ACT XX. いん、スフィアFORTH
一方その頃の…その一
学長さん・・・アルゼルイの学長さん。名前は秘密。
ミリアレム・・・レム君の元奴隷で学長さんの奥さん。胸でかい
「うん、これで準備は完了、と。…それはそうと、もうそろそろ大丈夫かな、マイハニー?」
「無理です。まだ立ち上がれそうにありません。…そもそもあなたがあんなに激しく」
「いや、それは仕方のない事だよ、うん。マイハニーにはそれだけの魅力があるってことさ。ね?」
「そんなの、しりませんっ」
「ふふっ、照れた顔も可愛いよ、僕だけのマイハニー」
「〜〜、そう言うセリフは止めて下さいっ」
「うん、このあたりはまた今夜にでも、お預けだね?」
「………、はい」
学園都市アルゼルイ、その最深部にその二人の姿はあった。
一組の男女、一方は床に座り込んでいて、もう一方は鼻歌を唄いながら着々と何かの作業をしている。
「ところで先ほどから何をしているんですか?」
「うん?い・い・こ・と♪」
「あなたにそんな事を言われると余計に気になるんですけど?そろそろ教えてくれてもいいじゃないですか?」
「う〜ん、ま、いっか。実はね、魔力を反射させて一点に集中させるための結界を組んでたんだよ。いやぁ、自分で言うのもだけどなかなかいい出来に仕上がったんじゃないかな?」
「それは見ていれば分かりました。私が聞きたいのは、どうしてそんな事をしたいるのかって事です」
「そりゃ当然、“灼眼の因果”への対抗策じゃないか」
「どうしてこの結界が対抗策になっているのかが分からないんですけど…?」
「あぁ!そんな冷たい目で見つめちゃ嫌だよ、マイハニーっ!!!」
「なら素直に、とっとと、白状してくださいな?」
「うんするします。つまりはね、これを使っちゃおうって訳なんだよ」
「楯…ですか?どこかで見た事がある気もしますけど……」
「そりゃあるだろうね。何と言ってもこの国の至宝だから」
「至宝!?と言う事は不敗の楯≪グレイプニル≫ですか!?」
「うん、そう。ヒトが扱う事の出来る数少ない聖遺物の内の一つ、範囲は狭いけどどんな攻撃であれその尽くを無効化してしまう、最強の楯。うん、確かにこれは聖遺物≪グレイプニル≫に違いないね」
「あなたっ!?まさかスフィアの王城に盗みに入ったんじゃ…」
「いや、そんな事はしないよ」
「でも、それは門外不出、この国の至宝中の至宝じゃないですか。そんなものをどうやって…」
「この国のお姫様に“お願い”したら快く渡してくれたよ?」
「“お願い”って……あなた、いったいどんな脅迫をしたんですか?」
「脅迫なんて、僕がそんな事するはずがないじゃないか。それにね、あのお姫様は意外と怒らせると怖いんだよ」
「そんな事は知りませんけど、なら一体どんな手段を使ったんです?仮にも国の至宝ですよ?」
「ゃ、君の元御主人様をちょうど牢屋に入れてたから、彼女にその場所を教えてあげたら次の瞬間には満面の笑みでこれを渡してくれたよ?いやぁ、あれは我ながらお互いに良い取引だったと思うよね」
「…レム様」
「ちなみに養女誘拐拉致監禁調教未遂容疑ね。いやぁ、しかし養女だけを狙うなんてマニアックだよね、彼」
「…証拠は?」
「うん、残念ながら見つからなかった。どっちにしろお姫様が無罪放免にしちゃったしねー」
「相変わらず手際はいいですね、レム様ってば」
「……あぁ、そうなの、マイハニーは彼がそんな事してるって肯定派なんだ」
「違うんですか?」
「――…さて?それはそうと、ではマイハニーに問題です、この楯≪グレイプニル≫をさて、どうするでしょうか?」
「それは流石に分かります。結界で力を集中した場所に設置するんでしょう?でも、それだけで“灼眼の因果”に対抗できるものなんですか?こんなどことも知れない一点集中の結界なんて、場所を外したら一巻の終わりじゃないですか」
「ま、そうなんだけどね。そこが君の元御主人様からアドバイスでね、“灼眼の因果”の出力は最終的には一か所だけなんだそうだ。つまりそれさえ突き止めてしまえば、いくら“灼眼の因果”が大きな力を持ってたとしてもこの楯≪グレイプニル≫で最悪の事態は防げるって事」
「で、それがこの場所なんですか?」
「うん。こうして外から調べるとよくわかるけど、ここが間違いなく“因果の意図”の中心点だね。来るとしたらここからしかない」
「あなたがそう言うのであれば信じますけど、」
「けど?」
「……何でそんなに楽しそうなんですか?」
「ん?そうかい?」
「ええ、とっても楽しそうですよ。そしてあなたがそんな表情をするときは碌でもない事をたくらんでいる時です」
「そうかぁ、それはまいったね」
「私の方が参ります」
「いや、大丈夫。マイハニーには無理はさせないよ」
「…どうだか」
「うん、実はね、この“因果の意図”って魔術を中と外、両方から調べてみて非常に面白い事が解ってね」
「面白い事、ですか?」
「そう。改めて言うけど、この魔術は本当にできがいいね。もしかすると“隷属の烙印”すらも上回る出来栄えかもしれない。伊達に使徒様って言う昔いた神様のお使いが組み立てたものじゃないね」
「そんなに凄い事なんですか?」
「ああ、すごいね。そして、だからこそこの魔術はまさに“悪夢”だよ。ふふふっ」
「悪夢って、響きの悪い割にあなたは随分と楽しそうですけど…?」
「ああ、楽しいとも。だってこれはとびきりの“悪夢”だよ?まさにこれを“悪夢”って呼ばずにどれを“悪夢”と呼べばいいか、ってくらいのね」
「どこがどう凄いのか、私には分かりませんけど」
「だからね、こういう事だよ」
それは、“灼眼の因果”の外で繰り広げられた会話の一風景。
彼――学園都市アルゼルイの学長は、悪戯っ子のような笑みを浮かべて、自身の妻にこう囁いた。
――悪夢って言うのはね、つまりは夢のお話なんだよ?
一方その頃の…三回続きます。そのうちの一グループ目。
何だかんだ言ってラストに近づいてきております。と、言うか結局のところスィリィ嬢の活躍の場は!?てな事になってきた。
そんなもの初めからないよ…なんて言わないで。
ちなみにメイドさんの活躍の場はあります。(笑)