ど-124. ある一つの結果
時にはあえて過酷な道を
「で、何か俺に言う事は?」
「御座いません」
「…申し開きは?」
「御座いません」
「……俺に言いたい事は?」
「ござます。旦那様、何故逃げ出してしまわれたのでしょうか?」
「そりゃ逃げるよ逃げますよええ!!」
「お陰様であの後、会場は総崩れ。ただのお祭り騒ぎとして恙無く終了いたしました」
「つかそれは俺を吊り上げる必要が全くなかったと言う事ではないのか?」
「当然、そうですが?旦那様の件はあくまでサプライズイベントとしてのモノでしたので」
「その割には手の込んだ拘束具とか仕掛けとか使ってたけどな」
「有志を募りましたら思いのほか多くのモノが集まりました」
「…なあ、実は俺ってそんなに奴隷たちから嫌われてるのか?」
「そんな事実は旦那様が存在すると言う事実ほども御座いません。それと奴隷ではなく“隷属の刻印”を刻まれた方々でございます、旦那様」
「すっっっっげぇ微妙な言い方だよな、それ」
「そうでしょうか?しかし旦那様、何故そのような事をご心配なされているのです?」
「そりゃ、あんな事があればそう思いたくもなるだろうよ」
「吊るし上げの件ですか?そのようなもの、いつもの事ではございませんか?」
「…それを言わないで。悲しくなるから」
「はい。判りました。判り切った事実で旦那様が単に現実逃避をなされているだけとは言えそののご命令、しかと承りましょう」
「ああ、そうして下さい」
「はい。しかし旦那様?」
「何だよ?」
「その様な心配をなされる必要は御座いません?“隷属の刻印”の刻まれた方々は皆、旦那様の事を慕っておりますので。これも旦那様の人徳のたまものでございますね?」
「せめて言いきってほしかった。てか、どこをどう取れば慕われていると?」
「旦那様がお感じになられた、その通りで御座います。それとも旦那様は彼女らの思いが信用できないと、そう仰られる御積りで?」
「いや、そうは…大体さ、俺とお前でどっちにつくって言われて果たして俺の方に何人くらい集まるかね?俺には俺とおまえどっちかを選べって言ったらほとんどの奴らがお前の方を選ぶ気がするぞ?」
「そうですね、皆様方の日頃から推測いたしますに…」
「するに?」
「一人ですね」
「…ほら見ろそれをどう取ったら俺が慕われてるって話になるんだよ?」
「本当に、旦那様は捻くれておりますね?」
「何故そうなる。しかもお前に言われたくないよ」
「しかし心配には及びません」
「どうしてだよ?」
「その一人が他でもない、私の事ですので」
「……」
「旦那様には何人たりとも指一本触れさせる事は御座いません」
「………あ、そ」
「はい。照れておられます?」
「誰が照れるか。これくらいの事で照れて堪るか」
「ではそう言う事にしておきましょう」
「そう言えばお前仕事が溜まってて忙しいんじゃないのか?」
「確かに旦那様のお世話と、非常に忙しい身の上ではございますが、ええ、ではそのようにねつ造いたしましょう。はい、確かに私は忙しいので、そろそろ仕事をさせていただく為に失礼させていただいてもよろしいでしょうか?」
「ああ、いいぞ」
「では、失礼いたします旦那様」
「…あぁ」
「それと旦那様?皆さま方も分かっておられるから私につくのですよ。決して私が旦那様と離れる、ましてや敵になる事など――可能性を論じる事すらあり得ない、と」
こんなものです。
旦那様の今日の格言
「俺の魅力に…惚れるなよ?」
メイドさんの今日の戯言
「寝言で御座います」