ACT XX. スィリィ-12
スィリィ嬢、迷走中
スィリィ・・・色々多感な女の子
ファイ・・・ギャグ要員にしているつもりは全くない…はずです
「あのぉ、スィリィ様?」
「……何?」
「どうされたんですか?」
「どうって……」
この子、自分がした事も解ってないの?
ヒトを二人、殺したかもしれないのに……そう思うとなんだか腹が立ってきた。
一言、ちゃんと今の状況の事を分からせてあげないと済まない。
「あのねっ……!」
「あ、それとスィリィ様、先ほど青い髪の男の方がお腹を押さえてあっちの方に行くのを見たんですがスィリィ様のお知り合いですか? なんだかとても体調が悪そうだったんですけど…?」
と、思った出鼻を思いっきり挫かれた。
「……あ、そう」
「???」
本人は全く理解してないようだけど、本当にこの子、場を和ませる……と言うよりも相手の意を削ぐような才能でもあるんじゃないかしらと思ってしまう。
……でも、青い髪の男の人って言ったら多分ハインケル先生の事よね。
ミリアレム先生を殴り飛ばして私の事を『聖上』なんて呼んで、“私”に殺されかけた。訳の分からない事ばかりだけど、だからと言ってハインケル先生が死んで……ましてや私が殺していいなんて事あるはずがない。
あるいは、あの肉を抉り貫く感触、私自身がそれを払拭したいだけかもしれないけれど、今はこれ以上考えない事にしよう。
取り敢えずハインケル先生は無事そうだって事が分かった。ならミリアレム先生は……?
分からない。けど今は無事に逃げおおせてくれていることを祈る他ない。
と、するなら……今は自分の事を考えないと。さしあたっては現状の把握と、
「あのぉ、スィリィ様?」
「何? 今考え中だから少しだけ黙って……」
「えーと、それよりもあちらの方なんですが」
「?」
微妙に引きつっているような表情を浮かべたファイが、指さした方向を見て、
「――は?」
何、あれ?
大量の赤い糸が絡みあって、何かとてつもない大きなモノを編みこんでた。
よく分からない。今起きてる異常な事とか、現状の解決策とか、何故かアレが“因果の意図”って言う名前の魔術だと知ってる事とか、むしろ何一つとして判ってない事ばっかりだけど、たった一つだけ確かな事ってあると思う。
そしてそれってきっと、とっても大切な事だと思うんだ、私。
「……名前、ファイで合ってたわよね?」
「はい、スィリィ様」
「ねえ、ファイ。一応分かっているとは思うけど、言っておきたいの。いい?」
「はい。言われずとも想像はつきますが、どうぞ」
「逃げるわよ!!」
「はいっ!」
私とファイは互いに頷き合って、明らかに危険な感じしかしないその場所から遠ざかろうと、
「って、言いたいんですけど力が入りませんっ?!?!」
「……ぁ」
そう言えばファイって、ついさっき恐ろしいほどの魔力を放出した所為で倒れてたんだったわよね。………ど、どうするの?
このままファイを置いて一人で逃げるって事はできるけど、それはあまりにも酷いと思う。何となくだけど、“私”から私に戻る事が出来たのだってこの子のおかげって部分が大きいと思うし。
「どどどどうしましょうですスィリィ様!?!?」
「どうするもこうするもどうにかするしかないでしょ!?」
我ながら盛大に混乱していた、と思う。
どうにかすると言いつつも頭の中には『どうにかしなくちゃ』の言葉が空回りし続けるだけと言う惨状である。ほんと、どうしようもない。
――仕方のない器だ
不意に、どこからか溜息が聞こえた気がした。……どこからって言うか、強いて挙げるなら頭の中から?
「あ、れ?」
気がつくと私は知らなかったはずの知識を“知って”いた。
魔術なんて悪道では決してない、魔法――でもヒト……小人族達が用いているような世界を暴食する術・法ではなく、ただ世界へと語りかける為の法。それはとても簡単であり、でもとても難しい事。
今の私にならその方法が解るような気がした。……いや、違う。私はその法を“知って”いる。
「ファイ、ここから逃げるわよ」
「すぃ、スィリィ様お一人でお逃げください。私の事は置いていてくださって……」
「何バカなこと言ってるのよ。大丈夫、ちゃんと二人で逃げるの、よ!」
魔法を発動させる。
口頭での呪文は必要ない。必要なのはイメージ、世界へと語りかけて私を許してもらうための意志の欠片。
転移――私とファイを別の場所……どこか安全な場所へと移動させる。
つい少し前まで出来もしなかった、転移なんて超高等魔法を――真正の魔法を使って、私はファイを連れて一気にその場所から……“跳んだ”。
魔法を発動する瞬間、私はどこかで見た事のある、綺麗な空色の髪と瞳の女の人の苦笑を見た気がした。決して憎しみに塗れていない、ただ優しいだけの笑みを。
――世話のやける。しかしこのまま何を考えているのか分からない灼眼の思い通りになるのも気に入らないからな
そんな『彼女』のぼやきは、生憎と私には届かなかったようだけど。
淡々と物語が進んで、理解している人たちと理解してない人たち。傍観者と被害者、加害者。
皆いろいろ頑張ってます。