ACT X. ???-そして彼は顕現賜う-
泣く(クライ)全開 (マックス)と書いて終盤
スィリィ・エレファンが聖遺物≪ユグドラシル≫に呑み込まれてから直後の事。
「…ど、どうしましょうスヘミアさん?」
「どうしようって、どうすればいいんだろうね?冰頂の子の力が解放されなかったのはよかった事だけど、聖遺物に呑み込まれちゃってあの子大丈夫かなぁ」
「呑まれる直前に何かをしたような気がしますから、しばらくは大丈夫だと思いますけど…」
「楽観はできないし、早めに何とかしないとって事だよねー」
「はい」
「でもあれに触れちゃう、ときっと私たちも同じように呑み込まれちゃうんだよねぇ。多分、そういう聖遺物なんだと思うし」
「…そう、ですね。今も空間から“灼眼の意図”で集めていた力を吸収し続けていますし時間もあまりないんですけど」
「打つ手がないっぽいんだよねぇ、どうしようか、ラライちゃん?」
「私は粉微塵にするのは得意でもああいうモノはちょっと…。ですからスヘミアさん、どうしましょう??」
「うん、私もそういうのはちょっとねー。ほんと、どうしよっか?」
「「…はぁ」」
――他方で。
「ふむ、あれは吸収タイプの聖遺物であったか。ミミルッポ、迂闊に触れるでないぞ。先ほどの冰頂の転生体のように飲み込まれてしまうからな」
「のみこまれる?すぃ食べられちゃったの???」
「うむ、そう言う事になるな」
「ならスィーはすぃをたすけられないの?」
「不可能ではないが難しいな。だがミミルッポがそれを望むのであれば我が成して見せよう」
「うん、じゃあおねがいね、スィー」
「うむ、万事我に任せるがいい、ミミルッポ」
――と、言うわけで話は本題に戻る。
「……――と、言うわけだ、スヘミアと…そちらは初見だがラライだな?銀髪の娘に聞き及んだ事がある。お前たち二人には手伝ってもらうぞ」
「ここはふつーさ、…出来るの!?って驚かなくっちゃいけないところなんだよね、きっと」
「そうなんでしょうね。事前にあんな会話を聞かされては驚くものも驚けませんけど」
「だよねー」
「それで手伝うのか手伝う気がないのか、どちらだ。言っておくがほとんど猶予はないぞ?」
「ああうんっ、それは当然手伝うよっ!」
「私もです!」
「うむ、ならば戦力的には充分だな。この場に魔力の貯蔵庫のようなファイがいないのはいい事なのか悪い事なのか分からぬがな」
「あー、そう言えばあの子、見ないけどどこにいるんだろうねー。ラライちゃん、分かる?」
「“応報の揺籠”内部にいる事は確かですけど…何故か居場所が特定できないんです。この中にいる限り私には判るはずなんですけど、急に反応が消えてしまっていて」
「ふむ、死んだか」
「いやぁ、あの子は死なないと思うよ。殺しても死ななそうな子だったし」
「…あの、お二人とも、その言い方は少し酷いんじゃないでしょうか?」
「いや、あの子にはこれで十分だと思うよ。ね、スィーカット?」
「うむ、それには同意するぞ、スヘミア」
「………はあ」
「それでは作戦を説明する。とは言っても別段難しい事ではない。聖遺物が吸収している魔力許容量を一時的に上回るだけの魔力をアレに喰わせてやればばいいだけだ。アレより大きく育つと分からぬが、今の大きさ程度であればこの三人の魔力値で問題はない」
「あの、そうすると聖遺物に呑まれてしまったスィリィさんはどうなるんでしょうか?」
「無論、無視だ」
「そんなっ!?」
「落ち着けラライ。無視するとは言ってもあの冰頂の転生体は無事だ。問題ない」
「ねえ、スィーカット、それってどういう事かな?」
「うむ、聖遺物の吸収型は以前にも見た事があるがアレは力を独り占めしようとする、悪食だ。腹が破裂しても食し続けた事のある、どこかの食い意地の張った白龍だと思えば良い」
「食い意地張った白龍って……まあ意味は何となく通じたけど。つまり、魔力での攻撃は何があろうと聖遺物本体が受け持つって事で、おっけー?」
「うむ、違いない」
「安心しました。……でもスィーカットさん、なら何故スィリィさんを助ける事が不可能じゃなくても難しい、なんて仰ってたんですか?」
「ああ、その事か。何と言う事はない。聖遺物を破壊した瞬間に聖遺物がため込んでいた“力”が空間に解放されるだけの事だ。あれだけの大きさまで“力”を吸収した聖遺物だ、その際どの程度の被害が出るかは、言わずとも察せるであろう?」
「ちょ、それって大丈夫じゃないじゃんっ!?大問題じゃない?!?!」
「そっ、そうですよスィーカットさんっ!!」
「だからそれもお前たちの協力が有れば問題ない。我一人であったなら聖遺物を破壊する力と聖遺物から溢れ出た“力”を無力化する力と、二つの事柄に手間を割く必要があったから困難であっただけの事だ」
「つまり、聖遺物を破壊するのに私たちが協力しちゃえば、それほど難しくはないって事?」
「うむ」
「……凄いんだね、スィーカットって」
「我ははじめから凄い。そして我を従えるミミルッポはより凄いのだ」
「ミミルッポって……」
「…ちょうちょ???」
「…あれを凄いって思えと言われても、ねぇ、ラライちゃん?」
「……私に振らないでください、スヘミアさん」
「――まあいい。ミミルッポの凄さは主ら如きには分からぬだろうしな」
「うん、ごめん。分かんないや」
「私も、です」
「それでは、聖遺物より溢れ出る力の無力化は我に全面的に任せてもらおう。元よりこのような事が得意分野なのでな。お前たち二人には何も考えず、ただ我に合わせて全力で魔力をあの聖遺物にぶつけることだけを考えればよい」
「なんかみもふたもない言い方ー。……うん、でも了解」
「はい、解りました」
「では行くぞ」
「うんっ――点睛、いくよ!!」
「力を聖遺物に利用されるのは貴女も本位じゃないでしょう?ふてくしてないで、今は力を貸して下さい――いきますよ、灼眼」
「「「――!!!!」」」
一瞬で沸き上がった光が、空間を満たして、
――もういいよ、戻っておいで、祝福の杖≪ユグドラシル≫
光が晴れたその時に聖遺物が在った場所には女の子と、男が一人倒れているだけだった。
聖遺物のあった影はどこにもない。
「やった!成功!?」
「はい、力の残滓による被害も見られませんし、スィリィさんも無事。……成功です、スヘミアさん!!」
「………、まぁ、良い。我には関係ない事だ」
そこには二つの人影があった。
一つはくすんだ銀髪の、メイド服を着た娘。微塵も動かないはずのその表情の中には、ほんのかすかだけ怒気が滲み出ていた。
もう一つは、男。紅い髪、赤い瞳、血の如き朱の衣。その男の名は――
「何故、貴方が此処にいるのです?」
「何故?不思議な事を聞くものだね。そもそも灼眼の望みは何か、それを思えば何もおかしな事じゃない。実に皮肉な事だとは思うけどね」
――ステイルサイト。またの名を、『燎原の賢者』と、言った。
灼眼が求めているのは燎原です、と言ってみる。
スィリィ嬢が気絶?して、彼女とは関係のないところで事件が終わってしまうとはこれいかに?
ぼちぼち終息には向かっているのではないでしょうかね?