくらい」
「では旦那様、そろそろお覚悟なされたらいかがでしょう?これ以上の抵抗は見苦しいものと思われます……いえ、訂正いたしましょう。旦那様の存在自体が理不尽であり見苦しいものである以上今更抵抗を止めようと無意味でしたか。存分に抵抗なさってください、旦那様」
「見苦しいの意味も違うー!!」
「それは…いえ、説明は不要でございましたか。失礼致しました」
「いや、説明が不必要なところで説明して必要なところで説明しないのはどうかと思うぞ、俺は」
「その様でしょうか?」
「ああ、多分」
「……では。先ほど私が用いました見苦しいというのは通常の見ていて不快である、等の意味ではなく旦那様を見ていると私の胸の辺りが苦しくなってくる、と言う意味合いの文字通り見ていて苦しいという用法で用いました。……常々思案しているのですがもしかして私は何か悪い病気にでもかかってしまったのでしょうか?多々不安であります」
「不安ならせめてそれらしい顔を…て、だからいい加減それを向けるの止めょうよっ!?」
「それは無理でございます。こうなる事は少々以前より分かりきっていた事、先ほどその様に申し上げたはずです。では、神妙に……御覚悟」
「や、やめ…あ、ああああああああああああああああ!!!!」
「煩い」
「ぃてっ。て、何するんだよっ。殴るなよ」
「小突いただけです」
「同じ事だ。…うぅ。たく、少しくらい感傷に浸らせろって」
「それは無理なご注文でございます、旦那様。私は先ほど煩い、と申し上げました。それに…旦那様がこの花々を大変大切にお世話していらっしゃる事は周知の辱めでございますが花とは愛でていかがなものかと?毎度の事ながら数輪頂くだけでこのように騒がれましては私そろそろ本気で――怒りますよ?」
「……で、でもなぁ」
「そう言えばたった今思い出しました。料理部の方々が食卓を飾るための花を御所望していらしていたはず。それに医療部、処理部で必要と申されていた薬・毒用の花々が丁度こちらにあるではありませんか。被服部でも染料と香り付けに花を欲しいと申されていましたし、清掃部での薬品には丁度あちらに咲いています花弁を用いる事が出来たはずですね」
「………」
「では」
「す、すまんっ俺が悪かった。だ、だから後生だ頼むこれ以上の無体は止め…ああああああああああああああああああああ」
「心配は必要ございません、旦那様。必要分を頂いても数本程度は残るでしょう」
「慰めになってねぇ!?!?」
「さて、では“狩り”ましょうか。……そう言えば、この花壇が旦那様のお時間を横取りしているという考え方も出来るのですね。これが一切二実、一つを切り二つの実を得るというものでしょうか」
「ああ、それはメアリー、それにアラッム、ムーサ、ヒルデヒアァァァ!!!」
「花々に尽く女性の名前をお付けになられれるとは流石は旦那様と申し上げるところでしょうか。しかしこれは………うっかり全て切り取ってしまいそうになります」
本日の一口メモ〜
『庭の花壇』
館から少し離れた場所にある花壇。レムくんの趣味と実益を兼ねた超高性能空間。土壌や空間に魔法をありったけ掛けていて常に花々にとって最良の環境科になるように設計されている。お花たちの楽園。
花には一つ一つ名前が付けられていてレムくんはそれはそれはもう大切にしているらしいよ。ちなみに全部女性の名前。現実逃避とは言わないでほしい。
キミ達は常に狙われているっ!?
まぁ、メイドさんがハサミを持って虎視眈々と狙っているのですよ(汗)。