ど-104. 憑き物、オチもの
禁句は存在する。でもそれはタブーとしてではなく…
「なあ?」
「はい、なんでございますか旦那様?」
「お前のその服ってさ」
「はい、メイド服でございますね?」
「そう、そのメイド服なのだが、どうして着てるんだ?」
「!!!!!!!!!!!!!」
「いや、何故そこまで驚く?」
「だ、旦那様が、旦那様が私の存在意義を問うような質問をなされるとは」
「お前の存在意義はその服一枚で決まる程度のものなのか?」
「いえ、まさか。旦那様ではあるまいにそのような事は御座いません」
「ならどうしてそこまで驚く?」
「いえ、よもや旦那様からそのような問いかけをされるとは露ほどにも思いませんでしたもので」
「…そこまで重大な質問か?」
「はい、それはもう。旦那様の存在意義と比べてどちらが重大か、と言えるほどの事でございます」
「それは……俺の存在意義がそこまで低いと言う意味か、それとも今の質問が非常に重要な事か、いったいどっちの意味なんだ?どっちにしてもなんつーか、どうなんだ?って感じなのだが」
「この服ですか?単に動きやすいからですが、それ以外に何か理由が必要でしょうか?」
「あっさり告白来たー!?!?」
「つまり旦那様の存在意義がこの程度であると、そう受け取ってもよろしいのでしょうか?」
「よくないよくない。と、いうかあれほどまでに引っ張っておいて今更さらりと言うなよ。そして俺の存在意義を返せ」
「ついでにもう一言申し上げるとすればこの服を着ていると私が旦那様の世話をかいがいしくしているという実感が湧きやすいからです」
「滅茶、自己中心的ですね」
「いえ、私の中では常に旦那様が中心で踊っております」
「…、いや、踊ってるって、それどうよ?」
「非常に愉快そうですが?」
「それはそれで、単に頭のおかしいヒトに見えるだけじゃないのか?」
「日頃より旦那様を見ておりますので問題ございません」
「それは何!?俺はいつも踊っているような奴と同等レベルの変な奴って事なのか!?」
「旦那様は高レベルです。劣るなど、ありえません!」
「…そのセリフは時と場合を選んで言ってほしいセリフだ。ちなみに今の場合は侮蔑以外に聞こえないのですが?」
「旦那様がそう仰られるのでしたらそうなのでしょう」
「侮蔑!?お前は、ご主人さまたる俺を侮蔑してそれでいいと思っているのか!?」
「私は侮蔑した気は毛頭御座いませんでしたが、旦那様が侮蔑なされたと勘違い致しておりましたので、それが旦那様のお望みとあらば、とお応えしていた次第にございますが至りませんでしたでしょうか?」
「わおっ、すっごい気の遣いようだな!」
「それほどでは…」
「照れるな照れるな」
「てれてれ」
「…いや、今度は全く照れてないから」
「そう言えば旦那様?」
「何だよ?」
「旦那様は覚えていらっしゃらないでしょうが、私がこの服を着た時、旦那様は初めて私に服が似合っている、と褒めてくださいましたね」
「……あ」
「いえ、それがどうと言う事ではありませんので、お気になさらずに、旦那様」
「………バカヤロ。このタイミングで言われて気にするなって、気にしない方がおかしいだろうが」
「――いいえ?本当に…このような事など本当に些細な事ですので」
禁句とはついうっかり口を滑らせてしまう言葉だから、禁句と言う。
…ヒトはそれを『地雷を踏み潰す』ともいう。
些細な事なのです。そして些細な事で、日常が出来上がっていく…のかな?
旦那様の今日の格言
「ヒトには忘れていい記憶と忘れちゃいけないモノがある。」
メイドさんの今日の戯言
「旦那様は照れ屋さん、ですか?」