ど-146. 人生の主役
誰だって時には人生の主役になるものです…ヒトなら?
「人生、そこだっ!って時が誰にだって必ず一度はあるじゃないか」
「そうで御座いますね。旦那様には既に縁のない話ではあると存じ上げますが」
「それはどういう意味だ、それは?」
「言葉通りの意味ですが?もしや旦那様はこの程度の言葉の理解すら不可能なほどに退化を遂げてしまわれたのでしょうか。それは大変めでたい事にございま」
「んな訳あるか。つかめでたいってのはなんだ、めでたいってのは」
「言葉通りの意味ですが。もしや旦那様は――」
「や、それはもう良いから」
「…そうですか」
「お前が落ち込んでる理由は無視するとして、だ。一応改めて聞いておこうか。俺が退化して目出度いってのはどういう了見なんだ?」
「旦那様の扱いがより一層楽になります」
「――………そうかぁ」
「旦那様?」
「何だ?」
「軽い冗談で御座いますので、あまり本気には取られないよう、なにとぞよろしくお願い申し上げます」
「…ま、俺はちゃんと解ってたけどな」
「そうで御座いますね」
「で、なら本当の理由は一体何だって言うつもりなんだ?」
「…………鑑賞用の旦那様」
「――は?」
「ですから“愛でたい”と、申し上げました」
「……」
「……ぽ」
「で、人生誰にだって一度はあるだろう“そこだっ!”って時なんだけどな、」
「はい、先ほどの旦那様には縁のないお話の件で御座いますね」
「まだ言うか」
「事実ですので致し方御座いません」
「いや、きっと俺にだって」
「御座いません」
「ゃ、あるだろ多分――」
「御座いません」
「…つか、何故にお前はそこまで言い切る?」
「何故も何も、私には至極当然の事を申し上げているにもかかわらず旦那様が納得されないのが理解致しかねますが。いえ、旦那様のお心を理解しようなどと、そのように大それた事、片手間でも十二分である程度では御座いますが」
「だから誰にだって人生の選択の一度くらいはあるだろ?って話なわけだが……ま、まさか既に人生をお前に束縛されてるっぽい俺には自由はないとか、そんな理論じゃないだろうな?」
「旦那様を束縛などそのように無駄無意味無価値時間の浪費以外の何事でも無い事など私は致しませんので、どうかご安心を」
「…ほっと出来てないのはなんでだろう?」
「心配には及びません。私は何時如何なる時であろうと旦那様のお傍を離れる事はあり得ません」
「誰もそんな心配はしていない。つか、離れる時くらいはあるだろ?」
「心の問題です。とは申しましても低劣下劣卑劣の三劣を見事お揃えになられておられる旦那様には具申させていただいても無駄な事に御座います」
「お前は一言言うのに二言三言余計な事を言い過ぎるな?」
「度重なる自己確認が必要であると判断しております」
「むしろ次第に『それもそうかなぁ』と洗脳されかけている自分自身が俺は怖い」
「在るがままに受け入れるのが最良かと」
「これ以上俺を惑わすなっ…って、そもそもこんな話をしたいんじゃない」
「そうなのですか?」
「驚くな、お前が驚くな」
「しかしまだその話題が続いておられたのですか、旦那様?」
「初めからこの話題しかしてないよ!つかお前の所為で大幅に話がずれてるだけじゃねぇか!?」
「それは申し訳ございませんでした。では旦那様のお気の済むように、お話しくださいますよう。私はどのような必要性のない語りであろうと謹んで聞き入れる覚悟を今定めました」
「…ああ、もういいお前には聞かない。つか他の奴に聞いてくる事にする」
「旦那様の戯言を聞き入れて下さるようなお方のこの館内には唯の一人もおりませんが旦那様は如何なされるおつもりでしょうか?」
「そんなことあるわけがないっ!!」
「……行ってしまわれました。しかし、ただいま皆様方は館内部には唯の一人も居られないのですが、旦那様は何をされに向かわれたのでしょうか?それに大体、旦那様の“ここぞ”という瞬間などそれこそ吐いて捨てるほどお持ちになられているというのに、何を今更…」
ある意味でレムくんは無駄な方向に輝いています。昔はそうでもなかったかもしれないですが…少なくとも今は輝く方向性を間違って進んでおります。
…最近ちょっと淡々としすぎていて刺激がほしいかな?とも思ったりする今日この頃。
レムくんの努力はいつだって(ほぼ)無駄な方向に終わるのです。
旦那様の今日の格言
「俺は今…輝いているっ!!」
メイドさんの今日の戯言
「――戯言を」