ACT XX. スィリィ-20
余計な事には関わらないが吉。
スィリィ・・・臭いものにはふたをする、な女の子
冰頂・・・スィリィ嬢に憑いてる幽霊っぽい何か
スィーカット・・・小瓶の悪魔、世界を滅ぼせるっぽいのに最近やってる事はしょぼい
ミミルッポ・・・いつも平和なレム君の奴隷の女の子
ライカーレ・・・結構気苦労が多いかも?
結論。
「見なかった事にしましょう」
引き返して、砕いた空間を閉じた。元の何もなかった空間、目の前の怪獣大決戦の様子は見る影もない。
これで一仕事完了。今私は何も見なかった。これでオーケー。うん、万事問題なしっ!
「おい、娘」
と、思ったけど変なのが三人ほど付いて来てた。…まあ、さっきの白いのと黒いのに向かってこられるよりはマシよね。と、言うよりもあんなモノに向かってこられたりしたら生きた心地がしないんだろうなぁ。
「で、何か用かしら?と言うよりあなた、どちら――ってぇ、ちょっと待ちなさいっ!」
「ぇ、あ?」
何かふらふらとした足取りで三人に向かっていこうとした冰頂を慌てて止める。…なんだか知らないけど止めなくっちゃいけない気がしたんだ。
「わ、私は一体何を?」
「何をって、ちょっとどうしたの?」
様子がおかしい…と言うより私の目に間違いがなければ表情が虚ろだ。本当にどうしたのか。
「ふむ、娘」
「何?見ての通りこっちはちょっと取り込んでる最中なんだけど」
多分、このヒト達も私と同様“因果の意図”に絡め取られたんだろうけど。冰頂の様子がおかしいんならこっちが優先よね。
「そちらにいる方の娘…いや、存在は人外だな?それも我の覚え通りなら十二使徒の一角、『冰頂』か」
「……あなた、誰?」
「そう警戒心を露わにするな、娘。やや懐かしい気配であったのと、そこな存在が調子が悪そうだったのでな。それは恐らく我らの所為だろう」
冰頂の事を知ってて、懐かしい?それに冰頂の様子がおかしいのだってこのヒト達が原因って…あぁもうっ色々と忙しい!
私の調子もやっと戻ってきてこれからって時に、いきなり最初っから躓いてるし。悪いって言っても、私ってここまで運が悪かったかしら?
「ミミルッポ」
「なーに、スィー?」
「娘、この者は少々特別でな。人外のモノ――自分以外のモノであれば何であろうと魅了する魔力を有している。そこな存在の様子がおかしいのもそれが原因だろう」
「つまり、魅了されてるって事?でも私は何ともないわよ…?」
「うむ、どうにもミミルッポの魅了は己とは異なる存在に程効果が大きいらしいのでな、特にそのように不全な状態であれば抵抗すらも困難であろう」
「…厄介ねぇ」
「なーに?」
本人は全然分かってなさそうだけど。
ま、取り敢えず魔力が原因って言うんならそれを遮断してあげればいいわけよね。んーと、
「…これで大丈夫、なはず。冰頂?」
「――ええ、意識ははっきりしています。それと会話は聞いていましたので説明は不要です。無様を晒しました」
「良いけどね」
この程度で無様なんて、あの時の私よりは数万倍はマシだろうし。
「それじゃ、改めましてだけど私はスィリィ・エレファン、アルゼルイ教育機関魔法科専攻の者よ。それでこっちが冰頂って言って…説明し難いんだけど、知ってるのよね?」
「うむ、我はスィーカットだ。そしてこっちが我が主のミミルッポ、その隣がライカーレと言う」
「スィーと、スィ、???」
「よろしくお願いします、スィリィさん」
「よろしく、ライカーレ……と、そっちの方はいいのかしら?」
差し出された手と握手して、その横を見る。
ミミルッポ、よね。何か必死に首をかしげてるんだけど大丈夫なのかしら。
「ああ、あれは放っておいていい。そのうち自己解決するだろう」
「そうなの」
「うむ」
「まあ、そうよね」
…連れの二人ともがいいって言うのなら良いんでしょうけど、そろそろ地面に頭が着きそうなほどに傾いてるのも放っておいていいのかしら?
「気にする必要のない事です」
冰頂はそうだろうけどね。やっぱりヒトとして気になるじゃない、あれって。
あ、ついに足と頭が逆になったわね。あんな態勢で頭に血が上らないのかしら?
と、思ったらスィーカットが無言でミミルッポの態勢を直したし……って、今片手でヒト一人持ち上げてなかった!?
…どんな剛腕してるのよ、このヒト。
と、珍しく冰頂が私の前に出てきて、ってそう言えば冰頂とスィーカットって何か知り合いみたいだったわよね。…レム先生の時と言い、冰頂って意外と知り合いが多いのかしら?
「スィーカット、まだ生きていたのですか」
「こちらこそ滅んだと聞いた使徒が、それも小人の供としているとは驚きだな」
「貴方の認識に間違いはありません。ですが冰頂は既に死にました。ここにある“私”は冰頂の記憶の残滓だけです」
「成程。つまりは転生のようなものか」
「そのように認識してもらっても支障はありません。最も私がスィリィ・エレファンに影響を与える事など今回のような異常事態が起こらない限りはないでしょうが」
「今回の…と言う事は現状の原因を知っているのか?」
「現状の原因としては『灼眼』が用いた魔術“因果の意図”が原因です。彼女…正確には彼女の記憶の残滓の目的ははっきりとしていますがこの魔術が私たちに与える影響は今のところ不明です。そう言う貴方は何か分かっているのですか?」
「いや、恐らくそちらが知らぬ事で我の知る事はないな」
「そうですか。使えませんね」
「そちらも身内の不始末と言うのならば少しは恥を知ったらどうだ?」
「さて、生き恥を晒している貴方に謂われる事ではありませんが?」
……て、あれれ?
もしかして冰頂とスィーカットって仲が悪いのかな?
「ま、まあ何はともあれっ!それじゃ次に行ってみるわよ、冰頂。早く二人を見つけないとっ!」
「それもそうですね。時間を浪費する事はない」
気の所為かスィーカットが睨んで来てる気がする。
私の所為じゃないけど一応、ほんの少し振り返って視界に入ったライカーレに視線でゴメンって誠意を示しておいた。返って来たのは少しの苦笑。うん、彼女とは仲良くなれそうだ。
――目の前の空間が割れて、新しい空間が目の前に広がっていく。
…よかった事に次の空間にあの怪獣大決戦は見当たらなかった。正直、毎度毎度あんなの立ったりするとかなり身体に悪いしねぇ。
見事に無視しました、見なかった事にしました、スィリィ嬢。それが正しい選択ではあるのですが。
と、言う事でとりあえず一組目と合流。この先他の人と合流するかどうかは未定ですが。
…所帯が多くなるのは勘弁願いたいですね、ほんと。