ど-152. 石っころ
石っころ、ヒトによっては、宝物?
「元気をお出しくださいます様」
「ヒトの部屋に訪ねて来て一言目がそれか」
「最近、旦那様に元気があられない様でしたので少々励ましてみました」
「あぁ、そうなのね。んで、今日は一体何の用事だ?」
「ですから旦那様を励ましに…」
「んな戯言はもう良いから、本当の要件は何だよ?」
「――」
「…て、あれ?何か空気が重い気が……。まさか本当に俺を励ましに来ただけ、とかない、よな…?」
「……悲しい事に御座います」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。もしそうなら俺って最低じゃないのか?いや悪い、俺が悪かった!」
「…本当に、本心より悪いとお思いになられているのですか?」
「思ってる!思ってるから…まぁ元気出せって!」
「……」
「あ、あのぉ…?」
「では旦那様」
「はい!!何でございましょうか!!」
「ご報告申し上げますに、本日明朝帰還いたしましたリッテ様が地上より魔晶石をお持ち帰りになられました。至急対策が必要かと存じ上げます」
「……はい?」
「旦那様の常に蕩けておられる頭にはご理解いただけなかったご様子ですので旦那様でさえも理解できるよう再度申し上げさせていただきます。旦那様の尊厳程の大きさの魔晶石――通称『魔を呼び込む死の嘆き石』をお持ち帰りになられましたので、どうか処理の方を旦那様に行っていただきたく、ご報告に参上いたしました次第で御座います」
「……ああ、魔晶石ね。つかそんな危ないもんをリッテの奴持ち帰って来たのかぁ。そのうち好奇心で死ぬぞ、あいつ」
「旦那様がついておられるのでご心配には及ばないでしょう。少なくとも私はそう妄信させていただきます」
「あぁ、そりゃお前の期待を裏切らないように気をつけなきゃ、………じゃ、ねぇよ!!」
「どうかいたしましたか、旦那様?」
「どうかいたしましたか?…じゃないっつーの。てかさっきまでの俺の気遣いとか励ましは何だったんだよ!?返せよこのヤロ!」
「それは旦那様が勝手に勘違いなされただけと判断しております。実に私の思惑通りに御座いました」
「…それは既に勝手に勘違いしたとは言えない。そもそもお前が扇動したんだろうがっ」
「それは語弊というものに御座います。私が考えていた事を極々偶然に旦那様が勘違いなされただけでは御座いませんか」
「だからっ、それが既にそそのかしてるって言うんだよ!……って、今はもしかしてこんな実もない言い争いをしてる場合じゃないのか?」
「十分に充足した実は御座います、と答えて置きますが。確かに旦那様の仰られる通りあまり時間に猶予があるとも言えません。ただいま魔導部の数名が尽力を賭してはおりますが、それでもあまり長続きはしないでしょう」
「…そもそもさ、俺が向かわなくてもお前がいれば何とかなるんじゃないのか?」
「いえ。魔晶石とは少々相性が悪いものでして…」
「――あぁ、そっか。お前ってそう言えばそうだったよな。忘れてたぜ」
「旦那様はうっかりさんで御座いますね♪」
「……声だけ愉快そうにしつつ絶対零度の視線を送ってくるの、止めていただけません?」
「お忘れになる旦那様が悪いのです」
「ああそれは俺が悪かった…って、のんびりとしてる場合じゃなかったんだったな」
「はい」
「んで、魔晶石はどこに保管してるんだ?」
「はい、魔導部の部室に何重もの結界を張り直して保管中に御座います。魔導部の皆様が倒れられる前においで下さいますよう、お願いいたします」
「ああ、ってか今すぐ行くって」
「そうですか。では僭越ながらこの私が先導をさせていただきます」
「ああ、任せた。……それにしても魔晶石、ね。呼びこまれた魔とかはいないのか…て、のんびりとしてるみたいだから大丈夫なのか」
「はい。数体の【小厄災】が魔晶石に引きずられてきましたが問題御座いません」
「って、【小厄災】!?十分すぎるほどに問題がある気が…」
「いえ、問題はないでしょう。ただいま彼らはシャトゥ、ならびにルルーシアの戯れ相手になっておりますので」
「………あー、そう。それは大丈夫、なのかなぁ?」
「歯ごたえのある相手と巡り合えて嬉しい、とシャトゥも言ってました」
「ゃ、それは絶対お前が吹き込んだ言葉だろ?」
「さて?旦那様の存外、シャトゥの本心かもしれませんよ?」
「――まさか」
「………さて、旦那様はやはりまだまだこの手の機微には疎いようで。いえ、それでこそ旦那様である、という事でしょうか」
「お前、何ぶつぶつ言ってるんだ?」
「いえ、何も。それよりも少しばかり急ぐと致しましょうか、旦那様?」
「ああ、そうだな」
「では――」
リッテ
処理部の好奇心旺盛な、奴隷の女の子。初めて見たキノコがあると口に入れてみたりなんかして…(沈黙)
ルルーシア
通称、ルル。赤い瞳、灼耀の飛竜。シャトゥの舎妹?その二。ちなみにその一はファイさん。
『魔晶石』
【厄災】の念のようなものが籠った、黒い石ころ。使いようによっては兵器にもなる凄い奴。でも【厄災】を呼び込む性質がある。
ちなみに【厄災】とは『黒き髪と瞳を持つ、「滅び」を内包した存在』である。要は髪か瞳が黒っぽければ【厄災】?
旦那様の今日の格言
「いつであれ準備は万全に。これ基本だな」
メイドさんの今日の戯言
「…用意周到。ですが効果なし」