ACT XX. スィリィ-21
合流。
「あ」
「あ」
目が合った。
「「………」」
「君の心は輝いてるかな?」
「い、いえ。どうかしらねぇ…?」
「ダメだよ、元気がないね!」
「…はぁ、済みません」
「うんうん、素直でよろしい。でもまだ元気がないなぁ」
「……」
「――そんな皆の心のアイドル、スヘミアちゃ」
ぱたん
空間修繕、ついでに補強もしておこうかなー。
「さて、次の場所に行きましょうか」
「スィリィ・エレファン?いきなり引き返して来てどうしたのですか?」
「ううん、何でもない。それよりもさくっと次に行こうか、冰頂」
「はい、分かりました。スィリィ・エレファン、あなたが言いたくないのであれば無理に聞き出そうとは思いません」
うん、それが賢明だと思う。
ちらっと後ろについて来ている三人を見る。にしても、もしかして“因果の意図”に絡め取られてる人達って皆あんなのばかりなのかしら?
…それって私も同類って事?冗談じゃない。一緒くたにされるなんてまっぴらごめんだわ。
“ぱりん”、と音を立てずに空間が割れる。
その先に広がる世界は――
「幸せすぎて倒れそうです。あ、で、でもこれ以上を求められたら私、私は…〜〜っっ♪」
「だからな、いい加減離れ、ん?ようスィリ――」
ぱたん。
「スィリィ・エレファン。先ほどから何なのです。先に進む気がないのですか?」
「いや、本当にごめん。なんていうか、反射的に…」
「そう言えば顔が赤いですね。一体何を見た…………いえ、これ以上は聞かずにいましょう、情けです」
「…そうして」
どうせ冰頂には私の全部が筒抜けだろうし。…何と言うか、自分でも顔が赤くなってるのが分かる。
ま、まさか顔を合わせた瞬間何も考えられなくなるなんて。予想外だわ。それとも私がそこまで初だって言うの?
……冗談じゃない。私はそんなにネンネじゃないわっ!!
多分、どこかで見た気もする女の人と抱き合ってるなんて不潔な光景を見た所為だわ、コレは嫌悪感よ、そうに決まってる。
あ〜、思いだすと何か胸の辺りがムカムカしてきたわね。
「…じゃ、次に行くわよ、冰頂」
「一応聞いて置きますが先ほどとは違う場所でいいですね?」
「当然よ」
「では次に行きましょうか。次こそスィリィ・エレファンが進んでくれる事を祈っています」
「……」
それを言われると痛いけど、そもそも出た場所が悪すぎるのよ、きっと。
再び“ぱりん”、と音もなく空間が割れて、その先に在った世界は――
「あ、スィリィさん」
「え、エレム?」
運がいいのか悪いのか、三度目でいきなりエレムに会う事が出来た。空間が開いたすぐ目の前にいた。
…でも一寸先にある臨戦体制の『風の矢』は何とかして欲しい。生きた心地がしないし、後ろの冰頂がどう動くか分からないから少し怖い。
「よかった。スィリィさん、無事だったんだね」
「ああ、うん。エレムも無事……よね?」
ようやく消してくれた『風の矢』にほっと胸をおろした、んだけど…。
「うん。見ての通り無事だよ」
「見ての通りって…」
全身真っ赤なんですけど。
「ああ、これは全部返り血だから心配いらないよ」
「……そ、そうですか」
笑顔で仰るエレムさんが怖いです。
「エルフの少女ですか。幸先は順調のようですね」
「あ〜、えれむ?」
「ミミルッポ、エレムがこんなところにいるはず…居たわね」
「エルフの娘か。しばらく見ないと思えば奇特な場所で出会おうものだな」
少し遅れて冰頂、続いて残りの三人も渡ってきた。って言うより、この三人とエレムって知り合い?…世の中って意外と狭いのね。
「あ、ミミルッポ、ライカーレ!それに…小瓶のあくまさんもっ!」
「いい加減名前を覚えよ、エルフの娘。我の名はスィーカットだ」
「ならそっちこそ私の事ちゃんとエレムって呼んでよ。エルフの娘、じゃないんだから」
「面倒だ、断る」
「ケチっ。…いー、だっ!!」
……なんだろうなぁ、このヒト達ってもしかして緊張感と無縁なのかしら?流れる雰囲気が如何ともし難い、気が抜ける。
それとも現状を理解してない、――ってわけじゃなさそうなんだけど。
「ほう、あのエルフもやりますね。劣種とはいえこれほどの悪種を無傷で屠るとは」
「悪種?」
「これらの生物の事です、スィリィ・エレファン。そう言えば昔は『魔物』とも呼ばれていましたか。【厄災】の中でも特にヒトに害をなすものの総称のはずです」
「…げっ」
一方、こっちは何をしてるのかって気になってたら、冰頂の指した先は真っ赤…だけじゃなくて緑や青が混じり合った虹色に染まっていた。何かの生き物の血、その水溜り。
誰が殺ったって、そんなの決まっている、エレムしかいないわよね。
向こうでじゃれ合ってる(?)エレムの何気なさそうな表情が今となっては少し怖い気がする。
「怖がる必要はありません、スィリィ・エレファン。彼女はエルフ、如いては妖精族としては至極真っ当な精神の持ち主です」
「コレが?」
「ええ。妖精族…取り分け鬼族に顕著に見られる特徴ですが彼らは異物、特に【厄災】には非常に鋭敏に排除しようと動きます。そのように三柱によって創られていますから」
「…へぇ、そうなの」
何とも嫌な話ね。まるで神様に創られたからって、その時点でヒトの全てが決まってしまってるみたいに聞こえるわ。
「そう言ったつもりですが?」
「…ぁ、そう」
至極、本気で答える冰頂。
こういう所は正直そりが合わないな、って思う。…まあ、向こうだって私は小人だって、同じような事を感じてるだろうからこれはお互い様か。隣で冰頂も肯いてるし。
「あ、スィリィ・エレファン」
「ん、な」
どん、と小さな衝撃が背中に伝わった。…危ない、ちょっとだけ倒れそうになった。
「すぃ、みんながいじめる〜」
「こらミミルッポ、スィリィさんに迷惑かけるんじゃないのっ!」
「――えっと?」
振り返ると私を盾にしようとしているミミルッポと、そのミミルッポを捕まえうようとしているっぽいライカーレ。エレムとスィーカットはまだ向こうでじゃれ合い…って言うのかしら、あれ?何だかスィーカットの服にエレムが返り血を擦り付けて、スィーカットは全力で嫌がってるように見える。
これってどういう状況?
「すぃ、たすけて?」
「いや助けてて言われても…」
「スィリィさん、ミミルッポを大人しく引き渡して」
「いや、だから状況が――」
「すぃはわたしをうったりしないよね?」
「いえ、ね?」
「ミミルッポ、どこでそんな言葉を覚えて…!」
「や、だから私を無視して話をしないで。せめて私を挟まず話を…」
「ぶ〜」
「むむっ!」
「ああもうっ!うっとおしいっ!!!!」
「ひえっ!?」
「ふひゃ!?」
「スィリィ・エレファン、落ち着きなさい。あなたは二人を凍傷にする気ですか?ならば敢えて止めません」
「…いや、そんなつもりはないけど……ごめん」
いつの間にか私の周りが一面、霜に覆われていた。
ミミルッポとライカーレの二人は――と思ったら少し離れた所でスィーカットに抱えられていた。あの瞬間、彼が助けてくれたのか、よかった――。
あ、ミミルッポに、それとライカーレにも全力で嫌がられてる。おぉ、スィーカットってば地面に両手をついて分っかりやすく落ち込んでるわねー。
…まぁ、スィーカットの全身も今やエレムと同様血だらけだから、二人の気持ち分からなくもないわ。加害者の私が思うのもなんだけど、報われないわね、スィーカット。
それにしても。
拙いわね。魔法の真理を“知った”所為か、イメージと魔法の区別がつきにくくなってきてる。つまりちょっとした感情の爆発で魔法が発動しちゃってるって言う、結構困った状況なわけだけど。
まぁ、これはようやく“知らない知識”の処理が落ち着いてきたばかりだから仕方ないって言えば仕方ないのよねぇ。でもこればかりは私が気を付ける以外に解決方法もなさそうだし。
…あぁ、もう、面倒だわ。
何だか次第にこの状況を作った誰かさんに苛立ちを覚えてきた気がする、じゃなくて本気でムカムカしてきた。
「冰頂」
「何ですか、スィリィ・エレファン」
「次に行くわよ」
「分かりました。そうしましょう」
他のヒト達もちょうどさっきの私の魔法で静かになったところだし、丁度いいわ。
ぱりん、と音もなく空間が破砕される。
――さて、てっとり早く次でファイが見つかればいいんだけど。
あ、あと。
この状況の元凶の、誰かさん――会ったら、絶対に一発ぶん殴ってやるんだから。
まずはエレムさんと合流しました。
残りは、ある意味でファイさんだけとなりましたが、さてはて、ファイさんに会って“因果の意図”の“応報の揺籠”の中から脱出できるのかどうか。
…ファイさんって一人だけとんでもない事してたからなぁ、と言って置いてみる。