ど-133. 子とは育つものだ、と誰かが言った
不信はいけません、不信は
「何も信じられなくなりました」
「随分と重症だな、おい」
「ちなみにレムの事は初めから信じてないので問題ない」
「そっちはそっちで健在なのね」
「うむ!それで何しに来たの、レム?」
「ああ、それはな…」
「ま、まさか我が母様に見放されたチャンスに遂に我を襲いに」
「違う」
「…そうなのか」
「何故そこで残念そうに落ち込む?」
「我は落ち込んでなどいない」
「の、割には声が沈んでるけどな」
「敢えて言うなら我の魂の慟哭?」
「ああ、なら仕方ないか」
「うむ、仕方ない。…お、襲う?」
「だから襲わないって言ってるだろ。いい加減覚えてくれ」
「う、うむ」
「…しかしシャトゥ、いつもの切れがないな。どうしたんだって、一応聞いておいてやろう」
「我は母様に見捨てられてしまいました」
「そう言えばそんな事言ってたな。つかどうしてそんなこと思うんだよ?」
「母様は我に嘘を教えてた。つまりもう要らない子と云う訳なのです」
「随分とぶっ飛んだ、びっくり理論だな。でもな、シャトゥ、その心配はないと俺は思うぞ?」
「…!!!ダメ、レム。それ以上言わないで」
「?どうしてだよ?」
「…危ない。我は今レムに慰みモノにされるところだった!」
「……正しくは慰められるところだった、な。と、言うよりも何故にそこまで俺が慰めようとするのを嫌うんだ?シャトゥと言い、他の奴らだってそうだし」
「レムに慰められるとヒトとして生きていけなくなる?」
「ならないならない」
「でも例外なく『レムに慰められるとヒトとして終わり』とみんな言ってた」
「…みんなって誰だ?そこのところ、ちょっと詳しく聞かせてみろ、な?」
「皆は皆。この住家にいるヒト全員」
「………、すまん。ちょっと耳が遠くなったみたいだ。もう一度言ってくれるか?」
「レムに慰められるのはこの上ない屈辱と言うのは世間の一般常識です?」
「…俺、何か悪い事とか、奴隷たちに嫌われるような事とかしたかなぁ?…しかも全員て、あり得ないだろ、普通に考えて」
「レム、元気出して?」
「……おっかしいなぁ、俺って確かシャトゥの事を慰めに来たんじゃなかったっけ?何で俺が慰められてるわけ?」
「当然の結果?」
「とは断じて思いたくない」
「レム、生きてればきっといい事ある…といい?」
「頼むからそこは言いきって!?お願いだからっ、つか俺はそこまで幸なさそうに見えるんですか!?…いや、何も言わなくていいぞ。応えは聞きたくないから、聞く気ないから!」
「………」
「って、シャトゥ!?何いきなり泣き出してますか!?」
「我、泣いてる?」
「泣いてる泣いてる。滅茶苦茶涙流してる」
「…本当」
「で、いきなり泣き出したりしてどうしたんだよ?」
「…うむ」
「いや、“うむ”だけじゃ分からないって」
「………うむ、我にもよく分からない。けどレムがいつも通りだったからほっとした。きっと悪い病気にかかったに違いない。我、死ぬの?」
「ゃ、死なないって。別に悪い病気とかにかかったわけじゃないから。それとほっとしたのは…まあなんだ、世の中にはまだ信じられるものがあったって事で」
「?」
「つまりな、俺――」
「我はレムを信じていません」
「……」
「……」
「シャトゥ?」
「うむ?」
「いやいやいや。つまりだな、シャトゥは俺がいつも通りだったという事で――」
「我はレムを信じるなんて愚行は絶対にしません」
「……」
「……」
「シャトゥ?」
「うむ?」
「さっきから何言ってやがりますか?」
「刷り込み?」
「そっか、刷り込みなら仕方――ないわけあるかっ!!俺はそこまで信用できませんか!?」
「うむ」
「そ、即答。俺の存在って一体何なの?俺の方こそ何も信じられなくなりかけてるんですが…?」
「……レム」
「…シャトゥ」
「レムと一緒は嫌なので我は母様を信じてみる事にします」
「――」
「きっと何か偉大な理由があったに違いない。母様はきっと我に何かを教えようとしてくれたのです。うん、そうに違いない。母様を少しでも疑った我が愚かでした」
「――」
「と、言うわけでレム、人間不信?まだまだだね」
「がぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」
「ひぅ!?」
「……――やって、られるかっ!!」
と、言うわけでまた一つ賢くなったシャトゥ。踏み台はいつだってレム君で決まり!…です。
旦那様の今日の格言
「世の中信じる事のできない事ばっかりだよ、ほんと」
女神さまの本日のぼやき
「うー、もうれつー、…?」