ど-145. 後ろに誰かいる
暗い夜道に気をつけよう
「――誰だっ!?」
「我だっ!!」
「…何だシャトゥか。つかこそこそしてたんじゃないのか?」
「うむ?ついうっかり」
「うっかり過ぎるな、それは。…で、一体俺に何の用だ?まぁ、その手に持ったナイフと先日のあいつの行動を思い出せばある程度の想像はつくが」
「レムを指して我は生きる!」
「はい、もうナイフで俺の方を指してるからな。目的達成だぞ、よかったな?」
「うむ?…うむ!我にかかれば造作もない事だった」
「…ふっ、容易いぜ」
「と、言うレムの手に乗るのは優しい母様くらいだと母様が言っていました。だから我も母様を見習ってみる?」
「………本人の前でそれを言うのは止めようぜ?」
「問題ない。レムはレムなのです」
「意味分からない。…けど微妙に納得してしまうのが怖いな、おい」
「レム、覚悟!」
「いや待てシャトゥ、慌てるな」
「…命乞い?」
「違う。よく考えるんだ、シャトゥ」
「うむ?」
「シャトゥ、今回あいつから与えられた指令は一体何だったんだ?」
「レムの後ろからぐさりと虫の音を止める事」
「息の根、の間違いじゃないのか?」
「レム、失礼なの。そんな酷い事我はしない」
「…あぁ、そりゃ悪かった。で、ならその虫の音ってのは何だ?」
「最近のレムは調子に乗っているので一度虫の息にするそうです、と母様が皆に提案してたのを我は盗み聞いた」
「おい待てその物騒な会談はいったい何だ!?」
「でもそのあと母様に見つかって我にはまだ早いと言って追い出されました。早く大人になりたいのでレム協力しろ?」
「断る。……ふむ、実はシャトゥが覗いている事を知っててわざとそんな会話をしていたと見た」
「そうだといいね?」
「…言うな。せめて俺はそう思い込んでおくことにした」
「うむ。頑張れ、レム」
「あぁ、頑張るとも。つか俺にはそれ以外の道が残されてないっぽいしな」
「ところでレム」
「何だ、シャトゥ」
「大人しく指されてください」
「断る」
「どうして?」
「どうしても何も好んで刺されたがる奴なんているはずないだろ?……てか、さっきから微妙にシャトゥの言ってる“さす”の意味が違う気がするのだが、俺の気の所為か?」
「気のせいです」
「…まぁ、どっちでもいいけどな。とにかく断る」
「なら強硬手段しかない?…わくわく、わくわく」
「目を輝かせるな。それと強硬手段より先に一応和解の為の話し合いをしような?」
「交渉は断絶した!今こそ勝ち星を挙げる時である!」
「何の勝ち星だ、何の」
「それは我にも判りません」
「…で、そろそろそのナイフを俺に向けてくるのをやめてはくれないのか、シャトゥ?」
「止められません、指すまでは」
「……なら仕方がない。シャトゥがどうしても諦めないって言うのなら俺も本気になる必要があるみたいだな」
「うむ?」
「シャトゥ、しってるか?刺そうとする奴は逆に刺される覚悟が必要なんだぞ?」
「諦めました」
「早いな」
「我は注射が嫌いです」
「一体何の事だ……って、今までの“さす”ってのはもしかして注射の事だったのか?その手に持ったナイフは実はフェイクで」
「レム、何を言ってる?」
「…て、違うのね。なら注射の話はいったいどこから出てきたんだ?」
「実は我は母様の注射から逃げている最中です?」
「よしシャトゥ、あいつを呼んでくるからもう少し俺とここで待とうな?」
「脱兎!」
「逃がすかっ!」
「我が背後を取られてる!?」
「…ゃ、それは微妙に使いどころが違うからな、シャトゥ」
注射は嫌いだけど殴り合い(語り合い)とかは好きそうなシャトゥです、と言う今日この頃。
旦那様の今日の格言
「月のない夜は……て、俺恨み買うようなこと何かしたか?」
女神さまの本日のぼやき
「注射などなくても我は元気」