ACT XX. リッパー-2
その頃のお姫様1
リッパー・・・レム君にほの字の、スフィアのお姫様。決してヤンデルとかはありません
突然訳の解らない空間に連れて来られて、しかも虎の子の転移魔法が使用不可、などと言う些事は一向に構いません。
仮に危険があったとして私自身で身を守るすべがないのですが、むしろそちらの方が好都合とさえいえます。
何故って、そんなの決まっているじゃないですかっ!?
「どうしてお逃げになるのです?」
「そりゃお前が追ってくるからだ」
「では私が追わなければお逃げなされないのですか?」
「そりゃ、まぁ……そうだな。むしろ俺から追いかけてもいい」
「そんな、夢のような事……私っ、頑張って追いかけないようにしてみますっ!」
「ああ、そうしてくれると助かるが…」
うずうず。
「もう限界ですっ」
「早っ!?」
「そもそもですよ、そうすると私は待っている他なく、一向に貴方様に辿り着けないのでは?」
「当然、そうなるな」
「そんなっ、そのような一生など私にはとても耐えられませんっ。そのような生になるのならばいっそ今この時この手で――」
「ってオイオイ待て待て――……って、危ねぇな、油断も隙もあったもんじゃない」
「うぅ、あともう少しで捕まえる事ができましたのに」
「つーかよ、そう言う自分の身体を囮に使うのって卑怯じゃね?」
「何を仰られますか、そのような卑怯な事は我が国名『スフィア』の名に誓って行いません」
「……あー、するって言うと何か、つい今しがた自分の喉にナイフを突き立てようとしたのは演技じゃなくてあくまで本気の本気、俺が止めに入らなきゃ偉い惨事になってたって事か?」
「その通りです」
そして私の為に必死になってくれるその姿には愛を感じました、感動です。
「相変わらずぶっ飛んだ思考してるな、おい」
「仕方ありません。それとも貴方様を思うこの気持がいけないというのですか?」
「いや、この世の終わりみたいな表情で言われると否定できないのだが、むしろ否定したい」
「…ほぅ、愛しさとは罪なのですね」
「何かおかしいのだが何がおかしいのか判らんから突っ込めない、つか全てがおかしいのか?」
「そうですね、全ては貴方様を求めて止まないこの気持がいけないのです」
「と、言いつつ近づいてくるな。しっ、しっ」
「そんな…つれない態度も大変ステキです」
「…何を言っても通じない気がするのは俺だけか?」
「ですが、その、今の『君の愛で僕を捕まえてごらん?』と仰られているのも悪くはないのですが…」
「いやいやいや、そんな事一切合財言ってないから、断じて言ってないからっ」
「照れる姿も素敵です」
「照れてない。照れてないから」
「ですが私としてはもう少し、その、何と言いますか恋人同士のような触れ合いが……か、からだを触れ合わせたスキンシップが欲しいです」
「黙れ痴じ――……っと、拙いな。昔の癖が、と言うかなんで俺がリッパーの事苦手なのか分かった気がする。そうか、こいつヒトの話を聞かない所と言いあの“なんちゃって♪存在”に似てるのか」
「ちゃんす――です」
「っと、草々捕まって堪るか」
「ぁ…もうっ」
何やら思案にふけっておられたからいけるかと思いましたのに、また寸での処で逃げられてしまいました。
「誰と似てるのか分かった時点で、仮に捕まったらどんな事になるか想像したくもないからな」
「もうっ、誰と似てるなんて、私の目の前で他の女性の方の事を考えるのはマナー違反ですよっ」
「あぁ、悪い悪い…て、俺は何故謝る必要がある?」
「そうです、謝るくらいなら大人しく捕まってください」
「いや、そう言う事じゃなくてだな」
「……私の事、お嫌いですか?」
「ぐっ、そう言う泣き落としみたいな真似も卑怯…」
「私の事、嫌いなのですか?」
「嫌い――では、ない」
「では好き――」
「だからと言って早とちりするな目を輝かせるな高揚して頬を赤らめるな、ましてや勢いで飛びかかってこようとなんてするなっ?」
「ぁ、ぅ、くぎを刺されてしまいました」
「ったく、油断も隙もあったもんじゃ――ぐっ!?」
「どうなされたのですか!?」
突然苦しそうに胸を押さえて蹲られたお姿に慌てて駆け寄っていく。
「だ、大丈夫ですかっ!?」
「っ……あぁ、心配、ない。これは…ちょっと分身との結合の反動が来ただけだ」
「分身の反動?」
「そう、反動。…しっかし俺め、大人しく殺されやがって。何処のどいつだ?………――あぁ、成程、『冰頂』か」
「『冰頂』とはどなたですか?…女性の方の気がします」
「変なところで勘がきくな。確かに『冰頂』は女だけど、そう怖い顔するなって」
「そんな、怖い顔なんてしてません」
「さて、ところでなリッパー」
「はい、何でしょうか?」
「捕まっちまったな」
「はい、捕まえましたっ!」
「で、ものは相談だが」
「何でしょう?」
「離せ」
「嫌です」
「……」
「あぁ、この匂い、この温もり、この鼓動、全部が全部夢にまで見た本物のレム様です」
レム様がいるからですっ!
レム様と一緒なら怖いモノなんて何もないですし、必要なモノだって何もないんですっ!!!!
「…ここまで蕩けた表情をされると無理に剥がし難いなぁ。ま、仕方ない。どうせ俺の方からアプローチするつもりはないしな。一先ずはラライのお手並み拝見ってトコか」
割と平穏なお姫様たち。アメリア様の方もどっこいどっこいです。
…と、言うよりも今のところ悲惨なのはスィリィ嬢だけで、『レム君の奴隷』組ってひどい事件が起こってる(はず)の割に緊張感が欠片もない気が…(汗)
まあ、これも全てはレム君の仁徳のおかげですか。
ついでに言っておきますがこのレム君が本物です。
冰頂よりもスィリィ嬢との確執よりも、リッパー様の執念が勝った瞬間の出来事でした。