ど-150. 光の先
それは、神々しいものでした。
「光が…光が見える」
「旦那様が何を見て光が見えると仰られているのかは分かりませんが、周囲は十分に明るいと私は感じておりますが?」
「ふっ、お前にはこの光が見えないのか。それはそれは…」
「…旦那様にそのように見つめられては私、困ってしまいます」
「これがまさに悟りを開いたって事なんだな、と実感するぜ」
「それは大変ようございました。可能ならば私にもその様子をご説明していただきたいのですが、よろしいでしょうか?」
「おう、今は気分がいいからな、大抵の事は聞いてやってもいいぞ」
「ありがとうございます、旦那様。では只今の御気分の程は如何なものでしょうか?」
「うん?何かすべてのものから解放されたように清々しい気分だな。後、妙に充実してるって言うか、何か世界が充実してるって感じだな」
「…そうですか。では体調は如何ですか?」
「体調?…うーむ、特に何も。悪い気もしないし、特別良いって感じでもないな。まあいつも通ってところか」
「……そうですか」
「しかしさっきから何だよ?どうにも違う意図で聞いてきてる気がするんだが?」
「………では旦那様、改めまして進言させていただきます」
「ん?なんだ、改まって…」
「そろそろ、こちらにお戻りください」
「…、どういう意味だ?」
「どうもこうもございません。言葉通りの意味に御座いますれば旦那様、早く御戻りくださいます様」
「だからどういう意味だって…」
「では私のほうから旦那様の御様子を説明させていただきましょう」
「うん?」
「私の視点からでは旦那様のお体調は……決して宜しいものではありません」
「なんだ?何か微妙に気になる物言いだな?」
「旦那様にも分かりやすく端的に申しますれば……――危篤的状況、と申し上げるのがよろしいでしょうか?」
「うん?別にそんな気はしないわけだが…お前が言うからには間違ってない、のか?」
「それと旦那様もう一つ申し上げさせていただきます」
「…なんだ?」
「私は只今旦那様とは異なる方向へ語りかけさせていただいております」
「なんだ、失礼なやつだな」
「ですが旦那様、旦那様のお声がこちらの方…旦那様のお体のやや上方でしょうか、そちらから聞こえてくるのですが?」
「………」
「それでは改めさせて旦那様」
「つ、次は何だよ!?」
「只今活を入れさせていただきますので、少々の御覚悟を」
「は?っ、ぐげっ!?」
「――旦那様、お早う御座います」
「げほっ、げほっ………、い、今のは?」
「――さて。俗にいいます臨死体験、と言うものではないかと想定いたしますが?」
「うげっ!?」
ま、これもある意味レム君の日常風景って事で。
…死にかけが日常って、どれだけなんでしょうね?
旦那様の今日の格言
「ふむ、なかなかいいものだった」
メイドさんの今日の戯言
「私は二度と御免で御座います」