ど-112. 大々的、総力を挙げて行いましょう
何か大変だな、色々と。
「腹、減った」
「そうですか、旦那様」
「そうですかって…それだけ?」
「はい、それだけですが何か問題でも?」
「問題って言うか、ご飯は?」
「ありますが?」
「なら下さい」
「何故でしょう?」
「何故って、腹が減ったから」
「旦那様はお腹がすいたらご飯を頂く、と言う事ですね」
「ああ、つーか何故に俺は当然の事を態々口に出して言わなきゃいけないんだ…?」
「ですが却下いたします」
「どうしてっ!?」
「言ってみただけです。そもそも私が旦那様の害になるような、意に添わない行いをした事がありましたでしょうか」
「……目茶苦茶、あるな」
「そうですか?」
「その自覚のなさが逆に怖いぞ」
「いえ、自覚なら十二分に御座います?」
「なら色々と訂正しようぜ」
「そうですね、ではまずは旦那様辺りを訂正する必要があるでしょうか?」
「なに、そのもしかして俺が危ないかもって流れは?つかマジに腹が減っているのですが?」
「…旦那様」
「何だよ、その解ってないな、的な哀しそうな声は。…ちなみに表情だけは全くの無表情だな、やっぱり」
「お腹が空いたと言えばご飯が出てくる、そのような世界は既に終わりました」
「は?」
「今は働く者食うべからずとも言いますし」
「なにその驚愕の事実!?つかそれは根本的におかしくね??」
「旦那様に与えるご飯はないとも、世間では常識ですし」
「そんな常識初めて知ったよ。と、言うよりもそれってもしかして旦那様じゃなくて俺個人に限定されてないか?」
「そんな事は、ございますとも」
「それは最早一般常識とは言わない」
「昔の方は言いました、ご飯がなければ食べなければいい、と」
「それは誰かが言ったんじゃなくて、止む得ずそうしてただけだと思う。…って、さっきから言ってるがこんな事に無駄な体力を使わせるんじゃねぇ〜」
「旦那様は本気で困っているご様子。どうしたものでしょうか?」
「どうしたも何も、めしぃ…」
「……ふむ。声の張り具合、顔色、視線の強さから、旦那様にはまだ余裕があると判断いたします」
「そもそもどうして俺はこんな断食まがいの事をしているのでしょうかっ!!」
「おや、断食まがい、とは断食ではなかったのですか?」
「…何それ。後無駄に叫んで益々力がなくなったぁ」
「実は今、この館は大きな食糧難に面しております」
「……うわぉ、初耳の事実だな、それ」
「と、言うのは全くの冗談ですが、……おかしいですね、旦那様のご飯はシャトゥに運ぶように、と言いつけておいたはずですが?」
「…シャトゥ?そう言えば今日は朝から見てないな。つか、シャトゥが駄目なら他の奴に運ばせろよ。特にお前とか」
「いえ、これもシャトゥの為かと思い、シャトゥ以外には絶対に旦那様へご飯を届けるのは止めるようにと、皆様には強く頼み込んでおりますので」
「よ、余計な事を。…それはそうとシャトゥの奴、本当にどうしたんだ?」
「…さて、私もシャトゥの姿は今朝から見ておりませんが」
「料理をつまみ食いしようとしてどこかで倒れてたりしてな、ははは、は…」
「……成程」
「「……」」
「では旦那様、少々シャトゥを探しに行ってまいります」
「ああ、それは分かった。だから俺の飯は…」
「旦那様に食べさせる飯はありません?」
「…なに、それ。それはもういいから………って、マジで何も用意せずに行きやがったっ!?…ちっ、こうなれば直接食堂にでも行くか」
その後、瀕死の状態でシャトゥが見つかりましたとさ。
ついでに総力を挙げての探索だったのでレムくんのご飯はやっぱりなかったとか。
旦那様の今日の格言
「こうしてヒトは少しずつ大人になるものなのさ」
メイドさんの今日の戯言
「旦那様が仰られてもまるで説得力が御座いません?」