ど-142. 急に平和なくさい飯
元気なのは良いことです。
「ご朝食をお持ちいたしました、旦那様」
「お…う?」
「如何なされましたか、旦那様?」
「如何って、いや、随分とまともそうな朝食だな、と思ってな」
「そうでしょうか?」
「ああ、っていうかそれ本当にファイが作ったのか?」
「いえ、ファイ様は本日はシャ…所用で席をはずして居りまして、代わりに久々に私が作らせていただきました、申し訳ございません」
「いやいや、謝る必要はない。全く以てない!で、その所用ってのはなんだ?俺は初耳なのだが?」
「いえ、大した事では…」
「って、お前が口ごもるってのも珍しいな。何かやましい事でもあるのか」
「それはその、何と申し上げましょうか…」
「まさか、本当にやましい事があるのか?」
「いえ、そのような事は決してないのですが。…そうですね、旦那様には申し上げておくのが筋と言うものでしょう。はい、ではご報告いたします」
「おう、何だ?」
「昨日の事なのですが、旦那様よりシャトゥが冒険に出たという知らせを頂きました事は記憶にございますでしょうか?」
「ああ、あるぞ。それがどうかしたのか?」
「いえ、大したことではないのですが、シャトゥがファイ様を御供に連れて冒険に向かいましたもので、今朝方よりファイ様のお姿が見られないのは未だにシャトゥが戻って来ていないために御座います」
「…あぁ、なるほどね」
「ご理解いただけましたでしょうか?」
「ああ、理解した。ファイを連れ出したのがシャトゥって事と、シャトゥの奴は結局迷子になってるっぽいって事だな」
「はい、ただいま通常の範囲内は皆様方にお頼みして探索を行っていただいておりますが、何分この地は未開拓や危険な場所が多々ございますのでその場所の探索を安易に頼むわけにもいかず、少々困っております」
「ああ、普通の奴らにはトラップのある地下洞窟とか、色々と危険かもしれないなぁ、確かに」
「その通りに御座います、旦那様」
「シャトゥとファイの二人は……まぁあの二人なら心配ないか。悪運だけは強そうな二人組だしな」
「そのような理由ですので本日は私が朝食を作らせていただきました。久々と言う事で少々不安では御座いますが、お味の方はいかがでしょうか、旦那様?」
「あぁ、美味いね。涙が出るほど美味いね」
「そのように、本当に涙をお流しになられずともよろしいのでは?」
「いや、日頃の食生活とかを考えるとこれは本気の本気で御馳走だから。こんなヒトとしてまともな…もとい、普通の飯を食ったのなんていつぶりだ?」
「旦那様、大変無礼かとは存じ上げますが、そのように申されては余りにもファイ様がお可哀想では御座いませんか。お言葉をお選びくださいますよう」
「ゃ、そうは言ってもなぁ。日ごろがあれじゃ、こんな事の一つや二つも言いたくなるだろ?」
「それは旦那様だけです」
「……まぁ、確かに俺だけ、つーか、俺でも未だにあの料理を食べ続けて生きてるって事が不思議でならないのですけどね?」
「旦那様はご立派で御座います」
「今この瞬間にその台詞を言われても全然嬉しくない」
「ですから敢えて言わせていただきました」
「あ、そ」
「…旦那様、お食事中申し訳ないのですがよろしいでしょうか?」
「ああ、何だ?てかな、いや十分にそわそわしてるのは見てて何となくわかるから、心配ならさっさと探しに行ってもいいぞ?」
「ですが旦那様のお食事中に私が席を外れるというのは余りにも無礼な事では…」
「だから俺はそんな事は気にしないって。礼儀とかその辺、これは前々から言ってるぞ?いや確かに言葉遣いその他の礼儀よりも日頃の行いの方をもっと正して欲しいとは思うが」
「それは無理に御座います」
「…だよね?」
「はい、いえ、やはりこの場は旦那様がお食事をとられている間は傍に居させていただきます」
「ああ、分かった。……だからって、その『早く食え、早く食い終われ』って視線は止めていただけませんか?」
「何の事でしょうか?」
「……あぁ、もう解ったよ!さっさと食い終わればいいんだろ、食い終われば!くそっ、せっかく久々のまともな飯なのにっ!!」
「旦那様も、もう少々味わって食していただいてもよろしいのですが…」
「ふぁんだって?(何だって?)」
「……いえ、総ては旦那様の思うが侭に、如何様にでも」
そしてシャトゥは本日も元気です。
ちょっとだけ友達?ができたらいいな。
旦那様の今日の格言
「世の中には必ず割を食う奴ってのが存在するもんだ」
メイドさんの今日の戯言
「旦那様のようで御座いますね?」




