ACT XX. スィリィ-25
本当にもう、次から次へと…。
ハインケル先生・・・すべてに忘れされれているだろう、龍種の生き残り、スィリィ…と言うよりも冰頂に執着してたっぽいのだけど?
空間が侵食される。
訳の分からないまま私の“青の世界”が壊されていく。一体何が――
そうして。
“ソレ”は私の目の前に姿を現した。
『やぁ毒婦。まずは貴女様カラダ、我が愛しき聖上』
“ソレ”っていうのはなんて事はない、ハインケル先生の事だったんだけど……て、なんて事ないってわけじゃないわよね、これは。
全身が緑だし、ヒトとして原形留めてなくて何か植物と言うか、うにょうにょと触手っぽいものが周りで動いてて近づきたくないというか、――一言で言えてしまえば、ハインケル先生の原型留めてるの、顔の部分だけなんだけど。
木に顔が生えてるって感じで……見てるだけで気分が悪くなりそう。
『私を認めぬ世界。私を認めぬ愚かな小人ドモ。スベテ要ラないィィィっ!!』
“私”が貫いた傷がどうなっているのか、どこに消えてしまったのか心配してたけどこれなら心配なさそうね。……無駄に元気っぽいし。
『力デス、この力で、愚かなこの世界をスベテ壊してやるゥゥゥゥ!!!!』
…と、言うよりも何か、逝っちゃってるわよね、あれ。私が言うのも何だと思うけど、きっと辛い事があったのね、ハインケル先生。
――まぁ、そんな事はどうだっていいのよ。そんな事よりも、
『し、シッシッシッ、死ねェェェェェェェェェ』
「すすす、スィリィさんっ!?」
「スィリィさん、避けて!!」
「逃げないと危ないよ、冰頂の子っ!?」
「あ、ちょうちょさん〜」
「バカね、ミミルッポ。こんなところにそんなものいるはずが――ってほんとに居た!?」
迫ってくるハインケル先生と、私の周りで騒ぎたててる他のヒト達。
目の前に迫る“ソレ”に私は避けたりなんてしない。
………と、言うよりも。冰頂といい灼眼といい点睛といい、スィーカットとかエレムとか、アイネを傷つけたアレフの事だってそうだし……何よりもレム先生だって!!
皆、皆、皆、本当にいい加減、
「――冰頂、『限定解除』。モード、“暴走”フォールダウン」
――分かりました、スィリィ・エレファン
人差指だけを、向かってくるハインケル先生に向ける。
本当に、次から次に訳の分からない事ばっかりで、しかも全部が全部私の邪魔ばっかりするしで…、
狙いを定めて、人差指に『物事を改変させる使徒『冰頂』の“力”』を解放する、手加減は一切なし。
「“邪魔”なのよ」
ばぁん
人差指から銃弾を撃った――とは言っても“冰頂”の力は距離感なんて関係なしに直接空間に作用するから、撃った“ような感じ”が正しいのだけど。
何が言いたいのかって言うとつまり、発射、同時に着弾、ってわけ。
ハインケル先生の全身が凍り付く、のも一瞬でその後に粉々になって砕け散った。…うん、まずは“一人目”。
「きらきら、きれー」
「うむ、そうだな、ミミルッポ」
「にゃっ!?ウソォ、聖遺物を一撃で?!?!」
「…“冰頂”ならではですけど、これは確かに無茶がありますね」
「そうか?使徒ならばこの程度の事できて当然だぞ?」
「私は…無理かなぁ。だってほら、“点睛”の力って、戦略タイプのものだし」
「私も無理ですね。コマ切れにする程度なら可能でしょうけど空間への面攻撃は流石に…」
「そうなのか?…腑甲斐ないな」
「いやスィーってば、それでも十分に凄すぎだって」
本当に、いい加減にしてほしいのよ。皆、みんな、皆皆皆…。
――この茶番を、終わらせましょう
いっそこの際、空間を、結界を、“灼眼の意図”を“応報の揺籠”を、全部を壊し尽くす。
「ぁ、や、ちょっと待って冰頂の子――!?」
「スィリィさん、それはダメ――!?」
誰かが何かを喚いているけど、関係ない。
あふれ出してくる力を全部、一撃に込めて。
「解放――“我は冰の頂なり”」
世界を――
「すぃ、うしろ!!!」
『すぃりぃぃぃ・えれふぁぁぁんんんんんん!!!!』
粉々に砕いたはずのハインケル先生。その彼の鬼のような形相が振り向いた目の前に在って。
これは――ダメね。防ぐ事も避ける事も無理そう。
どこかで他人事な私がその静寂を傍観している。
……ほんっっとうに、次から次へと私の邪魔をするのがそんなに楽しいの?
居るはずのない“カミサマ”に呪詛を吐いて。
身体の内側から沸き上がる、体の外側から流れ込む力に身を任せて、力の制御を手放す。
――“暴走”ブレイクダウン、開始
「――」
世界は青く、蒼く、あおく。
私の意識はそのまま清浄なる青に呑まれて、途切れた。
ごたごたしてますぅ、てか、このままぽっくりと終わりそうな予感がひしひしと…!?
しっかしシィリィ嬢、ブチ切れ寸前で、今回は死にかけという事で暴走までしてしまって…どんどんドツボにハマって行っちゃってます。
…本当に無事に終われるのかなあ?