ど-160. 汝、求めるなれ
ちょっとだけ真面目なお話?
「ふぅぅぅぅぅぅ、はぁぁぁぁぁぁぁ、………」
「――旦那様」
「…、ん?」
「こちらにおられましたか、旦那様」
「あぁ、お前か。どうした?」
「いえ、それよりもお邪魔してしまいましたでしょうか?」
「んー、…いや、大丈夫だ。んで、何か用事か?」
「いえ。旦那様のお姿を見かけましたもので、お声を掛けさせていただいた次第に御座います」
「んー、そうか」
「それで旦那様は何を――いえ、聞くまでも御座いませんでしたね。御寛ぎのところ、申し訳ございませんでした」
「ゃ、別に声をかけられるのは構わない、てか無視されるよりはマシだしな」
「そうで御座いますか」
「…嬉しそうだな?」
「いえ、それ程でも御座いません」
「ああ、そう。……んで、嬉しいのか?」
「しつこいですよ、旦那様?」
「いや、だってなぁ?なーんかお前がいつもより機嫌よさそうに見えるんだけど、俺の気の所為か?」
「相も変わらず異な事を仰られます。常々の事では御座いますが旦那様、一度全面的に改心なされてみてはいかがです?」
「何でそういつも無駄に毒舌なんだ?…でもなぁ、やっぱり機嫌が良いように俺には見えるぞ」
「ですからそれが異な事である、と私は申し上げております、旦那様」
「は?どういう意味だ?」
「旦那様が心安らいでおられるのならば、私にとってこれ以上嬉しい事がないのは至極当然の事に御座いますれば、この私が嬉しそうなどと今更な事を申し上げずとも宜しいでしょうに」
「………」
「旦那様?」
「…あぁ、や、今ちょっといつもの日常を振り返って見てたところだ」
「そうでしたか」
「なあ?」
「はい、何で御座いますか?」
「たまーに分からなくなるけどさ、結局のところお前の求めてるものって一体何なんだ?」
「…それも些か今更では御座いますが、旦那様がその問いの答えをお求めとあらば謹んでお答させて頂きましょう」
「ああ。んで?」
「それは当然旦那様の幸せに御座います」
「…そうかぁ?」
「はい」
「即答だな?」
「はい、こればかりは、如何に旦那様と言え譲るわけには参りませんので」
「そうか。んー、まあ、お前らがそう考えてるなら俺は何も言うつもりはないけどな。…んー、まあお節介ではあると思うけど、自分の幸せも忘れずにな?」
「旦那様のお心遣い、感謝いたしましょう」
「んー」
「ですからこそ、私は求めましょう。それは……――飽きもせず適度な刺激を、悔いもせず穏やかな日常を。何より旦那様のお求めになる、ささやかな微笑みと一束の花束で彩った日常を」
メイドさんは常に旦那様の事を一番に考えております。普段の行動も旦那様の事を思えばこその行動………だと思う。
旦那様の今日の格言
「…幸せを求めるべき、か」
メイドさんの今日の戯言
「今宵の一杯の味は――格別です?」