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harem!〜カオス煮、いっちょ上がり!〜  作者: nyao
【スィリィ・エレファン編】
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ACT XX. スィリィ-28


行けば分かるさ、迷わず進もう、と誰かも言っていた


スィリィ・・・不幸、ではないと思われる女の子

マレーヌ・・・レム君の奴隷で優秀な子。一人で“灼眼の因果”を乗り越えてらっしゃる。実はギルドランクS相当の凄い子

レム・・・云わずと知れた?この物語の主人公に当たるはず、の人物


「さてと、どこに行こうかしら……?」



意気込んでみたのはいいのだけれど、何かをしようって気になれないからどこかに行こう、なんて目的地はないし。


かといって、自分の部屋で じっとしてるって言うのも何か、不思議な不快感があって嫌なのよね。



ぶらぶらしてれば何か気の向くモノでもあるかな、とか思ってたんだけど、見事に何もないわね。


少しだけ修繕中の建物が多い気もするけど、とりたてて気にするような事じゃない。面白味だって何もないし。



いや、それよりもさっきから気になっているのは、どうして私はさっきからずっと、何かを探しているみたいに街の中をさまよい歩いてるのかって事。


何か探してるのなら、その探し物って言うのをはっきりさせるべきだと思うし、そうじゃなければ早々に見切りを付けるべきのはずよね?


なのに今、私はすっごく未練たらしく、思い出せもしない何かを探している……ような気がする。唯の探索、気の紛らわしって言えればそれでいいんだけど、それはきっと違う。


寝起きだったから、とも思ってたけど今はもう頭だってはっきりしてるし。ほんとに何なのかしらね。



無性な焦燥感と、ないはずの損失感。こんな自分が嫌になってくる。


大体、昨日までと変わり映えのしないこんな街の風景を眺めていて何が楽しいって言うのか。



「あー、この手配書の幼女拉致監禁犯指名手配犯、まだ捕まってないんだ」



しかも養女誘拐拉致監禁調教未遂容疑追加って、ヒトとして終わってるわね、この犯人。


ほんと、凶悪犯だって街中うろついてるみたいだし、むしろ昨日よりもつまらない気がす――








それは私の、誰も知らない一つの願いと約束。



ある一人の少女がこう願った。



“今日より明日が少しでも幸せな世界で在りますように”



そして彼女は応えた。



“私が叶えましょう”



昨日よりも今日、今日よりも明日が幸せである事。それは一種の奇跡のようなもの。それが可能なのは精々が神様くらいのものでしかなく、








――まって。待って待って待って待って待って、ちょっと待って。



「幼女&養女誘拐拉致監禁調教未遂容疑、指名手配。懸賞金、金貨100枚…って、あり得ない金額ね」



金貨100だなんて、どれだけ遊んで暮らせる金額なんだか。


…ま、良いわ。ってよりそんな事じゃなくて、



「名前、レム・ザ・へたれキング……聞いた事ない、わよね…?」



何故か凄くしっくりとくる名前の気もするんだけど、少なくとも私の記憶の範囲で覚えている名前じゃない――はず。


で、それはいいのよ。それよりも問題なのはこの…



「――似顔絵。私、このヒトを知ってる」



間違えるはずもない。私はこの指名手配犯を知っている。見た事がある。でも、どこで…?




故郷? ……違う。


学園内? ……違う気がする。


なら街中? ……それも、違ってると思う。




私はこのヒトを知っている。でも“知らない”。



「あったま、痛い。……気持ち悪い」



この無性に腹立たしくって、泣きたくなってくる不思議な感覚。……もうっ、焦燥感と言い喪失感と言い、さっきから何なのよぉ、私っ!!





「なあ嬢ちゃん、今なんて言った?」



「この手配書の犯人を知ってるって、確かに言ったよな?」



「どこでだ? どこで見た??」





それにさっきから、周りにヒトが集まり出して鬱陶しいし。



「ちょっと、黙っててよ。私いま忙しいんだから」



他人に構える余裕なんてないんだから。





「そうは言ってもな、こっちも『ハイ、ソウデスカ』って引き下がるわけにもいかねぇんだよ、お嬢ちゃん」



「がははっ、額が額だしな」



「うっせっ。俺は純粋にこの街の住人の安全を願ってだな…」



「嘘ならもっとうまいウソをついたほうがいいぞー?」



「そうだそうだー」





「――っさいのよ。だから……ぃって」



「ん? お嬢ちゃん、今なんて…」



「だから五月蠅いって言ってるのっ!! あなたたち全員今すぐ黙りなさいっ!! ――“凍てつけっ”!!!」



「うおっ!? ……て、なんだよ嬢ちゃん、言葉だけかよ」



「はは、お前何びびってるの?」



「うっせ。この嬢ちゃんが真剣だったからちょっとしたサービスだよ、サービス」





「だから五月蠅いのよあなたたち。このっ、“凍てつけ”、“凍てつけ”“凍てつけ”“凍てつけ”“凍てつけ”“凍てついて”よ、もうっ!!!」





「はははっ、嬢ちゃん知ってるか? 魔法って言うのはな、そんな凍てつけって言葉だけじゃ発動できないんだよ?」



「そりゃそうだ。そんな事できるんなら魔法使いの立場がないしな」



「そんな事が出来るとすればそりゃ既に大魔法使い様だよ、お嬢ちゃん?」



「しっかし、こりゃハズレかぁ。何か最近この街で異常者が出るって言うし、このお嬢ちゃんもその類だったかな?」



「なんでぇ。期待させやがってよ」







「そこの集団、固まっていないでただちに解散しなさい。でないと捕縛します」







「やべっ。自警団か。ずらかるぞ」



「ああ、こりゃこの街もそろそろ移動した方がいいかね?」



「かもなぁ。最近、城の近衛とかも出張ってきてるって噂だしな」



「うひゃぁ、そりゃまたどうして?」



「さあ? 偉いお方の考える事なんて俺ら庶民にゃ分かりませーん、てか」



「ぎゃははっ、そりゃそうだ」



「っと、ほら散るぞ。ホントにお縄にされちゃたまらねぇしな」



「おうっ、と」





何で、どうしてよ?


私はいつから“この程度”の事も出来なくなっちゃったの? 無詠唱魔法なんてそんな……高等ぎじゅつ、を?


いいや、ちょっと待って。そもそも私はいつから無詠唱魔法なんてものを使えた? ……ううん、そんなものを使えた事なんて一度もないじゃない。なのに、どうしてさっきまであんなに真剣に、私ってば使えるなんて思ってたのか……?



「……ほんと、何なのよ、もぅ」



泣きたくなった。






「誰かと思えば魔法科在中、スィリィ・エレファン様でしたか。今の時間は学園があるはずですがどうしました?」



「……誰?」



「『烙印解析学』の代理講義を行っているマレーヌです。お忘れですか?」



「烙印解析学?」



「はい、『烙印解析学』です」



「……」



“烙印”ってところに不思議な引っかかりを覚えた。それに『烙印解析学』ってすごく興味ある名前の講義なんだけど初めて聞く講義名よね。聞き洩らしてたのかしら?


……私、やっぱり何かとっても重要な事を忘れてるような気がする。



「それよりエレファン様、少々お聞きしたいのですが、こちらの人物を見かけませんでしたか?」



「こちら……?」



そう言ってマレーヌって子が私に見せてきたのは



「ぁ、これってさっきの…。と言う事はあなたも懸賞金目当てなの?」



「懸賞金? ……確かにこれは手配書ですが、違います。私は純粋に脱走中のあるじさ――レム・スタンピート先生に用事があるだけです。それと彼はこの手配書に書いてあるような事をする人じゃありません。それは監視役の私が断言します、そんな度胸甲斐性はあの人にはないのです」



「レム・スタンピート先生? レム・ザ・へたれキングじゃないの?」



不思議と、スタンピート先生って方がしっくりくる気はするんだけど…。



「? おかしな事を言います。それともエレファン様、まさか先日の件でレム・スタンピート先生の事をお忘れになられて…?」



「! ちょっと待って、それってどういう事!? それに先日の件って、それってもしかして私が魔力欠乏で倒れてたって事と何か関係があるの!?」



「……どうやら本当にお忘れのようで。聞いた話とは少し異なりますが、恐らくはこれも“灼眼の因果”とやらの影響なのでしょうね」



「“灼眼の因果”?」



不思議と、これもまた聞き覚えのある気がする言葉なんだけど……やっぱり心当たりなんてないわよ、ね?



「はい、私も詳しいところは知りませんが、ライカーレやファイから聞いた事と、今のエレファン様の言動を考えるに、今のエレファン様には記憶の欠落があるようですね」



「記憶、欠落? 私が??」



「はい、恐らく。私の事や、レム・スタンピート先生の事を忘れてしまっていた様子ももしかするとその影響かもしれません」



「レム・スタンピート」



不思議とこの名前が気にかかってる気がする。……名前を聞くだけでむかむかしてくるのだから、『レム・スタンピート』という人にはあまりいい印象を抱いてなかったっぽいのだけれど。



「とは言っても詳しい事は私は存じ上げませんから、そうですね、確か……ファアフ、先生? でしたか、に尋ねれば答えてくれると思われますので、これ以上不穏当な言動を繰り返す前になんとかした方がいいですよ?」



「不穏当て……うん、でも分かったわ。ありがとう。ファアフ先生、ね」



多分それってアイネが言ってた、“ファアフお姉様”の事でいいのよね? でもこんなところでその名前を又聞くなんて、何か変な感じなんだけど。



「また忠告ですが、今この街は少々異常な様です。下手に不用意を働けば本当に捕まってしまいます。そして即、収容所送りだそうです」



「しゅ、収容所?」



「はい。どうにもスフィア王城勤めの近衛が動いているようで……何か大きな問題でも起きていなければいいのですが」



「そ、そうね」



王城の近衛が動いて、しかもアルゼルイまで遠征しに来てるなんてよほどの事、なのよね?


何か起きてる……そう言えばあの手配書の懸賞金ってすごい金額だったけど、近衛が動くほどの大事件・大犯罪者なんて……まさか、よね?



「それでは、私はこれで街の警備とレム・スタンピート先生の探索に戻りますので、何か気がついた事があったり、仮にレム・スタンピート先生を見つけでもしたのならご一報ください、お願いします」



「ええ、分かったわ。それともう一度聞いておくけど、ファアフ先生に聞けば“灼眼の因果”とやらの事は分かるのよね?」



「はい、間違いなく」



「そう。私の方こそ教えてくれてありがとうね、マレーヌ」



「いえ、それほどの事では。では私はこれで」



「うん、じゃあまたね」



「はい、また学園でお会いしましょう」








さて、と。



ファアフ先生よね。そのヒトに聞けば私の中にある、このもやもやとしたものの正体がはっきりする気がする。そう思うと学園に向く足取りが逸ってるわね、私。



「まあまあ、人生そう急く事もないんじゃないか?」



「そう、は思うんだけど自然と足が、ね」



「そんなものか。もっとゆとりを持った方がいいと思うぞ?」



「でも……て、あれ?」



私、今誰と話して――



「ぁ、あああああ!!」



頭の中が真っ白になって、何も考えられなくなっていた。



「いよっ、スィリィ。久しぶり」



「貴方! レム・スタンピート!!」



「って、こらこら声がでかいぞ。巡り巡ってもう一度、今俺の立場って何故か非常に危なくなって…」





「おい、あれってこの手配書と同じじゃないか?」



「懸賞金、金貨百枚?」



「幼女&養女誘拐拉致監禁調教未遂容疑って、こいつすげぇ勇者だなぁ」





「…て、もう手遅れっぽいな。周りに十分注目されてるし、ついでに囲まれかけてるし。マレーヌがまだ戻ってきてないのだけが唯一の救いか。て言っても時間の問題だろうけど」



「観念なさいっ、この強姦魔っ!!」



「って、あなたもですか、スィリィさんっ!?」



「何でか知らないけどあなた見てるとイライラしてくるのよっ!!!」



「んな理不尽なっ……て、言い合ってる余裕も時間もなさそうだな。取り敢えず――逃げるっ!!」



「ってちょっと……」





「凶悪犯が逃げたぞっ!」



「追え、捕まえろ!あのへたれっぽい奴を捕まえただけで金貨百枚だぞ!!」



「ゴーカン魔が逃げたぞー」



「きゃー」



「わーこっちきたぁ」





「あぁ、何故か凄い事になってるなぁ。つか俺が混乱を引き起こしてどうするよ、ってわけなのだが……やっぱり後処理をリッパーに頼んだこと自体間違ってたかなぁ」



「ちょっと! 何で私まであなたと一緒に逃げなきゃいけないのっ!? 手を離してよ、この強姦魔!」



「ほら、その場の雰囲気ってあるだろ?そんなノリだ」



「ノリって何よ、ノリって。良いから手、離して」



「や、それはもう無理」



「何でよっ!?」



「いや、後ろ見てみ?」



「?」





「連れは二人だぞ!」



「女の方も逃がすな、きっと仲間だ!」



「金貨っ、金貨っ」





走る事にした。



「最悪。どうして私まで仲間だと思われてるわけ?」



「そりゃほら、俺が手を掴んで一緒に逃げたから?」



「全部あんたの所為だー!!」



「はっはっはぁー!」



「笑ってごまかすなっ!」



「ま、何とかなるって」



「何ともならないわよっ!!!」



「兎に角、だ。今は取り敢えず」



「取り敢えず?」



「全力で逃げるぞ!」



ちょっと、後ろを振り向いてみる。


……あぁ、後ろから追ってくるヒト達の眼がやばい事になってるし。具体的に言えばお金の目だ、あれは。と、言うより普通の人も交じってるの、私の気の所為じゃないわよね?



「……あぁ、もうっ!」



何でなのよっ!?





握られてた手を強く握り返して、取り敢えずは神様あたりに恨み事でも言って置いてみる。





「取り敢えず、さ。レム……すたんぴーと、だったかしら?」



「レムって呼び捨てでいいぞ、スィリィ」



「分かったわ、レム。それでね、今この場から逃げきれたとして一つだけやっておく事があるのよ」



「やっておく事?」



「ええそう。まあだから何も言わずに……一発殴らせなさいっ!!!!」



「は? 何それ?」



「五月蠅い黙って一発殴らせろ! 私の乙女心とかファーストキスとかその他いっぱいの恨み、晴らさでかっ」



「全く意味が分かりません!!」



「私も自分で言ってて分からないわよ!」



「なんじゃそりゃ!?」



「何それって言いたいのは私の方なのよ、本当にもうっ!」









不思議と、起きてからさっきまであった胸のもやもやとか、焦燥感や喪失感が綺麗さっぱりなくなってた事に気づいたのは、随分と後になってからだった。


まあ、言っておく事があるとすれば?この逃走劇が国を跨いでも続いて、私がそれに思いっきり巻き込まれた事かしらね。一月くらい帰れなかったし。


あぁ、思い出したらまたむかむかしてきたわ〜。




それが『レム』と名乗る彼との、“初めて”の出会いで。



ムカつくほどに密度の濃い一月の、逃走劇の始まりだった。







そして、



――久しぶりですね、スィリィ・エレファン



「貴女は…だれ?」



澄んだ青い髪と瞳の、綺麗な女のヒト、私は彼女の事を“知ってる”。



――私ですか?そうですね、……冰頂、とでも名乗っておきましょうか



それは、また別の話になる。





取り敢えず一区切り?みたいです。私にもよく分かりませんけど。

スィリィ嬢の苦労話はまだまだですね。と言うよりレム君とかかわって苦労しない女の子はいません(断言)


事の顛末&一番書きたかった事は次回で。…むむ?


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