ACT XX. スィリィ-14
…何か、駄目だ
「? あなたもこの綺麗な赤い糸の事、何か知ってるの?」
「……いえ、知ってるというより」
たった今、ソレから逃げてきたところだし。
「え、エレム様、危険ですからそれから離れて下さい!」
「そ、そうなの?」
「ええ、多分ね。……と言うよりも今現在進行形で不気味に蠢いているのを見て少しは危機感を覚えなさいよ」
「いや、これはこれで見慣れてくれば愛着がもてるかなーって」
「へぇ。……で、持てた?」
「無理だった」
「でしょうね」
正常な精神の持ち主じゃ、まず無理だと思うしね。
「で、ならいつもまで持ってるつもりなのかしら、……エレム、でいいのよね?」
「うん。……でもゴメン、この赤い糸、手に張り付いて取れない」
「――短い付き合いだったわね。ファイ、行きましょ」
「え!? ちょ……」
「すぃ、スィリィ様〜!?」
「……はいはい」
軽い冗談なのに二人ともこれほど真に受けるなんて。
それにしても私ってば冗談を言えるほどの余裕があるのね。……いいえ、どうにも危機感の薄いこの二人を見ていると気が緩むのがいけないのよ。私の所為じゃないわ、きっと。
「……さて、どうしましょうか」
「どうしましょうね?」
「ど、どうしよう?」
正直なところ、私だってこの赤い糸が“因果の意図”である事と、何か蠢いている感じからして危険っぽいって事くらいしか分かってない。実際さっぱりもいいところだ。
取り敢えずはエレムに絡んだ赤い糸をどうにかする必要がありそうだけど、三人寄れば何か解決策も見えて……。
前言撤回、無理そうだわ。
何も判ってない状態で解決策も何もないじゃない。そもそもこの二人の視線が何か私にどうにかしてって訴えかけてきてる気もするし。……私にだって無理よ。
まあ、今の所はエレムに絡みついた赤い糸はうにょうにょって……不思議と貞操の危機を感じさせる動きしかしてないのが救いだけど。……あれ、これって救いなのかしら?
……深く考えない事にしましょう。いざって時最初に襲われるのはきっとエレムであって私じゃないはずだし。
取り敢えずは……うん、できそうなことから始めよう。
「なら、さくっと破壊してみましょうか」
「え、できるの?」
「出来るんですか、スィリィ様?」
「さあ?」
何となくだけど、私の知らない知識の中では出来るって判断している気がする。
――所詮は魔術、魔の術の理。魔力でできたものを魔力で破壊出来ない道理はない。出来ないとすればそれは単に魔力量が及ばないだけの事。
「取り敢えずやってみるわ。エレム、ちょっとじっとしててね?」
「え……いや、ちょっと待って。え〜と、スィリィさんでいいのかな?」
「ええ、自己紹介がまだだったわね。スィリィ・エレファンよ」
「あ、私はエレム……、じゃなくいて自己紹介も大切だけど、その……スィリィさんの周りに集まってきてる凄い魔力は一体なんなのかなーって」
「分からない? その赤い糸をさくっと破壊してみましょうか、って話をしてたところじゃない」
「えーと、そうなんだけどぉ……あ、用事思い出した」
「ファイ、捕まえて、逃がさないで」
あからさまな逃げ口上を言って逃げ出そうとするエレムに咄嗟に言葉が出る。……て、急な事だったから言い方が少しきつかったかな、とも一瞬思ったけど。
思いの外、機敏な動きをエレムを取り押さえてくれるファイ。
「ふぁ、ふぁい!?」
「ご、ごめんなさいエレム様。強く命令されると反射的に体が……」
何だか逆にそれが功を奏したみたいなので良しとしよう。
でもファイ、それってもしかして奴隷根性が染みついてるって言うんじゃないかしら?
「大丈夫、痛いのはきっと初めの少しだけ、だから?」
「いぃぃやぁぁぁ、ファイ、今からでも遅くないから離してっ!? あんな魔力、正面から当たったら私たち死んじゃうってっ!?」
「は!? はい、エレム様!」
ちっ、ファイがエレムの拘束を止めるけど……もう遅い。
……あっれぇ、なにか今の私、すっごく悪役っぽい気がするんだけど、どうしてだろう?
ま、いいか。どうせ正義は私にある……はずだし。それに今の私なら、真正の魔法の意味が理解できている今なら物体に関係なく魔力だけを徹す事が出来るはず。ファイだって似たような事をしてたし……たぶんっ、できるはずっ
…………できる、わよねぇ?
「……えっと、恨まないでね?」
「ひぇぇぇ、そう言うなら止め――」
私のぽつりと漏らした言葉が聞こえたらしい。でも最後まで抗議を言うより先、私はエレム(と、ついでにその傍にいたファイ)に向かって収束させた魔力を放っていた。
物質的な破壊もできるけど、今は大丈夫……なはず。
――命名、魔力弾、とでもしておきましょう
と、言うわけでスィリィ嬢、次第に悪に染まっていっています。…決してSっ気の本性が出てきたとか、そう言う事はない。