ACT XX. スィーカット-5
決してオチ担当やボケなどではありません。
…多少、天然っぽいですが。
スィーカット・・・小瓶の悪魔。小瓶の妖精では決してない
ファイ・・・潜在魔力の高い、天災料理人、レム君の奴隷の女の子
「……何をしているのだ?」
「あ、スィーカットさ、ひゃわっ!?」
ずべし、とそれは天晴れな勢いで地面に倒れた。
……今、頭から落ちたが大丈夫か?
「うぅ、痛いです」
大丈夫なようだ。と、言うより無意識ではあったが落ちる直前に魔力防壁を張ったな。さすがに潜在能力だけが高い事はある。
「スィーカットさんはどうし、ひょへ?」
起き上がりかけたところで再び見事に転ぶ。……うむ、受け身はしっかりしているようだから問題ないだろう。
「ふざけているのか?」
「スィ、スィーカットさぁん、助け、ひょふあぁ!?!?」
起き上がりかけて、また転ぶ。
毎回毎回、ここまで見事な転びっぷりを見せられると清々しいものだな。
「ふぇ……痛い」
本人は今にも泣きだしそうだが。
……いつまで見ていても飽きない気もするが、そろそろ助けた方が賢明か。何より、と言うよりもあれだけ見事に、幾度となく頭から地面に激突していにもかかわらず『痛い』程度で済んでいる事を疑問には思わないのか?
「面白い事をしているな、ファイ」
「スィーカットさん、助けて下さいまし。さっきからバランスが、はえぇ?」
また転ぶ。
……やれやれ、仕方ない。
「立ち上がろうとするな。少なくとも転ぶ事はなくなる」
「あ、なるほどです」
それでようやく落ち着いた。
多少“ソレ”が気になるが、特に問題はないよう――盛大に転ぶこと以外は問題ないようなのでひとまず説明から聞く事にする。
如いては、全てはミミルッポの安全の為。お前の犠牲は無駄にはしない。
「ファイ、体に何か問題はないのか?」
「頭が痛いです」
「頭以外だ」
「頭以外? ……そうですねぇ、何だかいつもよりも調子が良いというのか、力が湧いてくる気がするくらいでしょうか」
「“ソレ”は何か問題はないか?」
「これ……この赤い糸の事ですか?」
「そうだ」
ファイの身体にはそれは見事にあの赤い糸が絡みついていた。覆われた糸で身体の半分が赤く見えるのだから見事としか云い様はあるまい。
一度は糸の破壊を試みたが、どうにも一度絡みつくと安定するようでうまく破壊する事ができないでいる。
実害もなさそうなので既に放っておくつもりだが。
「いいえ? でもスィーカットさんはこの赤い糸の事を存じていらっしゃるのですか?」
「いや、その糸が向かってくるという事以外は知らぬ」
「……そうですか。何故か先ほどから私に絡まってきて、不思議と体を動かすのに不自由はないのですけど、誰かのいたずらでしょうか?」
「いや、これだけ大きな展開魔術だ。ただのいたずらの線はないだろう。何らかの意図があるはずだ」
「はあ?」
ふむ、これは理解していない顔だな。
糸に絡みつかれても問題がないというのなら、理解させる必要もないか。
しかし体から力が湧いてくる、か。
「……当然だ。そもそも何故気付かない?」
この近辺に全くヒトがいないというのも頷ける。
これだけ強大な魔力を発し――放出し続けているならば常人では近寄る事もできないだろう。最もこの程度の魔力、我にとっては心地よい程度でしかないが。
「ふぇ?」
本人はやはり自覚していないようだな。
そもそもとして自覚していれば先ほどのような失態はおかしてないか。
両足から魔力を噴出、その勢いで転んだところで次に頭から魔力を放出して自らの身を守るなど、最初に見た時は己の魔力量にタガが外れて狂ってしまったのかと疑ったものだ。
単に無自覚でやっているだけだと判明した後は愉快な見世物だったが。
「スィーカットさん?」
「……いや、何でもない」
いかんいかん。思い出し笑いは控えるべきだな。
「そうですか? ……何か釈然しないのですが」
「気にする必要はない」
「はぁ」
しかし本人が自覚なしでこれほどの魔力を発しているという事は、もしや赤い糸の役割は強制的に魔力を引き出す事、か?
……正直呆れを通り越すほどに潜在魔力だけが高いファイだからこそこうして平然としているものの、もしもミミルッポに赤い糸が絡みついていたかと思うとぞっとしないな。
魔力を放出しすぎて倒れる可能性もそうだが、なによりミミルッポの魔力は一種の魅了剤だからな。あんなものを際限なくばら撒かれては事態がどうなるか、想像がつかんぞ。
術者の意図もまた解せぬ。赤い糸からは統制されている感は全くない。無差別に対象の魔力を放出させるだけなど場を混乱させるだけか、それともファイの物言いではないが愉快犯の仕業か。
――……それとも、この魔術にはまだ何か効果があるとみるべきか?
今考えても詮無い事だな、これは。
「ふひゃああああああ!???!?!?!?!」
「どうし――」
「焼ける燃えます熱い死ぬ死んでしまいますー?!?!」
「……ほぅ」
ファイの全身が燃え盛っていた。なるほど、魔力を発散できずにいるとこうなる――つまりは自然発火するわけか。
だがしかし、これは凄い。
ここまで感心したのはこれで三度目か。一度はあの銀髪の娘、二度目はミミルッポという特異な存在。そして今回は……
「私、燃えてます!? スィ、スィーカットさん助けて下さいましー!!!!」
“熱を持たぬ炎”か。
今の時代では“黄昏の時代”と呼ばれている、我が封印される前の時代に幾度か見た事はあるが、確か“熱を持たぬ炎”は龍種のエリートでも具現させるのは困難だったはずだ。それも火傷一つどころか、本当の意味で全く熱を持たぬ炎を作り出すとは。
どうやら本当に、潜在魔力だけは桁外れもいいところなのは本当らしい。それも我がこうして驚愕するほどに、だ。……最も、本人は今自分がどれほどの事を行っているのかも自覚していないようだが。
「ススススィーカットさぁぁぁん!?!?!?!?!?」
本当に、やれやれだな。潜在魔力“だけ”が高いとは言ったものだ。
「……ファイ、取り敢えず」
「は、はい?」
「健闘しろ」
「ふぇ? ……え、えええええええええええええ、てスィーカットさん私を放って、置いていかないで下さいましっ!?!?」
許せ、ファイ。
今のお前の状態でミミルッポの傍に置いておくのはいささか心配だからな。頑張ってくれ。
後、いい加減全身を覆う炎が全く熱を持っていない事に気づいてももいいのではないか?
次は……アメリアか。
さて、どこにいるのか。
ファイさんが強くなる見込みは御座いません。あくまで彼女は潜在魔力が高いだけです。
潜在はどこまで行っても潜在でしかない。
ちなみに一流の魔法使いの保有魔力量程度?を常に放出し続けている現在のファイさんでした。
レム君、爆笑中。
メイドさん、奮闘中。
ラライさん、ちょっと休憩。
スィリィ嬢、相変わらず暴走中
さあ、次は姫様方たちの出番です!