ど-12. 宝石
君が笑えば私も笑う〜
モノの価値は人それぞれです。
「お、珍しいものつけてるな」
「…旦那様。はい、これはこのたび外界より帰還いたしましたライカーレ様より御土産としていただきましたもので御座います。如何でしょうか?」
「それって黒曜石だよな?結構似合ってるぜ」
「…、……、結構、でございますか」
「ああ」
「旦那様、実はこれの他にもう一つ、同じく外界より帰還いたしましたミミルッポ様よりいただいた物があるのですがそちらも見ていただいてよろしいでしょうか?」
「ああ、別に構わないけど…相変わらずお前、奴隷達に人気があるよなぁ。俺なんて土産の一つも貰って…はいるけど全員からまとめて一つだけだぜ?」
「はい、旦那様と違い私には人望と言うものがございますので。それと訂正いたしますに奴隷ではなく“隷属の刻印”を刻まれた方々、に御座います。…それでは、持って参りますので少々お待ちくださいます様」
「ああ、急いでもいないからゆっくり取りに行って良いぞ」
「はい、では――」
「さて、と。…しかしあいつ等も案外とセンスがないよな。確かに黒ってのも似合いはするんだが……あいつ根っから純白な奴だからなぁ、主張しすぎの色だと宝石の方が負けるからな。難儀なもんだよ」
「お待ちいたしました、旦那様」
「っと、相変わらず早いな」
「はい、旦那様をお待たせするわけにはいきませんので、当然の事でございます」
「いっつもそんな殊勝な態度だと俺としては大変ありがたいんだけどなぁ」
「それは却下でございます、旦那様。いえ、そもそもとして私は常に旦那様に対して半歩先を行くという心積もり、謙虚そのものの姿勢でおります。ですのでこれ以上殊勝な態度を旦那様に対しまして示しますのは優秀な私にも大変困難な事で御座います。どうか諦めてください」
「今の発言は何処をつっこんだら良いんだ?とりあえずは世界中すべての生き物に謝った方が無難だと思うぞ」
「旦那様」
「な、何だよ」
「それこそ不可能な事でございます。私は旦那様の所有物ですので、私の過失は即ち旦那様の過失。旦那様が頭を下げる事はありますがそのとき私は旦那様のお傍にはおりません。このように、旦那様は私が旦那様以外の者に頭を下げると本気でお思いなのでしょうか?その通りだと致しますと私は旦那様の事を些かばかり過剰評価していました事になります」
「………、ああ、そりゃそうだ。お前に謝るなんて文字はなかったんだよな」
「はい、私は常に正しい行いを心がけており、それを実行に移しております。旦那様のように常に天邪鬼に行動されるお方とは違うので御座います」
「別に天邪鬼な行動をしているつもりはないのだが…」
「それで、旦那様。……如何でしょうか?」
「今度は…て、何だそれ。宝石…じゃないよな?」
「はい。ミミルッポ様よりいただきましたこれは硝子玉でございます」
「硝子って…純度は良いみたいだからそれなりの物だろうけどよ、宝石よりは値が落ちるだろこれ。つー事はミミルッポの奴、騙されて買ってきたのか?それとも初めからお前に硝子を買ってきたのか?」
「はい、私が推測いたしますには前者かと思われます。ミミルッポ様は精神が未だ幼い方で御座いますので、単純に私に似合う綺麗な物を買って頂いたようです。最もミミルッポ様のお言葉から推測いたしますに店子様には宝石として進められたようでは御座いましたが」
「あー、そうか」
「いえ、しかし心配には及びません。ミミルッポ様への侮辱は主人である旦那様への侮辱と同意にございますれば、それ相応の償いはしていただきました。ただ、申し上げましたようにミミルッポ様は些か精神が幼い方でいらっしゃいますのでミミルッポ様にその様をお見せするわけにもいかず、買ったその場での制裁は控えただけの事で御座います」
「…別に俺は侮辱だとは思ってないけどな。だって、それ――」
「ええ、旦那様の仰る通りで御座います。問題があったのはその店子様の言動で御座います。物の価値を理解しておいででいらっしゃられませんでしたので、少々お仕置きを致しました」
「…まあ、程々にして置けよ」
「はい、程々にはしておきました」
「しかしお前って昔から職人芸とかじゃない、そんな素人作りな物好きだよな?」
「いいえ、旦那様。職人の方々がお作りになる作にも良作は御座います。ただそれを単なる仕事としてしまった時点で価値が失せるだけの事」
「よく言う気持ちが大事、って奴だよな。……その所為で俺は最近死に掛けてるんだけどな」
「ファイ様のご昼食の件で御座いますか?しかしファイ様は確かに腕をお上げになっているかと存じ上げますが?」
「そりゃ、な。なんと言ってももう容器が溶けないしな」
「はい、大進歩で御座います」
「……そこまで胸を張って嬉しそうに言うような事じゃないけどな」
「そんな事は…いえ、それは今はいいのです。それよりも旦那様、如何でしょうか?」
「ああ、そう言えばお前の寸評会やってたんだったか」
「はい。それで、重ね重ねのお尋ねになりますが…如何なものでしょうか?」
「ああ、似合ってるぞ」
「はい」
「………」
「………」
「…何だ、まだ何かあるのか?」
「たったそれだけ…いえ、何でもございません。そうですか、似合っていますか」
「?、ああ」
「ありがとうございます。そしてそれでは、失礼いたします、旦那様」
「ん、おう……と、ちょっと待った」
「はい、何でしょうか?」
「まあ、何故か落ち込んでいるお前に追い討ち掛けるようで悪いような気もするんだけどな、気になったからやっぱり言っておく事にするぞ」
「はい、どうぞ何なりと申します様。中傷は万事受け取っておりませんのでそのように」
「首飾りとかそう言うアクセサリーだけどな、似合うには似合うけどおまえ自身に負けてるんだわ。お前も一応女な訳だしそう言ったアクセサリーとか好きだとは思うんだが、何て言えばいいのか。だからな、今一決まりきらないってか、あー」
「…率直に申し上げていただきまして結構で御座います。どのような意味なのでしょうか?」
「つまり、だな」
「はい」
「お前はそのままでも十分だって事だ」
「つまり?」
「〜〜、お前はただのお前のままでいる方が綺麗だって事だよっ!!」
「…一つ、尋ねてもよろしいでしょうか?」
「ああ、もういいぞ。一番恥ずかしい事はたった今言ったからな。もう何でも聞いて来いってもんだ!!」
「ただ今の意見は旦那様の主観でございますか?それとも一般的に見た客観と言うものなのでしょうか?」
「ん?ああ、俺の主観、ではあるけど客観的に見てもそうだと思うぞ。まあどっちでも同じって事だな」
「……そう、ですか」
「それがどうかしたのか?」
「いいえ、何でもございません。それでは、私は皆様方の見回りがございますのでこれで失礼させていただきます」
「ああ、引き止めて悪かったな」
「いいえ。それでは、失礼致します」
「………、ふむ、あいつが自然と笑ったのって随分久しぶりに見たような…?しかし一体何に対して笑ってたんだ?……分からん」
本日の一口メモ〜
旦那様の一日
朝、強打による強制起床→文句→朝食→意識の混濁→強制労働→昼食→昏睡状態→花壇の世話→強制労働→夕食→危篤状態→はじめにもどる
「旦那様は毎日をこのようにお過ごしでおられます」
「いや、これおかしいだろ、絶対っ!?」
「どこがでしょうか?」
「(涙)」
人物紹介
ライカーレ
護衛部で奴隷の少女。ちょっぴりお姉様?
世話焼き。
ミミルッポ
護衛部。ちょっと精神が幼い子。ライカーレ好きっ子。実は意外な才能が…!まああったりなかったり。
いきなり突発企画ぅ〜
意味なくカウントダウン 2