ど-108. 朝の安らぎ2
朝の何気ない一時と言うのは本当に大切なものです。
「…旦那様、朝でございます」
「ん……あぁ、もうそんな時間か」
「おはようございます、旦那様」
「ああ、おはよ。…ふぁぁぁ、いや、しかし今日はいい朝だ」
「そうなのですか?見たところ外はどんよりと曇り一面、気候も生温いような湿度も高い、極めて不快な朝だと思われますが?」
「…いや、それでもこう、何事もなく目が覚めるって言うのはいいものなんだよ」
「はぁ、そのようなものでございましょうか?」
「そうなんだよ。毎朝毎朝毎朝毎朝、シャトゥの奴が手を変え足を変えて、いったいどんな方法だよ?って言いたくなるような方法で起こしに来てくれてたからな」
「ご満足いただけたでしょうか?」
「…お前も一度はアレを体験してみろ、と言いたい」
「謹んで辞退させていただきます。旦那様と同じ体験など、この身に余り過ぎてしまいますので」
「そう遠慮するなよ?つかな、よくよく考えればアレを全部考えたのってお前だよ?」
「はい。よくよく考える必要もないくらいに当然の事ではありますが。しかし旦那様がその事実にお気づきになる事があろうとは、本日は本当に良い朝、と言う事ですね?」
「その嫌味は敢えて聞き流そう。いつぞやのように気分のいい朝を台無しにしたくないからな」
「賢明な判断かと」
「…お前がそれを言うかねぇ」
「それはそうと旦那様、ご朝食は如何なされますか?」
「んー、もう少し後でいい。ちょっとその辺でも散歩してくる事にするわ」
「そうですか」
「ああ」
「ですが旦那様、少々お待ちいただけますか?」
「何だ、お前も付いてきたいのか?ならいいぞ」
「いえ、そのような事は、確かにあるのですが。そうではなく、」
「何だ?」
「生温い不快な気候である、とは先ほど申し上げましたが、今はどうやらその湿度を一気に発散させるために結界が自動的に」
「……あぁ、なるほど」
「今、館の外は豪雨となっております」
「確かに、そうみたいだな。…くそぅ、何か出鼻をくじかれた気分だ」
「旦那様、そう落ち込まず、お気を確かにお持ちください」
「いや、たかがこれくらいの事で落ち込むような生活はしてないのだが」
「そんな健気な旦那様に朝の爽快な気分を一本――と言う事でこちらをお持ちいたしました」
「お!?それは『悪魔の串刺し』か?」
「はい。とある“魚”を微塵に切り刻み、成形して乾燥させたもの…旦那様お好きですよね?」
「おお。ありがとな。……日頃から食生活に関しては酷いからなぁ。偶に食べられるまともなものを見るとこう、目がしらに熱いものが」
「では旦那様、もうしばらくし致しましたら朝食をお持ちいたしますので、それまでごゆるりとお休みくださいますよう」
「ん、分かった。じゃ、またな〜」
「はい、では…」
「母様?」
「シャトゥ、待っていてくれたのですか」
「うむ。して、首尾の方は如何でした、母様?」
「万事滞りなく。旦那様も機嫌を直して頂けたようで、もう心配する必要はありませんよ」
「そうか。それはよかった」
「ええ、本当に。…では、旦那様の機嫌もなおった所で次の段階に行くとしましょうか、シャトゥ」
「うむ!次は何をレムにするのです、母様?」
「そうですね……では、こうしましょう」
だから付け入られる。
そして『悪魔の串刺し』とはレムくんの大好物、珍味であります。少々ゲテモノ、でもある。
そして日々は続いていく。
旦那様の今日の格言
「いい朝だ」
メイドさんの今日の戯言
「いい朝で御座いますね?」