ど-120. ゆっくり休んで、また歩けばいいさ
お休みなさい
「なあ?」
「はい、なんでございましょう旦那様?」
「そうされてると休めないのだが?」
「そうなのですか?」
「ああ、てか近い近い」
「旦那様、そのように慌てて如何なされたのですか?」
「お前、分かってて言ってるだろ?」
「当然。それで旦那様、私などの添い寝はお気に召されませんでしたでしょうか?」
「それも分かってて聞いてくるからお前ってヤな奴だよな」
「御褒め頂きありがとうございます旦那様。それでお答えの方は如何なのでしょうか?」
「……今すぐ離れろよ」
「それはつまりお嫌と言う事ですか?」
「そう言うわけじゃなくてだな、照れるから止めろと……お前、口元が緩んでるから」
「これは申し訳ございません、旦那様」
「良いからさっさと離れろって」
「お断りいたします。旦那様の命とあらば聞かぬわけにはいきませんが、それも旦那様が本心で申し上げている場合にございます」
「つまりは俺が本心で言ってないと、そう言いたいのか?」
「それ以外に聞こえましたでしょうか?」
「聞こえないな。それならお前がそう言う根拠を言ってみろ、根拠を」
「…旦那様は意外と大胆なお方なのですね。それとも私にそのような事を直接言わせる、いわゆる羞恥ぷれぃと言うものなのでしょうか?」
「お前が何を言いたいのかは知らんが、俺としてはそんな気はないと言っておく。それとも単に根拠がないから言い逃れしてるだけか?」
「いえ、そのような事は断じて御座いません」
「なら言ってみろよ」
「旦那様がそうまで仰られるのでしたら…」
「勿体ぶらずに言えって」
「では……旦那様、言葉よりも身体は正直だともいいますし、その、何と言いましょうか、非常に恥ずかしいのですが、あの…」
「…あー」
「旦那様の、その…」
「いや、もういいや」
「目じりが下がって……、そうですか」
「お前、切り替わり早いのね」
「そうでもありません。それはそうと致しまして旦那様?」
「…なんだ?」
「先ほど、私の言葉をお止めになりましたが、旦那様は一体どのような事を想像なされていたのでしょうか?」
「何の事でしょーか?」
「ご理解しているくせに、おとぼけになられる御積りですか旦那様?」
「ああ、とぼけるね何所までもとぼけるね!…だからお前もこの件に関しての追及は諦めろ」
「了解いたしました、旦那様」
「……で、だ」
「はい、いかがなされましたか旦那様?」
「いい加減に離れたらどうなんだ?」
「旦那様の温もりに包まれているようで、私、次第に眠くなってまいりました」
「いきなりな急展開ですね!?寝るなら自分の部屋で寝ろ、つかばればれな演技は止めろよな?」
「くー…」
「いや、だからそんな分かりきった、…………」
「すぅ、すぅ、すぅ…」
「うわぁ、こいつ、マジで眠りやがった。この状況で俺はどうしろと?」
「……」
「仕方ない。俺も騒がず焦らず慌てず、精神統一して寝るか」
「……」
「…しかし、思い返せばこいつがこんな風に隙を見せるって言うのも本当に久しぶりだな。やっぱりあれか、子育てなんて慣れない事で疲れが溜まってたって事かね。やれやれ」
「……」
「それじゃ、お休み――」
「あ、母様いた!」
「……シャトゥ」
「母様と一緒に寝てレムばかりずるい。我も一緒に寝る!」
「…って、無理に布団に入ってこようとするな、こいつが起きるだろうが」
「う、むぅ。…分かった、こっそり入る」
「そうそう…ってそうじゃなくて根本的に…」
「それじゃお休みレムー…ぐぅ」
「早っ!?もう眠りやがった。……つか、これは一体どんな拷問ですか?」
「「……」」
「それともこう言う時に限って悪気がないって言うのを突っ込んだ方がいいのかね?どっちにしろ俺に休めと言って置いて休むなって事ですか、これは?」
レムくんに休息はない!…と、言う事で。
旦那様の今日の格言
「羊が一兆飛んで一匹、羊が一兆飛んで二匹……」
メイドさんの今日の戯言
「くー…、すー…」