ACT XX. スィリィ-17
何かもう、駄目っぽい。
スィリィ・・・ちょっとおしゃまな女の子……て、何か違う
冰頂・・・昔偉かったらしいゾ?幽霊みたいなモノ…かなぁ?
レム君・・・主人公……の、はず
「それとそっちにいるのは……冰頂か」
「ええ、そうです。お久しぶりですね? 女神の寵愛を受けし者」
「って、え、ちょ、ちょっと待って。二人とも知り合いなのっていうかスタンピート先生が私と一番縁のある者ってどういう事!? まだ知りあってほとんど経ってもないのよ?」
「スィリィ・エレファンまだ気づかないのですか? それとも現実を直視したくないだけですか?」
「おいおい、ひどい言われようだな。一番縁があるのが俺って事がそんなに嫌か? むしろ光栄に思え」
「スタンピート先生はどうしてそんなに偉そうにしてるんですかっ!?」
「何故か? それは俺が偉いからだ」
「はあ!?」
「……いや、そこで心底見下したような目で見られても困るのだが」
「所詮、あなたの評価などその程度です、女神の寵愛を受けし者」
「……いや、なぁ?つーかお前もお前でその『女神の寵愛を受けし者』って呼び方何とかならないのか?」
「では何と呼べばいいのです?」
「……レム様、とか」
「この変態!?」
「ではレムサマと呼びましょう」
「って、えぇ!? 呼ぶの!?」
「どうせこの者にとっては偽りの名です。どのように呼んだところで変わりないでしょう」
「や、でも……ねぇ? ていうよりレム・スタンピートって偽名だったの?」
「えぇ、そうですよ。しかしスィリィ・エレファン、レムサマとは何かおかしな呼び名なのですか?」
「……いや、本人が納得してるんならそれでいいって言うか、でも正直私の姿でそうされると嫌って言うか」
「俺はぞくぞくするな」
「黙れ変態! て言うよりスタンピート先生ってそんな人だったんですか!?」
「んな訳あるか。軽い冗談だ」
「そうですよ、スィリィ・エレファン。かるい“じょーく”と言うものです」
「…………なんかもう、嫌だ」
心底気力を持っていかれた気がする。しかもこの二人、ファイみたいに悪気がなくってじゃなくて、ワザとやってるみたいだから性質悪いわ。
でも、私の気の抜けなんて次の一瞬で一欠片もなく吹き飛んでいた。
「では改めまして、レムサマ、久しぶりですね」
「ああ、そうだな。“応報の揺籠”なんて特異な状況じゃない限り巡り遇う事なんて簡単にゃないしな」
っ!?
二人の何気ない挨拶。でも私はその一瞬で足が竦んで、動けなくなっていた。
冰頂から溢れ出すのは殺意……だと思う。感覚が麻痺しすぎていて、もしくはあまりに純粋すぎる感情だからか、愛や恋とも勘違いしてしまいかねない。
相対する唯一を過剰なまでに求めている――この事だけはどちらも変わりがないと、初めて気付かされた。
「あの時、私が何を考えていたのか貴方に分かりますか?」
「大体な。ま、一言に纏めれば“俺を殺したい”だろ?」
「……」
スタンピート先生の言葉に、冰頂は唇を少しだけ上げて笑みを作っただけだった。
……何も言わずに笑う方が怖いって。
「それに都合のいい事にこの空間から出る方法は三つしかないわけだ。その内ひとつは術者が出してくれるって言うんだが、まぁ有り得ないわな」
「……」
「んで、二つ目、ちょいと裏ワザなのだが俺としてはこれをお勧めするな。三つ目の応報の相手を抹消して脱出するっつー、ある意味正式ルール? よりは何倍もマシな気がするんだけどな?」
「関係ありません。貴方に報いを享けさせる事、それが今の私であり全てです」
「そうみたいだけど、草々うまくいくと思うか?」
「いかせましょう。それが私の全てですから」
「貴方が私の全てですって……おいおい、本当に熱烈なラブコールだな。俺ってばモテモテ? やったね……つーか、何か違うだろ、コレ?」
対してスタンピート先生の様子はまるで変わっていない。お気楽で、どこか会話していること自体を楽しんでいるように緊張感の欠片もない。
自分に向けられている殺気に気づいてない、なんて事あるはずがないだろうし。……まさか、ヘタレ風に見えるだけで実はとんでもない実力が!?
……いや、ないない。スタンピート先生からはほとんど魔力を感じない。万が一、仮に身体能力が高かったとしても、冰頂のレベルは身一つで何とか対処できる段階を軽く通り越している。何の魔法にも頼らず対処するなんて、絶対不可能だ。
「いやぁ、でもやっぱり俺としては二つ目の方法をとらせてもらおうと考えているわけだ。な、スィリィ?」
「?」
何かこっちに話を振られたけど、訳が分からない。もうちょっと説明してほしい。
「つー訳で冰頂、俺の存在と会話に意識を取られすぎたお前の負けね」
「な、しま……」
「ほい、確保っ、と」
「……? はぁ」
いつの間にか私のすぐ傍にいたスタンピート先生が頭に手をぽんと乗せて、なんだか不思議と安心――じゃなくてっ!?
冰頂が何故か慌てて――今まで抑えていたらしい殺意を露骨に出し始めたようだけど、益々訳が分からない。……て言うか、これってもしかして私が人質、とかだったりするのかしら?
……冗談じゃない。誰かにいいように使われるなんて、真っ平御免。
その思いに呼応するように、忘れていたはずの想いが再燃する。
「……レムサマ」
「ん、何だ。今更の負け惜しみだったら聞いてやってもいいぞ?」
「いいえ、そんな事は言いません。それよりもそれほど余裕ぶっていていいのですか?」
「は? 何が…て言うかこの状況じゃお前はもう手も足も出せないだろ?」
「――“私”が手を出す必要はないと言っているのです」
「……は?」
浮かんだのは、狂わんばかりの憎悪。私の全てを壊し、総てを奪ったこの男への情念。
――それが私の手の中で形を作る。
「“私”は所詮、どちらも私。冰頂も、貴方の傍にいる私も、どちらもスィリィ・エレファンと言う存在を形作る側面でしかありません」
浮かんだのは、狂おしいばかりの愛情。“私”の全てを奪い、総てを形作ったこの男への執着。
――それが私の身体を突き動かす。
「負けは貴方の方です、レムサマ」
「……、おーけぇ、理解した」
こふっ、と口から洩れた血が私の頬にかかる。
――形を取った私の全部が、スタンピート先生の腹部を貫いていた。
ずぶり、とこのヒトの内面を抉り取る感触、内側に触れているという実感が心地良い。
この感情をなんて表現しよう。
歓喜? ……それとは少し違う。
後悔? ……それとも少し違う。
哀しみ? 苦しみ? 喜び? 怒り? 寂しさ? 愛おしさ? 温もり? 冷たさ? ――……
全部が全部その通りであり、でもどこか違う気もする。
「……さて、参った」
そんな呟き声が聞こえた。
ああ、本当に、参った。
関係ないけどメイドさん、分離中。
レム君、登場草々お腹を刺されてしまってどうしよう?と思っている今日この頃。
収集つくのか?
そして他のヒト達とスィリィ嬢は合流するのか?
最後にメイドさんの安否は!?
メイドさん、奮闘中。