ACT XX. ファイ-4
一方その頃の…その3
ファイ・・・お空の館ではレム君の食事を作っていた、天災料理人な奴隷の女の子。潜在能力だけが高い。
カゥルヒム・・・メイドさんの偽名ですのであしからず
わわわ私が何か悪いことでもしましたか、神様―?!?!
好奇心に負けてお空から垂れ下がってきていた赤い糸を引っ張ったのが間違いだったのでしょうか、それともそれとも〜
「その、ですね?私はあまりおいしくはないのですよ…ってやっぱりだめですかー?!?!」
『グルルゥゥゥ』
目の前にいます、ちょっと…いいえ凄く大きなワンちゃんは糸を引っ張った直後にお空から降って来られたお方です。なんてきれいで立派な緑色の毛並みでしょうか。不気味で仕方ないのです。
それに今はあんなに涎を垂らして、きっととても空腹なんでしょうね。それとも近くにおいしいご飯でもあるんでしょうか。周りを見渡しても私以外何もないですけど。
…やっぱり私の所為ですか?そしてワンちゃんのご飯はもしかしなくても私ですか??
「あの、その、でもまも、ちょ、ちょっと待って下さい!!」
何か、何かなかったでしょうか?この非常に危機的状況を解決できるようなとっても便利アイテム……なんて、あるはずありませんよね。
メイド服のポケットに入ってたのは飴玉だけでした。
それも『溶かして固めるだけ』と言う事で私が作ったものの中で初めて上手に作れた会心の出来のものです。そう言えばあとで食べようと思ってとっておいたんでした。
『グルル……ガウッ!』
「ひぅ!?あのそのえっときっと……そっ、そうですこれを差し上げますからどうかご勘弁をっ」
えいっ、と力いっぱい飴玉を放り投げます。カゥルヒム様との日頃の訓練のおかげで飴玉はみごとにワンちゃんの口に中に収まっちゃいました。
…あぁ、さようなら、生まれて初めて上手く出来た私のお料理。そしてお願いですからこれで満足してくださいワンちゃ、
「???」
はて、何やらワンちゃんの様子がおかしいのですが…と、言うよりも口から紫色の煙が湧き上がっているのは私の目の錯覚でしょうか?
『グル……ル、がう、――』
あ、倒れました。痙攣してます。…う、動かなくなりました?
「と、とても空腹だったんですね」
胃に急に食べ物を入れてびっくりしてしまうくらい、きっと、多分。
…私の作った飴玉が原因、なんて事はないですよね???
だって、あんなに見た目は立派だったんですよぅ?
――これは、愉快
「…え?」
声が、聞こえた。
思わず仰ぎ見ずにはいられないくなるみたいな、鈴の音。
見上げると、空からゆっくりと降りて来ていました紅眼赤髪の――
『何を泣いているのです?』
「ぇ、あ…私、泣いて、?」
それはもう、本当に、泣いてしまうほどに綺麗な声でした。この世にこんな綺麗な音が在ったなんて、初めて知った、みたいな…。
『“守護する獣”を退けたかと思えば急に涙を流す、面白い小人ですね。それとも久しく見ないうちに小人たちはこのようになったのですか?くすくすっ』
「誰、です…か?」
『誰?小人の子よ、私に名を尋ねますか?』
「あ、いえ、その…」
何故かな、私はこの声の主の事を知っている――生まれる前から知っていた気がします。
不思議な、でも決して不快じゃない妙ちくりんな感じです。
『ヒトの子なればそうでしょう。私の名は愛しき子以外には等しく刻まれているでしょうから』
「愛しき、子?」
『えぇ、そう。愛おしき、異界の堕とし子。あの子はどうしているでしょうね?いえ、あなたのような子を見れば想像はつきますか。多少は落ち着きを持ったかもしれませんが、何も変わりないようですね』
「あなたは……誰ですか?」
『ふふっ、まだ私に名を尋ねるとは本当に面白いヒトの子。さて、私が誰か当ててみる?』
「…――なんで、どうして、分からない。分からないよぉ」
解るのに、知ってるのに、知らないはずがないのに、私はこのお方の事を知らない。あぁ、私は知らないんです。
『そう泣く事はありません、ヒトの子よ。今のは少し意地が悪かったですね。あの子の性格が移っちゃったかな?』
「あ、う…悪くない。貴女様は悪くなんてないんです!」
『そう喚く事はないですよ、ヒトの子よ』
「あ、す、済みません」
『謝らずともよい。あなたは“守護の獣”を退け私を現界足らしめたのです、むしろ、そうですね。何でもいい、ひとつだけあなたの願いを叶えましょう。如何な願いとて許しましょう。さあ、何がいいですか、ヒトの子よ?』
「そ、そんな事を急に言われても、私…その、」
『ですが私が現界出来る時間にも限りがあります。本当にどのような願いでもいいのですよ、業多き小人族のヒトの子よ』
「…あ、あの、それなら一つだけ」
『はい、ではどのような?』
「おっ、お料理の腕を――」
『無理ですね』
「そっ、そんなっ…ど、どうしてですかぁ!?」
『そっちの方が面白……いえ、料理とは愛情です。その努力を怠ってはいけませんよ?』
「あ、その私……わ、私が浅はかでした、ごめんなさいっ!!」
『いえ、分かればよいのです。それでは改めて訊ねましょう、どのような願いを望みますか、ヒトの子よ?』
「そ、それじゃあ………あ、そうです」
『何か思いついたようですね』
「はい、それじゃあ私のお願いは“今日より明日が少しでも幸せな世界で在りますように”です」
『――』
「えっと、その、駄目…でしょうか?やっぱり」
『……ふ、くっ』
「あの?」
『愉快、愉快。本当に愉快です。これほど愉快なのはいつ以来でしょう。あの子の成長を見守っていた時以来かもしれませんね』
「えっと、その…?」
『ああ、そうですね。ではヒトの子よ。その願いは、確かに“私が叶えましょう”』
「え!?本当にできるんですか?」
自分で言って置いてなんですけど、すっごく難しい事のような気がしますけどっ。
『出来て当然。だって私は――むっ!?』
「?あの、どうかしたんですか?」
『いえ、今一瞬非常に不愉快な思念を感じて…具体的に言えば私が二人の仲を認めるとか認めないとか。ふざけるのも大概にしろ、あの小娘』
「えーと…?」
凄く綺麗な声なので小声で仰ってるみたいな内容でもはっきりと聞き取れてしまうのですが。何かちょっぴり声のイメージと違う、ような…?
『こほんっ、失礼しました。ですが困りましたね』
「え?あ、あのやっぱり私のお願いが難しかったりするんですか?」
『いえ、そのような事はありませんよ、ヒトの子よ。泡沫とはいえこのような形で再び現界出来たのです。私に不可能は、ほんの少ししかありません。ですがあなたが言った事は同時に私の願いでもある。あなたに願われずとも叶えていた事でしょう。それでも同じ願いでよいのですか、ヒトの子?』
「えっと、いいですけど…?」
世界が幸せになるのならいいんじゃないでしょうか?
それに不思議とこの方と同じ想いだって考えると、すごく幸せな気分になるのは何故でしょう。
『それにね、ヒトの子。これはきっと私たちが願わずとも、あの子が叶えてくれるお願いなんですよ?』
「え、は…?」
それはどういう意味なのでしょう?
『内緒です。自分で考えなさい、ふふっ』
「えっと、その…分かりません」
『大丈夫、よく考えればすぐに分かりますよ、ヒトの子よ。では、それならせっかくの機会です。この“奇跡”、あの子の褒美に使うとしましょうか。こんなにも苦労しているのです。私の可愛い子を思えばこそ、あの子の願いを叶えてあげましょう』
「???」
『ああ、それとヒトの子。あなたの名前は何と言うのです?許します、名乗りなさい』
「――ファイ、と言います」
『ファイですか。いい名ですね』
「いえ、そんな…ありがとうございます」
この名前は奴隷で名前もなかった私にレム様が付けてくれた大切な名前で。だから褒められると……不思議と嬉しくなってきます。
『ではファイ、本当に短い間ではありましたが、この愉快なひと時を過ごさせてくれた礼をしましょう』
「いえっ、そんなっ!お礼だなんて…」
『謙遜する事はない。ファイ、あなたには私の名前の一部を名乗る事を許しましょう』
「……はえ?」
『今後はファイ・ルーメと名乗るといいでしょう。ええ、良い名ですね』
「えーと、ありがとうございます?」
『礼に対価を払うのは当然の行いです。…さすがに、そろそろ限界のようですね。とは言え私を現界させられるほどの力をよく集めたものです、あの子――灼眼は』
「あっ、あのっ…!」
『なんですか、ファイ?』
「貴女様の、貴女のお名前は…!」
『三度私に名を訪ねたのはあなたが初めてですね。いいでしょう。私が名乗るなんてあの子以来だね。そしてそれも悪くない。ファイ』
「は、はいっ!!」
『あなたには特別に、私の名を教えましょう。私は――』
――女神、シャトゥルヌーメ
そう残して、そのお方――紅瞳赤髪の私と同い年くらいの女の子のカタチをした――は、消えてしまわれた。
「……はえ?」
何か、周りの景色が崩れていっている気がしますけど、気のせいでしょうか?気のせいであってほしいのですが。
――ああ、それと言い忘れました。私の現界に大半の力を使い果たしましたからもうじきその空間は崩壊します。早く脱出した方がよいですよ?
「………、――ええー?!?!」
だ、脱出って言われてもどうやればよろしいのですかー!?!?
「あっ」
地面が、ございません?
「れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
その頃のヒト達、ラストです。そしてあのお方の初、同時に最後の登場です。多分、もうあの方は出てきません。既に亡くなってますし。
と、言うわけでファイさんは何やらやばげな事をやっていたご様子。本人無自覚なのが性質悪い。