ど-128. 代筆ひとつ、お願いします
今日も大変です
「時に旦那様」
「なんだよ?」
「何をなさっておられるのでしょうか?」
「何って、見て分からないか?」
「分かっていてなお旦那様に尋ねているこの乙女心をお察しください」
「乙女って、お前そんな…」
「――何か?」
「イエ、ナンデモアリマセン」
「それで旦那様、何をなさっておられるのですか?」
「ああ、ちょっと代筆を頼まれてな、ちょちょいと書き留めてるところ」
「そんな事は筆不精以前に実は髪の毛よりも重い物を持てない旦那様のご様子を見ていれば察しがつきます。私がお尋ねしたのはそのような事ではなく、旦那様が何をしたためておられるのかという事にございます」
「…あのさ、最近になってようやく思い立ってきたんだけどな」
「はい、何でしょうか旦那様?」
「お前、言葉が丁寧なら何言っても問題ないって思ってない?」
「いえ、そのような事実は一切ございません」
「…そうか。よくよく考えれば言葉使いがどうであれお前が妄言吐くのに変わりはないもんな」
「妄言などと酷い事を仰られます、旦那様」
「日頃のお前のほうが十二分に酷いよっ!?」
「旦那様は照れているだけです」
「何が!?つかどこから照れるなんて話題になったんですか!?」
「私の至極真っ当な言葉を素直に受け取れない旦那様は少々照れ屋さんであるだけです」
「俺としてはお前が実はすっごい照れ屋で日頃の言動が実は照れ隠しだったという事にしたいと時々思う事がある」
「ご心配なさらずに、旦那様。そのような事実は一片たりとも御座いませんので。私は率直に、思うがままを旦那様にお伝えしているだけの事に御座います」
「だよな。お前がそんな殊勝な事してるはずもないもんな。だと思うからこそ俺もそうだといいな、程度の淡い夢の中だけに思い留めてるわけだし」
「……」
「…ん?どうした?」
「だっ、旦那様!そのように恥ずかしい事を考えないでくださいっ!!」
「……わお」
「ご満足いただけたでしょうか、旦那様?」
「何と言うか、相変わらずというべきか、迫真の演技だよな。一瞬でも本気でお前が恥ずかしがってるように見えたぞ」
「実は本気で恥ずかしいです」
「嘘吐け」
「信じてくださらないとは、しかも即答ですか。実に哀しい事にございます」
「いつも言ってるだろうが。日頃の態度を考えてみろ、って」
「実は日々の私はすべてが演技です」
「え、驚愕の新事実?…つか、嘘はもう少しうまくついたほうがいいぞ?」
「嘘なんて、決めつけないで。私ほんとうはすごい恥ずかしがり屋で、だ、旦那さまとだってこうして話すの…まだ恥ずかしいんだからっ」
「――」
「旦那さま?」
「――、はっ!?危ない危ない。今非常にありえないものを見た」
「そんな、あり得ないだなんて…ひどいっ、旦那さまのおばかっ!!」
「ぐはぁ!?……ま、まさか本当に?いやしかし待て俺早まるな、」
「…うぅぅぅ」
「待てそんな涙を溜めた上目づかいで俺を睨むんじゃないちょっぴり可愛いかな、なんて思っちまうじゃないか」
「そっ、そんな、可愛いだなんて、旦那さま、私…」
「…え?いや、この程度で頬染めて恥ずかしがられても、つか本気でこれって演技じゃないわけ?」
「演技ですが、それが何か?」
「………」
「旦那様?」
「うがー!!俺の、その他いるかもしれない俺達の夢を返せー!!!!!!」
「………そのように申されましても」
ロマン、とも言う。言わない…?
旦那様の今日の格言
「夢はでっかく大きく、だ」
メイドさんの今日の戯言
「旦那様は何を泣いておられるのでしょうか?」