ACT XX. リッパー-3
その頃の…その2
リッパー・・・スフィアの国のお姫様、一言で表せばストーカー
「…はぁ」
「如何なされたのです?」
「いい加減離れてほしい」
「嫌です」
「…まあ、それはこの際諦めるとして、だ。実は今後の事を考えると気が重いな、と思ってな」
「今後の事ですか?そうですねっ、新婚旅行はどこにいたしましょう!!」
「いきなり話を有り得ない方向に飛ばすんじゃない。そうじゃなくて、色々と面倒事がなぁ」
「面倒事?よろしければ私が手伝いますが…?」
「ああ、そうしてくれると助かるな。……いや、むしろアルゼルイならこの事に関して適任か。認めたくはないがあのタヌキの学長もいる事だしな」
「…むぅ、話が見えません」
「ああ、悪い悪い。んーとな、ここが“因果の意図”って魔術の内部“応報の揺籠”って事は分かってるか?」
「初耳です」
「まあ、納得しとけ」
「分かりました!」
「こういう所は素直でいいなぁ。……で、だ、これは“灼眼の因果”って言って、十二使徒が残してった負の遺産――実際には負って限りでもないんだけどな、と、まあそんな結構特殊な力の一環なわけだ」
「十二使徒!!つまりは二人を結びつけてくれたあの赤い糸はまさに神様も認めた運命の赤い糸、と言う事ですねっ。素晴らしすぎます!!」
「いや、まあ、そうなる、のか…?」
「やはり貴方様が私の運命のお方で間違いありませんのねっ。いえ、仮に他の方が私の運命の方であったとしても既に貴方以外の男性なんて石ころほどの魅力も感じませんけど」
「今のはかなりの問題発言だな、おい」
「特にお父様などは最悪です。愛し合う二人の逢瀬を邪魔するなど、言語道断というものです」
「今、確実に間違った言葉を俺は確かに聞いた」
「ああ、しかし今日は今まで生きてきた中で最良の日ですっ。神様にも二人の仲を認めらぷきゃっ!?」
「うぉ!?」
「…今、何かびりっときました」
「あー、多分どこぞのカミサマがお冠なんじゃないか?勝手に公認にするなってさ。……まあ、あり得ない事じゃないってのが一段と怖いが」
「つまりは祝福のヴェールですねっ!!」
「随分前向きな発言だなぁ」
「それで、子供は何人がいいでしょう?私としましては、多いに越した事はないかと……きゃっ、私ってばなんてはしたない事をっ」
「…やぁ、色々と突っ込みたい部分はあるのだが、まあいいか」
「突っ込むだなんて、そんな…〜〜っ」
「……。それよりな、リッパー、話を戻すけど、とにかくその“灼眼の因果”ってのが厄介な代物でな」
「何故です?私たちを結びつけてくれた運命の赤い糸ではないのですか?」
「…まぁ、こうしている事からも判るとおり、この“灼眼の因果”って言うのは発動した時よりもむしろその後が大変でな」
「成程。仰りたい事が分かりました」
「お、さすが理解が早いな。伊達にお姫様はやってないか」
「つまりは教会が満杯になり困る、と言う事ですね。大丈夫です心配ありませんっ!そう言う時こそ、私のお姫様権限を使う時ですっ!!そして二人の結婚式は国をあげて盛大に行いましょう!!」
「すげぇ権利乱用だな。しかも結婚式ってなんだよ?」
「楽しみ…ですね?」
「……で、だ。“因果の意図”の内部で平然としているリッパーは随分と特異な部類にはいるんだよ。普通はこう、相手に殺意を抱いたり怒りやすくなったりするもの、なのだが…」
「平然となんてしていませんっ。今にも胸が張り裂けそうですっ!ですが二人の未来は花色です!!」
「俺の目から見ればいつもと変わりねぇよ」
「そんな、いつもと変わりなく可愛い、だなんて、もうっ、口がうますぎです〜〜」
「誰かこいつを止めろ」
「貴方が…私を止めて下さい。なんて、なんて、きゃ〜〜」
「……やっぱり十分平然って言えるレベルだよな。…で、さんざん話がそれたけど、俺が言いたいのは“灼眼の因果”に巻き込まれた奴らの後処理の事でな」
「わ、私たちの未来の事ではなかったのですか?あれほど期待させておいて…うぅ、酷いです」
「そんな事を言った覚えは一切ないし、期待したのはリッパーが一人で突っ走ったからだ。俺の所為じゃ断じてない」
「うぅ、うぅ…それで、“灼眼の因果”というモノに巻き込まれた方々の後処理とは、私のどのような事を望んでおられるんですか?」
「ああ、ひとつの場所に纏めてだな、」
「解りました!ズバッと殺ってしまうのですね!?…なんて恐ろしい事をっ」
「違う」
「そうですよねっ。そんな事をされる方ではありませんよねっ?」
「当然…っても言い切れないのが悪いけどな。少なくとも今回は違う。そもそも“因果の意図”って魔術の本質は潜在能力の強制的な開花と複数間の力のリンクにあるんだ。簡単に言えば超人をいっぱい作りだして、みんなの力を合わせて奇蹟を一つ起こしましょう、ってわけだな」
「まぁ、それは素敵なお話ですね」
「いや、そんないいモノでもないぞ。そいつの人格を問わない強制的な能力開花で世界のパワーバランスは崩れるし、他にもはっきり言って短所の方が多い」
「はあ」
「しかも一番の問題点として、未だに一度も成功した例がない。…もっともだからこそ“灼眼の因果”は終わりなく続いているわけだけどな」
「ですけど今回は奇跡が起きましたねっ?」
「…何が?」
「運命の赤い糸に導かれて、私たち二人が出逢えた事を奇跡と言わず何と言えばいいのでしょう?…いえ、これはむしろ運命?必然?では奇跡じゃないですっ」
「一人で喚いて勝手に納得してるところ悪いけどな、だから潜在能力を開花させられた奴らは改めて矯正し直さないと危険なんだよ。で、面倒だから一か所に纏めて、一気にした方がいい。それでちょうどいいのがアルゼルイってわけなんだが…」
「分かりました。スフィアの名に誓って、私がその方々を調教して見せますっ。……でも、そんなお姿もワイルドで素敵ですねっ?」
「…いいから、それ以上くっつくな」
「嫌です」
「………、で実はもう一つ厄介事があるんだよ。矯正させるのに適任な奴には心当たりがあるから場所さえ用意してもらえばそっちはいいから、もう一つの方が厄介って言えば厄介だな」
「なんなりとお言い下さいっ、私、貴方の為だったら何だってして見せますっ!!」
「今すぐ離れろ」
「……うぅ、うぅ、うぅぅ、これが倦怠期というものなのですか?それともまさか天の試練なのですか!?」
「あぁ、もう言わないから間近で叫ぶな泣くな落ち込むな。“因果の意図”ってのは別名『悪夢の魔術』って呼ばれててな、“因果の意図”の内部で死ぬ奴がそれは大勢いるんだよ」
「つ、つまり死体を秘密裏に処理しろ、と仰るのですか?……私もこの国の姫です。成せば成ります、よね?」
「成るかっ。つか出来てもするなよ、そんな事」
「…そんな、私は何の役にも立てない役立たずなのですね」
「だーかーらー、話は最後まで聞け」
「こ、こんな役立たずな私にもそんな優しい言葉をかけて下さるなんて、やっぱり運命の人は貴方以外に考えられませんっ」
「…あぁ、もう。とにかく、な。その結界内で死ぬ奴が大勢いるわけだが、ここが“因果の意図”の『悪夢の魔術』って言う所以でな」
「危険だから悪夢なのではないのですか?」
「違う。ややこしいんだけど、ある意味じゃ“因果の意図”で傷を負う奴は一人もいない。…精神的苦痛は除いてだけどな」
「?」
「所詮悪夢は悪い夢だからな、死んでも夢から覚めるだけだ。ただし死ななかったら一生悪夢の中にいるままになるおまけつき。つまりリタイアした奴らは夢から覚めて、しなかった奴らは潜在能力開花して超人になるわけだ。ごく稀に存在する例外を除いてな」
「はあ…?」
「ちなみにリッパー、お前も自覚ないかもだが何らかの潜在能力が開花されてるは、ず…………今一瞬非常に嫌な想像を思いついた。以前よりリッパーの暴走具合が酷くなってる気がするけどコレが才能の開花とか、いやいや、俺の気のせいだよ…なぁ?」
「私はそのようなモノいりませんっ。貴方様のお傍にこうしていられるだけで、それだけで十分すぎるほどに幸せなんです!!」
「だけ、ね。ただし、かれこれ半日ほどくっついたまま離れないけどなっ!?」
「幸せです〜♪」
「聞いちゃいねぇし。おい、リッパー」
「はい、何でしょうか?」
「しかも都合の悪いところだけ聞こえないのか。だからな、その悪夢から目覚めた奴は絶対に何かしらのトラウマが出来てたり、奇怪な行動に走り出したりするから“灼眼の因果”が終わった後、絶対に治安が乱れるんだよ、しかも誰の思惑なのか平和的かつ悲惨な方向に」
「つまりそのような方々を一か所に集めてズバリと禍根を絶ってしまえ、と。むむむ、国民と貴方の天秤ですか。当然貴方の方を取りますけどねっ!」
「躊躇いなく俺を選ぶのは絶対この国の王女として間違ってるぞ、リッパー」
「ですが恋する乙女としては間違っていません。女性の方なら誰もが賛成するに決まっています」
「…女って怖いよな――本当に」
「そんな事はありませんよ?」
「取り敢えず、だ。さっきリッパーが言った事は違うから。もっと穏便に済まそうぜ?取り敢えずは街の警備の強化とか、その辺から」
「分かりました。では私の私兵と近衛を使って治安維持に努めましょう」
「……何故か凄い大事になってしまった気がする」
「大丈夫ですよ。私がお願いすればきっと皆さん、聞いてくれます」
「そう言えばリッパーって国民にかなり人気が高かった気もするなぁ」
「国民は国の宝ですから。好かれるのは王族の義務のようなものです」
「ついさっき国民と俺と秤にかけて速攻俺を取った奴の言う事じゃないな、それ」
「深い愛ゆえです。でもあまり褒めないでください」
「とにかく、そう言うわけだから“灼眼の因果”が終わった後の事は頼むぞ?」
「はい、分かりました!」
「うん、この国の王女様にそう言ってもらえるとかなり気が楽になるな」
「ところでひとつ聞いてもいいですか?」
「なんだ」
「“灼眼の因果”と言うのはそもそも何なのでしょうか?」
「――」
「ああ、私と貴方様を結びつけてくれた“運命の赤い糸”の事でしたねっ?」
「……違う」
ああ、何やら困っている様子ですが、そんな憂いたお顔のレム様も素敵過ぎます〜♪
「はぁ、ホントに、これでいいの――、リッパー」
「なんです…きゃっ!?」
「悪い、リッパー。用事が出来た」
「レム、様…?」
そんな、急に怖いお顔をなされて、どうしたのですか?
「…何のつもりだ、あの野郎。よくもまぁ、ぬけぬけと……悪いな、もう少し付き合ってやるれるかと思ってたけど、先に行かせてもらうわ、じゃあな――」
「そんなっ」
せっかくお逢いする事ができて、至福のひと時でしたのにっ。
遠ざかるレム様に咄嗟にギュッと抱きつきまして…
「ちょ、リッパーだから離せ…」
「やっ!です」
絶対、離しませんっ
「……たく、仕方ねぇなぁ。あいつのする事を看過するのも癪だし。ちゃんと大人しくしてろよ、リッパー」
「――はい♪」
貴方とであるならば、何処へまでも。
何か説明文っぽい。
その頃のヒト達その2です。レム君のいるところはいつもおおむね平和っぽいですね〜。
と、言うわけで次回ラストは当然あのお方?です!…ちなみにメイドさんではないです。