ど-162. 連想ゲームは一歩間違えると悲惨
後の祭り。
「…何か、気力を使い果たした」
「つまり今が好機と判断してもよろしいのでしょうか?」
「何の好機だっつーの」
「それは黙秘させていただきたいと申し上げます。ですが旦那様、如何なされたのですか?」
「いや、何か奴隷たちの企みを前もって潰してみたら『横暴だ!』とか『不条理だ!』とか『朴念仁!!!!』とかなんとか散々言われてな」
「…企み?」
「ああ、シャトゥに聞いた。なんでも包丁を持ちながら話し合ってたとかなんとか。そう言えばお前も満足気にその場に居たってシャトゥは言ってたぞ?」
「包丁、それに私が満足気に、で御座いますか」
「ああ。…しかし大体、最後の『朴念仁』とか、意味わかんねぇしよ。そう言うのは鈍い奴に使う言葉だろ?」
「………、――あぁ、あの時の?」
「判ったか?」
「ええ。ですが旦那様、旦那様は真実、その企画をお潰しになられたのですか?」
「ああ、当然だろ?そうじゃないと俺の命が危ないだろ、いくらなんでも」
「命が……。ある意味ではそう、とも言えるかもしれませんが旦那様であるならば大丈夫かと、私は存じ上げましたが…?」
「いや、無理だろ。普通に考えて」
「そう、なのですか?」
「ああ」
「………そうなのですか」
「?なにか歯切れが悪いな。何かおかしな事でもあるのか?」
「いえ、御座いません。それに旦那様が黒と言えば世界中の人々の腹の中もどす黒いものであると認めないわけには参りませんし、私に申し上げる事は御座いません」
「ならいいけど……微妙に心の奥底で警告音が鳴ってる気がするんだが気の所為か?」
「気の所為で御座いましょう」
「なら、良いんだけどな」
「はい。旦那様が深くお考えになられる必要は御座いません」
「…それはそれで嫌な言い方だな?」
「ですが真実ですので。たとえ旦那様にそう仰られたとしましても私には真実を語る口しか持ち合わせてはおりませんので」
「あ、そ。その口が聞いて呆れるな」
「ですが旦那様を飽きさせは致しません」
「…それでうまいこと言ったつもりか?」
「いいえ?」
「……まあいい。つー事で俺は今疲れてるわけだから、お前の戯言とかにつき合ってる余裕はないわけだ。ちょっと一人にしてくれ」
「了解いたしました。旦那様のお話を伺いまして、私にも一つ仕事が増えた様子ですので」
「?よく分からんがお前もちょうど用事があるって言うのならちょうどいいや。…ついでにシャトゥにもこっちに乱入してくるなって伝えておいてくれよ?」
「はい。重々承知いたしました、旦那様」
「んじゃ、そう言う事だから」
「はい。………しかし旦那様も常々言動と行動が矛盾しておられる方ですね。折角、皆様方がお考えになられていた“あの”企画をまさかご自身でお潰しになられるとは。情報源はシャトゥらしいですが、どこかで情報の齟齬でも?……まあ詮索しても詮無き事。早く皆様方を慰めに参りましょうか」
そして今日もまたメイドさんの人気が上がる。
旦那様の今日の格言
「見えないところこそ大事だ」
メイドさんの今日の戯言
「旦那様が仰られると説得力が御座います」