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harem!〜カオス煮、いっちょ上がり!〜  作者: nyao
o メイドさんとご主人様
21/1098

 ACT XX. アメリア-1

――…怪電波盗聴中…怪電波盗聴中……


「あら、このような場所で人にお会いするとは……奇遇でございますね?」



見た事のない、城の者じゃない事なんて一目見た瞬間に解ってしまっていた。

くすんだ銀髪の、メイド服を着た見目麗しき女性。城内の悲鳴、騒音を微塵も気にした様子もなく、その佇まいには何処か一種の神々しささえ感じてしまう。


ただひたすら真っ直ぐなその瞳は一体何を見ているのか?


必要以上に丁寧な言葉遣いが何処か違和感を醸し出させ、それ以上に彼女の持つ雰囲気をいい意味でミステリアスにさせる。こんな――敵兵が城内にまで押し寄せて来て敗北は確実な――状況でなければ見惚れていたに違いなかった。



ただ、



「初めまして。私、ホゥクェイと申します…偽名ですが」



肩に担ぐ大きな麻袋が全てを台無しにしていた。



「何も…」



「では、失礼致します」



物取り――そして私は悲鳴を上げる間もなく麻袋に入れられた。物取りじゃなくて人攫いだったらしい。


精一杯暴れたけど全然無駄な抵抗で、私は――それに父様やムェ達は――これからどうなってしまうのだろう、と意識を失った。









「こ、こ…は?」



自分が何処にいるのか分からない。



「お起きになられた様でございますね。おはようございます、アメリア様。ご機嫌はいかがでしょうか?」



鈴の鳴るような、蕩けてしまいそうな程に聞き心地の良い声。一瞬、頭の中がぼやけて――



「っ、そうだっ!!お父様、お母様、それにムェは!?」



唐突に思い出した。戦争に負けて、私は部屋の隅で震えていて、皆、皆…



「愚王ムラトリィエ様は先日、元アトラビ王都広場にて斬首の公開処刑を受け、現在その御首が国民の前に晒されている最中にございます。そしてアメリア様の母君に致しましては“隷属の刻印”を刻まれカラートの若き愚王マークウェイエ様の慰み者となっております」



「っ!?」



「改めましてアメリア様、大変良い目覚めですがご機嫌はいかがでしょうか?」



「あなた、は…」



私の咄嗟の声に淀みなく答えたのは、くすんだ銀髪の。


彼女は人形のような無表情でその場から――私と鉄柵を挟んで――見事なお辞儀をする。王宮にいた頃さえ見た事がないほど完成された礼儀。少なくとも私はそう感じた。



と、我に返る。



「あなたっ、私が誰だか分かっていてこのような仕打ちをしているのですかっ!?」



「雰囲気を出す為に少々演出に凝ってみました。石造りの牢獄、いかがでしょうか?」



「ふざけないでっ!!こんな事をして――」



「失礼な事は重々承知の上でございますが私は先ほどアメリア様、と貴女様の御名を申し上げたはずですが?それでご不満であられるのでしたらより詳細にお答えいたしましょう。アメリア・ヒン・アトラビ、御歳十四歳、亡国アトラビの姫君にあらせられます。ご兄弟は弟殿下ムーチェトリエ・ヒン・アトラビ様お一人、アメリア様はムェと呼び大変仲のお宜しいご姉弟でございます。趣味は城下巡りと少々おてんばなご様子。初恋は十歳の時、城下町で出会った旅人の――」



「……」



黙らざるを得ない。名前や趣味、家族にましてや初恋の時期や相手まで言い当てられてしまっては言い返しようがない。


彼女は何一つ間違った事は…亡国?



「…ぁ」



思い出す、彼女の言葉を。そう言えば言っていなかったか?


お父様が死んだ――お母様は敵国の奴隷に堕ちた――ムェは…


絶望的、そして私は。



こんな事を?私はその後になんていうつもりだった?もう言えるはずもない言葉を。


何より、俯き視線を落として初めて気付いた。私の左手に刻み込まれているこの文様――間違いようもなくこれは。



「それで、度々繰り返す事になり大変申し訳がないのですがよろしいですか?ご機嫌はいかがでしょうか、アメリア様」



「そん、な…」



「私の声を聞いておられでしょうか、アメリア様?」



「………」



「困りましたね…いえ、ああ、そうですか。では最初にアメリア様の最もお知りになりたい当然の疑惑にお答えいたしましょう」



何かに気付いたように、彼女のその言葉に私は顔を上げた。この絶望を打ち消して欲しくて


――でも返ってきた答えは私の望むものとは反対で。



「アメリア様の御左手に刻まれしその刻印は間違いようもなく皆様が“隷属の烙印(・・)”とお呼びになられる物にございます。その意味するところは、アメリア様の所有権が既にアメリア様にはなく、アメリア様の所有権は旦那様にある、と言う事にございます」



奴隷に堕ちた、と。


敗戦国の報いとでも言うように。無表情が私を責めているようにも見える。



「………」



「ではアメリア様、現状を理解していただけたようですので移動いたしましょうか」



「っ!!」



移動、と言えばつい今彼女が言っていた誰かも知らない旦那様――私の所有者の所?



冗談じゃない、そう、私が奴隷だなんて冗談じゃないっ、誰かの所有物なんて冗談じゃないっ、私はこんな理不尽納得しない!!!



「ふざけ――ないでっ」



「ふざける、とはどのような事でしょう?正直心当たりが複数あり、そのどれもが正しく思えるのですが私の思い過ごしでしょうか?」



「全てよ、全てっ!!どうして私がこんな扱いを受けなきゃいけないのっ!?私はアメリアよ、お父様…ムラトリィエの娘、アメリア・ヒン・アトラビなのよっ!!」



「アメリア様」



「っ!!」



何故か、そのたった一言に気圧される。


無表情の、銀髪の。その瞳が私を射止めていた。



「大変遺憾な事でございますが申し上げます。私は同じ事を二度繰り返すのは冗談でない限り好みません。何よりもアメリア様が現状を理解しておいでな以上二度目となる説明は全く以って無意味でしかありません。それでもアメリア様はまだ私に説明を乞うと申されますか――本気で?」



「ぁ、っ!!」



喉が引き攣る。


こんなプレッシャー、お父様からも感じた事なんてない。彼女の姿かたち、全ての存在が圧倒的に――。



「…差し出がましい事を、失礼致しました。ただ、私は寛容ではございますが決して全てを許容する訳ではないと、今後長い付き合いになると思われますので覚えて置いてくださると幸いでございます。では、いきましょうか。アメリア様もこのような場所は本意ではないでしょう?」



「こ、……こんな場所に連れてきたのはあなたじゃないのよ…?」



「はい、アメリア様。このような場所の方が亡国の姫君と言う立場を味わえるのではないかと思案いたしまして、せめて最後の思い出をと、僭越ではございましたが雰囲気作りをしてみました。それで、努力の成果はいかがでしたでしょうか、アメリア様?」



「あ、悪趣味…」



「はい、ご褒め頂きありがとうございます。では、こちらへどうぞ」



苦言が通じないのか、いや、苦言を全くの無表情で返して彼女は彼女は歩き出してしまう。牢屋の中に私を一人置き去りにしたまま…。



「ちょ、ちょっと待ちなさいよっ」



「…はい、私に何用でしょうか、アメリア様?」



「こちらへどうぞって、こんな所に閉じ込めておいて何を…」



「可笑しな事をお言いになりますね、アメリア様。ではお尋ねいたしますが、私がいつアメリア様を閉じ込めたのでしょうか?」



「いつって、そんなの今に決まって…ぇ?」



鉄格子に欠けた手が、すり抜けた。



「アメリア様の目の前に映っております鉄柵はごらんの通り幻です。実際のところは本当に相手を封じ込める事も出来る、私と同じく高性能なものでしたが少なくとも今は用いられておりません、必要がございませんので。そしてアメリア様をこちらにお連れしたのは雰囲気作りをしたからである、と私は先に申し上げましたよ?」



「………悪趣味」



それしか言い様がなかった。第一態々二度教えてくれたって事はそれはつまりこの状況は本気で冗談だったって、彼女が…あぁ、もうっ!!



幻影の魔法が働いているという事は少なくともこの場所には一人、魔法使いがいるという事だ。幻影の魔法、どころか魔法使い自体の絶対数が少ない世の中なのに、彼女か他の誰かは知らないがこんな事全くの資源の無駄遣いでしかない。



本物の魔法使いが私の国に十人でもいたのなら戦争にも勝てたかも知れないのに…



いや、違う。ここは敵国で、この場所に魔法使いがいるというのならどの道私たちは負けていたという事。



「度々の御褒めのお言葉、大変ありがとうございます。ではご納得もいただけたようですので、今度こそこちらへどうぞ。私についてきてくださいます様、アメリア様」



「………分かったわ」



彼女についていくしか選択肢がないので仕方なく、だ。でも、このまま彼女について行くって事はつまり…



「ねえ?」



「はい、何でしょうか?これからどちらに参るのか、いえ、旦那様の元だけは決してないですよ?以外でしたらなんなりとお聞きください」



「……何でもない」



一体何処まで本気なのか疑いたくもなる。一体何者なのよ、この銀髪の…



「アメリア様」



「な、何っ?」



「?何を慌てておいでなのですか?」



声をかけられたタイミングが余りにもぴったりすぎた、なんて言えるわけもない。ましてや声をかけた本人の事を考えてたなんて。



「な、何でもないわよ。それよりも行き成り如何したの?」



「はい、アメリア様は何か得意な事がございますか?」



「…どうしてそんな事を聞くのよ?」



どうせ私もさっき言っていた母様のように慰み者になるのだろうに。今殺されていないって事はそう言う事だ。それに奴隷に堕ちた今となっては生殺与奪権すら私自身にない。だからこれは…こんな無意味な反論はせめてもの私の反抗意識。



「いえ、他意はございますが今のアメリア様には必要のない事でございます。アメリア様はこう考えておいででしょう?『私もきっと母様のように慰み者にされるのだ』と。実に楽しそうな未来予想図でございますね」



「それは皮肉のつもり?」



「いえ、本心ですが?」



「……そ、そう」



私はその時、どんな表情をしていただろうか。


確かに言える事は、驚いた。彼女の言葉を全部信じる気はないけど本心と語った時の言葉に僅かだけど初めて感情が見えたから。



ある意味羨望、彼女自身それを望んでいるような…それじゃあまるで彼女が――



「ねぇ…?」



「何でしょうか……いえ、窺いたい事は後ほどお願いいたします。今は目的地へと着きましたので」



「目的地?」



「はい、こちらが本日よりアメリア様のお部屋となっております。お一人、同室の方がおられますがよろしいですか?」



「なに、これ…」



「何、とおっしゃられましてもこちらはアメリア様、そしてハカラ様のお部屋でございますが?」



ハカラ、と言うのはさっき言っていた同室の者の名前だろう。でもそれよりも。



目の前に広がっていたのは普通の部屋。そう、普通の部屋。


奴隷になったにも関わらず普通の部屋をもらえるだけでも驚きなのに、それより驚いたのはここがつい先日まで一城で暮らしていたこの私の感性で“普通の”部屋だった事。


私の感性が庶民とずれていた事くらい知っている。それに奴隷がどんな扱いを受けているかだって…でもこれはそんなものじゃない。



さっきから何となく感じていたけどこれを見た今ならはっきりと言える。これは奴隷に対してする待遇じゃない。一体彼女…私を含めた彼女の主人とやらは何を考えているのか。それとも単に余程金持ちなだけかもしれない……正直そうだとしてもこの待遇には納得しかねるけれど。



「アメリア様」



「ぁ、何?」



「アメリア様が仰りたい事は大凡把握しております。この館に来られます当初“隷属の刻印”を刻まれた方々はある年齢以上ならばどなたでも似たような表情をいたしますので。それではアメリア様の疑問にお答えすると致しましょう」



「え、ええ…」



「それでは先ず初めに一番肝心な事…旦那様、つまりアメリア様の主であられる方についてをお伝えしておきましょう。アレは――獣です」



「けだも、は?」



「アメリア様に置かれましても努々注意をお忘れなき様。特にアメリア様はオプションがオプションでございますし…何よりあの時の旦那様の頬が緩んでおりましたので…念には念を入れまして護身用と致しましてこれを渡しておきましょう」



「これて…え、えぇ?」



渡されたのは漆黒の刃渡りの、ナイフ。



「それで隙を見て旦那様をぷすりとしてくださいませ。いえ、心配はございません。そのナイフの刃は飛び切りの呪で形成されておりまして特定の相手…この場合は旦那様ですね、にかすり傷さえ負わせる事が出来たのならば対象を死に至らせる事が出来るという優れものですので反撃はございません。それは私が全責任を以って保証いたします。万が一ご本人が傷を負った場合も呪は旦那様以外には反応いたしませんのでそれもご心配なき様。そのナイフがナイフとしての機能を果たすのは旦那様に対してのみ、と言う事です」



「な、何を行き成り…それに私は……奴隷よ?」



“隷属の烙印(・・)”を刻まれれば人は例外なく奴隷に堕ちる。そして奴隷は主人に生殺与奪全てを含む権利を奪われて、自身が死を望む事すら出来なくなる。それほど奴隷にとっての主人とは大きな存在になる。それをまして主人の命を奪おうだなんてできるはずがない。そもそも魔法の域すら超えた世界の理染みた力を持つ“隷属の烙印(・・)”がそれを赦さないに決まっている。これらは全部一般常識、のはずなのに…



「私に抜かりは微塵もなくアメリア様のなされる心配は杞憂、隙は何一つございません。余りにも当たり前すぎること故に先ず知られてる事ではございませんが“隷属の刻印”の一般に広まっている効果には実はただ一つのみ抜け道が存在するのです。奪われた権利は全て主たる者がその気にならなければ発動はいたしません、つまり“刻印”とは全自動永続効果のある“印”と言うわけでは決してないという事です」



「どういう、事…?」



「結論だけ端的に申し上げますと、旦那様に危害を加える方法があるということです。生殺与奪の権利を奪われているという事にある意味では変わりはないでしょうが。…ちなみに少なくとも旦那様に対しての危害可不可は私自身でも実証済みですのでご安心ください」



「ちょ、ま…それはおかしいわよ!?なら奴隷だって上手くやれば主から逃げられるって事じゃない、でも現実にはそんな事例聞いた事もないわ!!」



「はい。そのご指摘にもお答えいたしますが、在る事実は真に単純な事。旦那様以外の方々は主も“隷属の刻印”を刻まれた方々もどちらもが“奴隷は主に絶対服従”であるという事が『当たり前』と捉えております。そしてその潜在意識こそが“隷属の刻印”を発動させている源であるとも言えるのです。ですので旦那様以外の方々はほぼ無意識下で“隷属の刻印”を発動させ、それが貴方様方を縛っていると言う事になります。それでは最も、つまりそれは“刻印”の意味を正しく理解――いえ、これは今は関係ない事ですね。ですが、旦那様に対してのみそのナイフでの殺傷は可能であると、それは私が身と名前を以て保障いたしましょう」



「…」



「以上で説明は終わりですが、ご理解いただけたでしょうか?」



「一応、あなたの言いたい事は理解したつもりよ」



「それは僥倖」



「っ…」



で、でももし彼女の言う事が本当だとしたら…



「世界が裏返る、と?」



「っ」



どうして私の考えてる事が…



「驚いておられる様ですが、これは極簡単な類推です。それに加えまして皆様、この話をしますと一番最初に思い浮かべる内容が今アメリア様が想い描いたような内容です。ただこれも回答は真に単純な事。この世界は初めからそう在る、と。ただそれだけの事でございますよ、アメリア様。誤認なされませぬ様。心配は要りません、しばらくこの館でお過ごしになられれば恐らくそのお考えも変わる事でしょう」



「変わる?まさかそんな、だってこれは…」



「これは、自身で言うのはやはり気が進みませんが申し上げておきましょう。皆様、お考えがお変わりになられますご理由の一つとして『上には上がいる』と言う事が御座います。そしてアメリア様、親切心としてお一つ忠告しておきましょう。旦那様に逆らう事は――本気で逆らう事はお勧め致しません。………最も、己の身を求められた時のみは全力で御抵抗下さい。この私が全責任全力全身を持ちまして旦那様を排除いたしますので――ええ、必ず」



「そ、そう」



「はい」



「……」



その無表情が…い、いいえ。これ以上考えるのは止めておきましょう。なんだか視線も怖いし。



「ではアメリア様、しばしの間ですがごゆるりとお寛ぎくださいますよう。しばらく、準備が整いましたら別の者がお呼びに参りますので。では、最後の休暇を存分に堪能いたして下さいますように、アメリア・ヒン・アトラビ様」



ぱたん、とドアが閉まる。私は彼女の事をとめられなかった。第一とめる理由もないし、とめられるとも思えない。




残された部屋の中。



「一人じゃ少し広すぎる、わね…」



私以外誰もない部屋の中。外は騒がしくないし、きっと命を取られるような危険はあのときに比べればまだ少ない。


ようやく一人になったことを実感して、



「…」



私は気づくと泣いていた。




本編はあくまでキャラクターへの愛着を深めるために書かれたお話です。特にちょっぴりお茶目なメイドさんとかね♪

…別に堂々と出てきたお姫様のお話が書きたくなったわけではないですよ?


ちなみに名前の出てきているキャラクターのお話が欲しい場合は希望してくれれば書きます。

まあ、希望せずとも時々勝手に書きますが。


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