ACT XX. スィーカット-6
ほのぼのとした、お気楽な雰囲気ももうそろそろいいかも。
スィーカット・・・小瓶の悪魔。本人、割と今の状況を気に入っている節がある。
アメリア・・・元お姫様のレム君の奴隷。これと言った徳義は今のところない。ごくふつーの一般人
ミミルッポ・・・スィーのご主人さまで悪魔とか、色々な異形に惹かれる性質
ライカーレ・・・もうミミルッポの世話役でいいや
肝が据わっているというべきか、それともどこか常人と精神がずれているというべきか判断に迷う。
と、言うよりも我に常人の何たるかを語らせるという事自体が間違ってはいないだろうか?
呆れを通り越して関心すら覚え、一応は尋ねてみる事にしよう。
「……何をしているのだ?」
「あら、ミミルッポの小遣い魔じゃない」
「違う。せめて使い魔と言え」
「どちらも大差ないじゃない?」
「大いにある。……それで一体何をしている、アメリア?」
「何って、見てわからない? お茶を飲んでるんだけど」
「それは見れば判る。判るのだが、本当にそれだけなのか?」
「それだけって、お茶を飲んで午後のひと時を楽しむのに他に何か必要なの? あぁ、お茶に合うお菓子はあってもいい気がするわね。もしかして買ってきてくれるの? 有難いわ」
「断る。今がどういう状況なのか気づいていないのか?」
「状況? なにかあったの?」
真顔で首を傾げられる。
「外の様子は?」
「久しぶりに一人でのんびりと出来る時間が取れたから全く気にしてなかったわ。それよりも外で何かあったの?」
「あった、と言うより現在進行形で起きている。今この街は特大規模の魔術に覆われている状態だ」
「特大規模の魔術!? それってどういう事よ!?」
血相を変えて飛びかかってくる。
当然だがそれを避ける我。
勢いあまって盛大に転ぶアメリア。
『……』
……さて。
この様子からするにどうやら本当に外の変化に気づいてなかったらしい。
確かにここに着いた時、周囲に赤い糸が全く見当たらない事に些かの違和感を抱いてはいたが……。
しかし、そうすると赤い糸が襲いかかる対象は無差別ではないのか? 何らかの意図が存在する…?
……ふむ、これは存外に興味深いかもしれないな。
「……ちょっと」
「何だ、アメリア」
「助け起こそうって気はないわけ?」
「ない」
「……」
何故か不満全開で起き上がるアメリア。自分で転んでおきながら我の手助けを求めるとは尊大な輩だ。
……もっとも転びかけたのがミミルッポであれば当然彼女が傷つくより先に助けているが。――いや、何も問題はないはずだ。
「それで、外じゃいったい何が起きてるって言うの? それに貴方は私のところでのんびりしててもいいわけ?」
「何。それほど問題があるわけではない。街中に正体不明の紅い糸が散乱してヒトに絡みつこうと――」
「アメリア様! あの方をどこに隠してしまわれ――、な、なんですかこれは……はっ!? ま、まさか私とあのお方の運命を羨んだ名も知らぬ方々の妨害工作が……邪魔です!!」
「と、言うような事が外では起こっている。ここは不思議と何も起きていなかったようだがな」
「なるほど。理解したわ」
しかし、ここが平穏なのはあの銀髪の娘が何かを施しているやも、とも考えたがそれもどうやら違うようだ。
我は魔力を展開して存在を気取られぬようにしているが、突如現れた女――確かファイが暴漢に襲われた場で見た覚えがある――には赤い糸が反応を示して絡みつこうと動いた。そしてアメリアには反応すら示していなかった。
今は既にこの部屋にいるものへ無差別に絡みつこうとしている様子だが……取り敢えずは邪魔だからここでも魔力を展開しておくとするか。
「あら? ようやく諦めていただけたようですね」
……何かを勘違いをしているようだが敢えて正す必要もあるまいか。
さて、これで一通り皆の無事はこれで全員確かめた。一応これで義理は果たした事になるか。
この規模の魔術、赤い糸の仕組みなど、興味深い事柄も多数ある、が。そもそも我としてはミミルッポさえ無事ならば何一つとして問題はないのだ。
敢えて危険に身を晒してミミルッポが傷つく可能性を増やす事もないか。
そろそろミミルッポのところへ戻るとしよう。
「ではな、アメリア」
「って、ちょっと待ちなさいよ。説明ってあれで終わり? もう少し何か詳しい説明とかはないの?」
「ない」
「……また即答」
「そもそも我も全容を理解したわけではないのでこれ以上言う事は何もない。そして先ほどの赤い糸だが、この部屋から出ない限りは問題がないはずだ。他に何か聞きたい事はあるか? ないな?? では去らばだ」
「え、て、ちょほんとにこれでお終――」
「おかえりなさーい、スィー。みんなはどーだった?」
「うむ、ファイもアメリアも問題なかった。安心してもいいぞ。……それとライカーレ、なんだその目は? 我の言を疑うのか?」
「……いいえ、そんな事はないけど、ちょっと早すぎじゃないかな、って思う程度よ」
「そうか、ならば何も問題ない」
「まさか、一度行ったはいいけどやっぱりミミルッポの事が心配になって、まあ適当でいいやとかなんとか理由をつけて一目安全を確認したからこれで義理は果たしたとかなんとか言い訳して戻ってきた、なんて事はないわよね?」
「ないな」
「……そう。なら、良いけど」
まだ少し我を疑っているようだが、そのような事実は我の中には既に存在していないから問題はない。
色々と動いている者達もいるようだが、何、問題はあるまい。
究極的には、あの銀髪の娘の主の奴隷がいる場所だ、凄惨な事にはなるはすまいて。
本当にいざとなれば我がいる。どんな輩であれ、ミミルッポには――ついででライカーレも含めておいてやろう――指一本触れさせるつもりはないのだから。
次回にようやくスィリィ嬢の物語に戻る事が出来そうです。
スィーカット君は基本ミミルッポが無事なら万事問題なしのお方なので、特に働かないかもしれませんが、ファイさんとかアメリア様とかは一応まだ働いてもらうつもりです。
ファイさんはギャグ要員ではないと明言しておきましょう。
リッパー様、尋問中。
アメリア様、私は知らないと繰り返し中。