ど-106. 弱肉強食…ですぅ?
弱いものから順に朽ちてゆく。
「旦那様、私は今非常に悲しんでおります」
「…何で?」
「遂に旦那様の吊るし上げが始まるのですね」
「てめぇいきなり何物騒な事をほざいてやがりますか!?」
「え、違うのですか?」
「違うも何もその情報の出所は一体どこだ?」
「シャトゥが旦那様打倒を果たしたと言っていましたので、やはり次に行われるべきは旧支配者の明々的な排除ではないかと」
「いや、誰が誰に倒されたって?つかそれは一体何の話だ?」
「シャトゥが旦那様に決闘を挑み、結果旦那様は地を這う虫けらすらも同情し道を譲ると言うかくやの敗北を喫したのではないのですか?」
「ああ、なるほど。アレの事か。いや、そもそも決闘してないし」
「旦那様は決闘を申し込まれたのではないのですか?」
「いや、確かに申しこまれはしたが」
「しましたが?」
「逃げた」
「敵前逃亡は敗北である、と」
「状況によっちゃ確かにその通りだが、決闘の場合は違うだろ。それに敵前逃亡じゃなくて戦略的撤退と言え、戦略的撤退と」
「確かに戦略的撤退と敵前逃亡では大きく意味が異なりますね」
「そうだろ、そうだろ」
「ですが僭越ながらも旦那さまより戦術眼がある私の視点で言わせていただきますと、今回の旦那様の行いは敵前逃亡の方に当たると思われます。…吊るし上げ?」
「つかよ、敵前逃亡云々はこの際言いとして、お前はそこまで俺を吊るし上げに合わせたいのか?」
「はい」
「即答!?」
「…冗談でございます」
「その、微妙な沈黙の意味はなんだ?」
「場を盛り上げるための演出?」
「しなくていい、しなくていいから、んな事」
「では以前提案し、暗黙の了解の下で着実に進めてまいりました旦那様を中心に祭り上げましてのお祭りの計画は…」
「却下だ、却下!」
「そんな…!」
「ていうか暗黙の了解ってのはなんだ、それが他の奴らの総意で実は現状でも俺は結構やばいとでも言いたいのか!?」
「ちなみに私が提案をして少々のオトしを掛けましたら即、全員可決の承認がなされましたね」
「今回もやはりお前のせいか?…つか全員可決ってどんな勢いだよ?」
「会場には満面の笑みがこぼれておりました」
「こわっ、そもそもそれって俺を吊るし上げようって提案した時の事だよな?いや、正直奴隷たちにそんなに嫌われてるとは思ってなかったし、思いもしたくないのだが?」
「奴隷ではなく“隷属の刻印”を刻まれた方々です、お間違えなさらぬよう。それと結果に関しましては人望の差でしょう、旦那様は人気者ですから」
「そんな人望いらねぇ!?」
「旦那様、処罰を覚悟で上申させていただきますが、他者の想いを否定なされるのは宜しくありませんよ?」
「ひしひしと伝わる命の危険に他人の思いも何もあるかっ。…ゃ、そう言えばそお前は今悲しんでるんじゃなかったのか!?」
「何を唐突に。当然、悲しんでおりますとも」
「唐突じゃねえよ、最初にお前自身が言ってた事だ」
「親が子を超える、これほど感動の場面が他にあるでしょうか。寂しさに打ち震えております」
「え、その事!?つか親が子を超えるって何の事ですか!?」
「シャトゥが旦那様に勝ったと。旦那様と言う一つの壁を超えたシャトゥはより一層素晴らしい子に育つ事でしょう」
「……このままずっと、お前が育てていけばそりゃ、なぁ」
「いえ、旦那様にお褒めいだたくほどでは。私などは子育てに関しましては初心者ですのでまだまだで御座います」
「むしろ子育てを極めたお前は見たくもない」
「旦那様は独占欲が強いのですか?」
「なにゆえ?」
「さて?」
「まあ、いいか」
「はい。……では旦那様、私はこれで失礼させていただきます」
「何だ、何か用があるのか?」
「はい。私の作為的な解釈でシャトゥをその場に置き去りにしてきてしまいましたので。……あの子も寂しくて泣いている事でしょう」
「いや、あれはそんなタマか?」
「例え旦那様であろうとも失礼な。シャトゥは気立てのよい素晴らしい子です。………旦那様以外には」
「うぉい!何か最後に非常に重要な事を呟きましたね、てめぇ!」
「些細な事ですので旦那様がお気になされる必要などないかと。では、失礼させていただきます」
「行った。俺は…………さて、奴隷たちに誤解を解いてくるか。あと、意識調査もついでにな」
旦那様いじりに関してはすでにマスターの領域にあるメイドさん。ただいまシャトゥにその業を伝授中。
レムくんは今日も今日とて心の中で涙を流す。
旦那様の今日の格言
「相互理解に重要なのは話し合いだ」
メイドさんの今日の戯言
「相互?」