ど-132. 教訓とは学び教えるものである、らしい?
嘘吐きはメイドさんのはじまり
「シャトゥは素晴らしい子です」
「現れたと思ったらいきなり親ばか発言全開か」
「いえ、客観的に見た事実で御座います、旦那様。知力体力発想力、どれもが実に素晴らしいものであります」
「…まあ、そうか。そもそも伊達になんちゃって♪の名前を冠してるわけじゃないしな。ある意味それくらいはできて当たり前か」
「そう言うわけではなく本人のやる気と努力と、他者に喜んでほしいという慎ましい願いの賜物なのですが…それはいいでしょう」
「え、いいのかそれ?何気に重要な事みたいに聞こえたけど…?」
「はい、シャトゥにとってもそれは実に些細な事に過ぎないでしょうし、問題は御座いません。ただ一つだけ、心配している事がございまして」
「心配?おまえにしちゃ珍しいな。いつもなら心配するより先に何かしらの行動に移してるはずなのに」
「はい。ですので少々の試みを起こしてみた次第で御座います」
「あ、やっぱり既に行動済みではあったのか。それで、いったいどんな心配事でどんな事やらせてみたんだ?俺に相談してくるって事は中々うまくいってないみたいだけど」
「実は…シャトゥは少々素直すぎる気がするのです」
「…確かに。つか、お前の言う事する事を受け入れかつ飲み込み過ぎなんだよな。おかげで俺がどれだけ酷い目に合った事か。しかもお前と違って純粋な好意としてやってくるし、色々とやりにくいったらないぞ?」
「それは全く問題ないのですが」
「全然なくねぇよ!?」
「そうでしょうか?」
「そうだよ!つかシャトゥの被害にあってるのってそもそも俺だけじゃねえか」
「そのような事実があったような気がないでも御座いませんが、旦那様に置かれましてはそのような日常茶飯事な出来事など細事ではないのですか?」
「出来れば日常に起きてほしくない事ではあるけどな」
「ならば問題御座いません」
「十分あるけど…今は良しとしよう。それでお前はどんな行動をとったって?」
「はい、明らかに嘘と判る事を教えて、時には相手の事も疑うべきと学ばせるつもりだったのですが…」
「明らかな嘘って……ああ、なるほど。ちょっと前のあの『むちむちのもうれつー』ってやつか」
「旦那様、それは私に対します性的嫌がらせでしょうか?旦那様にそのようなご趣味がございました事は重々承知しておりましたが、今は真面目な話をしているつもりですので出来れば控えていただきたいと…」
「違ぇ!んな趣味ねぇよ!!つか十分俺も真面目に話してるよ!?」
「つまり旦那様には今のレベルが限界、と。今こそ己の限界を超える時では?」
「時では?…じゃないっつーの。ほら、今日は珍しく真面目に相談してるんだろ。それでお前の心配とした行動は分かったけど、なら何を悩んでるんだ?」
「シャトゥに『母様の嘘吐き!』と言われてしまいました」
「うん、どこも間違ってないな」
「旦那様は真実、鬼畜生で御座いますね」
「いや、だって覆しようがないだろ、それは」
「私は、どうすればよいのでしょうか?」
「…だから、珍しく本気で悩んでるんだったら途中で俺をからかうなっての」
「いえ、それでは旦那様の存在意義がなくなってしまうので出来ません」
「だから俺の存在意義はどれだけ――、って、そう言う事をやめろって言うの。せめて真面目に話してる時くらいは、な」
「申し訳ございません、旦那様。私も少々気が動転しているようで御座います」
「俺の目から見たらいつものお前と変わりない気もするけどな」
「そのような事は…十二分に御座いますが」
「…まあいいさ。んで、シャトゥに嘘吐き呼ばわりされたって事だったよな」
「はい」
「大したことでもない気がするけど、お前が俺に相談してくるほどまで悩んでるって言うんなら、仕方ない。俺の方から少しフォローでも入れておいてみてやるよ」
「感謝いたします、旦那様」
「まあ、これも御主人様たる俺の務めの一つだし?」
「それでも、感謝いたします、旦那様」
「…そこまで言われると照れるな。まあいい、大船に乗ったつもりでどんと任せておけって!」
「はい。今の内に救助船の用意をしておくと致しましょう」
「……全然、信用ないのね、俺って」
「そんな事は御座いません。優良ながらこの私、旦那様の事は何よりも信用しておりますとも。では、よろしくお願いいたします、旦那様」
「ああ、まあ、頼まれたからには?つか俺の偉大さを知らしめてやるから?ちゃんと期待して待っているように」
「――ええ、承知しておりますとも、旦那様?」
メイドさんは旦那様に心よりの心服を置いています。誰が何と言おうと間違いありません。
日頃のメイドさんの態度はちょっとしたじゃれ合い……じゃぁないよなぁ。
旦那様の今日の格言
「俺はいつだって真面目だ」
メイドさんの今日の戯言
「以上、旦那様の少々お茶目な発言でした」