ACT XX. スヘミア-3
スヘミア・・・ロリ。世界で五指に入る『点睛の魔女』と呼ばれている、ロリ。あくまでロリ。
「酷いなぁ、もう」
ちょっと挨拶したら空間を閉じられちゃった。
空間破砕なんてして進んでくる子だからちょっとは元気があるのかな、って思ったのに。
最近の子はどうなんだろうね、点睛?
――…ノーアンサー
あれれ。ま、いっか。
「ね、君はどう思うかな、『灼眼』」
「――点睛、私の邪魔をする気?」
「うん。邪魔させてもらうね。それと私は『点睛』じゃなくて、スヘミアって名前がちゃんとあるよ。それは君も同じだよ、ラライちゃん?」
「…私はラライではない。『灼眼』だ」
「あれま。本当に完全に乗っ取られちゃってるみたいだね。ま、仕方ないって言ったら仕方ないのかな?」
「点睛、私の邪魔をするなら排除するまで」
「だからわたしは点睛じゃ…って言っても無駄か。うん、それじゃあ――邪魔、させてもらうね?」
点睛、行くよ。
――イエス、マスター
「ならば排除します、点睛」
「っ!?」
点睛!!
――イエス
「っ!!……今のは点睛の割り込み、この身に受けてみると中々厄介」
「そういう、君の力も厄介だよね。て言うより正直わたしの天敵だよ、その能力」
使徒一番のスピードに一撃必殺のスキル持ちなんて、点睛の思考強制割り込みを使う間もないじゃない。
でも、今のはびっくりしたなぁ。いきなり目の前にラライちゃんがいるんだもの。ラライちゃんとの真剣バトルって言うのは初めてだけどまさかあそこまで速いだなんて、結構やばいかも?
……まあ、予想の範囲内ではあるけどね。
「それにね、灼眼。君にこれ以上勝手されるとラライちゃんが可哀そうだもん」
「けど対処法は――ある」
ぽっ、とラライちゃんの姿が見えなくなる…って、多分ずっと動きっぱなしなんだろうけどわたしでも目で追い切れないってどれだけ速いかなぁ、ホントに。
「でも、やっぱりそう来るんだね」
自分で言うのもなんだけど“点睛”の能力ってば回避不可だからね。直後キャンセルは…お姉ちゃんくらいになれば可能だけど、それでも一度は“点睛”による割り込みを受けるって言う前提を崩せてるわけじゃない。
灼眼もキャンセルはできるだろうけど、その一瞬があれば十分無力化できる…かなぁって思ってたんだけど、先手を取られちゃったからね。驚いたのもあったし、まあこれは仕方ないか。
だから、唯一の完全回避方はわたしに捉えさせなければ良い……って事になるんだけど、まぁある意味じゃそんな事できるのってラライちゃんくらいしかいないんだよね。
「でも、甘いよ?」
ラライちゃんとやり合う事になるのは想定済みだからね。当然、準備くらいしてあるよ。
空間から例のモノを取り出して、周りにばらまく。
「“点睛”!」
――イエス、マスター
「レッツ・ダンシング!!」
例のモノって言うのはちょっとしたマジックアイテムで、通称“ミニドール”。思考受信型のお人形さんなのだっ。
普通は封印用の呪具に使ったり、スパイ用に使ったりするだけなんだけどね。しかも操作は一体が限界で肉体強度は当然元の自分以下――まあお人形さんだしね――、破壊されればダメージが自分に跳ね返るって言う代物なのだ。
でも“彼女たち”に“点睛”の能力を使うとあら不思議、動く小さな兵隊さんのでき上がりってわけ。
思考を『作る』『複製』ってなると面倒なんだけど、今は仕方ないなぁ。
わたしと点睛の思考を受けて踊るお人形さんたち。
“彼女たち”はあくまで本当にお人形さんであって、実際のところ攻撃力は殆ど……全くないけど、わたしにとってはこれで充分。だって、これは罠だから。
用意した数は数千……いや、ちょっぴり多すぎちゃったかな?空間にびっしりで凄い事になっちゃってるよ。
「っ、そこっ!」
「!」
一体が破壊された瞬間“彼女”に、その身体に、そして体に触れているモノに――繋げていく。
確かに“ただの”速度だったらラライちゃんに負けちゃうけど、“思考”速度だったらわたしの方が上なんだからね?
「捉え、たぁ!!」
破壊されたお人形を辿って灼眼の思考に接続する。今度はキャンセルされないように集中して――基本的に使徒さん達の能力は同等だからここまでしちゃえば後は意志と意志、やる気とヤっちゃう気とのぶつかり合いになる。
意地と意地のぶつかり合いなら――
「く…点、睛ッ」
「っ、今度はそう簡単には逃がさないよ、灼眼」
ずっと昔を見てる君には負けちゃダメなんだよ。
“暴走”して、“点睛の眼”に完全に取り込まれちゃった時にレム兄様と、お姉ちゃんが教えてくれたとっても大切な事。
わたしたちはとっても弱い生き物で、どこまで言ってもカミサマの玩具でしかないんだって――これは今もよく分からないんだけど。
ヒトは――わたしたちは前を向いて歩いていかなきゃいけないんだ。
「――分からない」
「…何がわからないのかな、灼眼?」
「やはり、解らない。どうしてお前は、こんな脆弱なヒトの――」
「――ぇ?」
瞬間。
すぱりと、ぱさりと、切られた。接続して抑え込んで拘束してたはずの灼眼の意識、ラライちゃんに呼びかけようとしてたわたしの意識、それが全部、途切れた。
見くびってた。まさかここまで灼眼の、ヒトを介さない十二使徒の力が“違う”だなんて。
だから生じた空白は。
だから生じる致命的な隙は。
避けられない。
「何を信じた?」
――マスター!!
点睛の叫び。
あぁ、うん、分かってるよ。灼眼が目の前で武器を振りかぶってて、わたしが今『ぜったいぜつめー』のピンチだって事、ちゃんと分ってる。
――マスター!!
うん、ただ、ね。身体が動かないんだよ。反応、できないんだ。だから、ごめんね、点睛。
――そんなコト、あの方の使徒である私が二度も無様を晒すなど赦さない!!!!
あぁ、ちゃんと起きちゃった?君とも随分と久しぶりになるかな、点睛。でも何もこんな時に限って出てこなくても良いじゃない。
――スヘミア!!
でも、うん、確かにその通りだよね、点睛。
こっちが驚かされちゃったんだ、次は灼眼、君にも驚いてもらわないと…ね。
それに灼眼、そんなモノ決まってるじゃない?
あの人の存在そのものが“信じる”って事の、何よりの証明なんだから。
点睛、行くよ。
――了解、マイマスター、スヘミア
そうだね、わたしは君の…“点睛”の今の主だからね。もっとちゃんと踏ん張らないと。
さあ、行こうか。
自分に割り込みを、強制的に身体を動かす。
思考速度で負けてない以上、わたしに避けられない攻撃は――ないよっ!!
でも、そうしてちょっと無理に身体を動かす瞬間。
やっぱり止めた、と。
何もしないまま、でも向かってきた攻撃は寸前で同じ武器――たしか『かたな』って言ったかな?不思議な、斬る為のモノ、それで止められる。
…う〜ん、でも凄いなぁ。わたしの時は全然干渉できなかったのに、それをやっちゃうんだ。
「解らないなら幾度と教えます」
「…成程、“因果の意図”を利用したか」
「それにもう解っているはずです。だって私は貴女、貴女は私なんですから」
「っ!!」
灼眼の姿がまた消える。あぁ、また追えなかったよ。ついでにお人形たちも何体か破壊されちゃってるし。
でも、まあいいか。今は――
「やっほー久しぶりだね。それとももしかして初めてだったりするのかな、ちゃんと起きてる君とこうして話すのは」
「案外、そうかもですね。お久しぶりです、スヘミアさん」
「うん、ラライちゃん」
久しぶりの再会の挨拶を。
スヘミアちゃんのご登場。結界内に侵入しております。
ちょっと真面目?なお話。
でも次辺りからお話にもう少しは重みと言うか、真面目な雰囲気がついてくれたらいいなぁ、と思ったりしないでもない今この頃。
スィリィ嬢の方で真面目な雰囲気は…無理そうだしなぁ。