ど-126. 大事件という大惨事ではない
何でやねん
「旦那様、事件でございます」
「うおっ?!?!」
「そんなに驚いていただけるとは、旦那様もやはりこの件の重大さを十二分にご理解していただけているご様子」
「気配を消した後、ご丁寧に後ろに殺気を感じさせて振り向かせておいた上で真正面の吐息が掛かるほど間近な場所から唐突に声をかけられれば誰だって驚くわっ!!」
「ご混乱の最中、懇切丁寧な状況説明、痛み入ります」
「はっ!?ついうっかり無駄な説明をしてしまった」
「旦那様ほど無駄ではなかったかと思われます」
「…ま、いいか。んで、そう言えばお前一体何の用だって?」
「そうです旦那様事件なのです」
「何か慌てているように聞こえる割には全然慌てていないように思えるのは何故だろう?」
「緊張感が若干足りませんでしたか。では……、事件です、旦那様っ!!!!」
「うをっ!?!?…こ、これはこれで驚くな。で、いったい何があったんだ?」
「はい、実は私の秘蔵の至高『旦……いえ、こちらは別件でした。実はですね、」
「いやめちゃくちゃ気になる止め方だな、おい。つかお前が慌てている理由の大半が今言い損ねた方だと感じるのは俺だけか?」
「いえ、大半ではなく全てでございます」
「…そうか、全てなのか」
「はい、全てです」
「で、だ。その『旦…の後に続くのが何なのか言ってみろ」
「ですが事件の方は宜しいのですか?」
「いい、て言うかどうせ大したことないんだろ。いいから続き言ってみろ。それとも何か言えない理由でもあるのか?たとえば『旦那様の髪の毛全集(呪い用)』とか言う物騒なものとか何か」
「いえ、そちらは問題なく保管されておりますので大丈夫で御座います」
「有るのかよ!?」
「…冗談でございます?」
「頼むからそこは言い切って下さい!」
「紛失しているモノの名前でしたね。改めて言うとなると少々恥ずかしいのですがこれも旦那様の命とあらば致し方ございません」
「言い切る気なしかよ?!」
「紛失しておりますのは『旦那様の歩み〜今までとこれからの愛のメモリー〜』と言う準創作本でございます。旦那様、お見かけいたしませんでしたでしょうか?」
「準・創作ってのが気になるが……いや、少なくとも俺は見てないな、そんなもの。まあ見たら見たで見なかった事にしてる可能性も捨てきれないが」
「……そうですか」
「まあそこまで落ち込むなって。そのうちいい事あるって。………おぉ、落ち込んでるこいつを慰めるって言うのも結構気分いいかも。癖になりそうだ」
「…旦那様はそれほどまでに私が悲しんでいる現状が喜ばしいと、そう仰られるのですか?」
「いやいや、そこまで恨みのこもったような眼で見るなよ。別にそう言うわけじゃないって」
「そう、ですか」
「お前の事だからどうせ奴隷たちには探索のお願いをしてあるんだろ?」
「奴隷ではなく“隷属の刻印”を刻まれた方々ですが……はい、確かに皆さま方には既にお頼みしてあります。ですが未だ朗報はなく、私は一体どうすればよいのでしょう?」
「そんなに大切なものだったのか?……名前を聞く限り恐ろしいものではありそうだけど」
「はい、一日の始まりにうふふと頬を緩ませながら一通りを眺めるのが私の楽しみの一つで御座いました」
「お前のそんな姿は想像出来ないものがあるが、まあ事の重大さは分かった。そう言えばシャトゥにはもう聞いたのか?」
「…!いえ、まだ聞いておりません。それに確かにシャトゥならば私の秘密の隠し部屋への道順も分かっているはずですし、盲点で御座いました!」
「こんな事にも気が回らないとは余程慌ててたと見える」
「そう言えばシャトゥで思い出したのですが旦那様」
「何だ?」
「シャトゥとルルーシアが旦那様の花壇の中で戯れておりましたよ、とこちらが本来旦那様にお伝えに参った用件なのですが」
「っ!!!」
「と、大慌てで出て行ってしまわれました。それでは私もシャトゥに尋ねに参りましょうか。もしもの時はシャトゥ、………――ふふふ、ヒトのモノを勝手に盗るのは悪い事だと、教えましたよね?」
事件と書いて日常風景と読む。…何でやねん。
メイドさんの旦那様コレクションは煩悩の数ほど用意されています。レムくんの煩悩一つにつき一つの品物。
旦那様の今日の格言
「この恨み晴らさでおくべきか」
メイドさんの今日の戯言
「おくべきに御座います」