ACT XX. スィリィ-7
レム君、二日でロールアウト(笑)
スィリィ・・・アルゼルイに通う女の子。ちょっとわけあり?
アイネ・・・スィリィのお友達。
ファアフ・・・しつこいようですがそんな人、いません。メイドさんの偽名?
マレーヌ・・・処理部で奴隷の女の子。結構万能な子です。
――翌朝。
昨日は結局、あのあと探し回っても見つからなかったし。
街の酒場で何かひと騒ぎあったみたいだけど、早々都合よくその場にあのファイって子がいるはずもないわよね。
…まあ、いないならいないで仕方ないか。
それもこれもスタンピート先生に聞けば全部分かるだろうし――そう、私の直感が告げているから。
「あ」
と、思ってたらいきなり見つかった。
相変わらず、絶対に頭がどうかしてると確信する『なんちゃって学者』の姿はこうして遠目からでも酷く目立つ。でも今はそれ以上に目立つ原因があった。
「お、スィリィじゃないか。おはよう」
「スィリィ様、おはようございます」
どういうわけかは分からないけど、スタンピート先生の隣にファアフ先生もいた。
…何と言うか、妙な程に違和感がないのはどうしてだろう?
スタンピート先生だけだと間違いなく変人に見えるし、ファアフ先生一人だとしても(似合ってはいるけど)それはそれで違和感がある。
でも二人が並んで歩いていると、…ほら、あれよね、どこぞのボンクラ貴族とそれを使える有能メイドさんに見えてくるから不思議……ってほどでもないか。
「おはようございます。……ファアフ先生」
「はい、お早う御座いますスィリィ様。…どうやら昨日呆けていらした事に関してはご自身の中で一段落がついた様ですね。よう御座いました」
「あ、いえ、そんな…」
まさかその他大勢の内の一人でしかない私を心配、してくれていたなんて。
このヒトに心配されたかと思うと申し訳ないやら胸の奥の方がむずむずとするやら、変な気分になってくるから不思議だ。
アイネの言ってた事がまた少し理解できた気が……って、違う違う。私は何を血迷ってるんだ。私は、断じてそんな趣味じゃないんだからっ。
…それに対して、
「おいおい、俺には挨拶なしなのか?」
「オハヨウゴザイマス、すたんぴーとセンセイ」
昨日の事を全く感じさせない、必要以上に馴れ馴れしい態度には苛立ちを越えて少しばかりの殺意すらも覚える。
私はそんなに気の短い方じゃないはずなのに。つまりはそれだけこのヒトが気に食わないって事なんだと思う。
「ふむ、何か言葉に棘がある気もするが、気のせいだな」
いいえ違います。
どうせ言っても無駄だろうから態々口に出したりはしないけど。
「あの、ファアフ先生」
「はい、如何用で御座いますか、スィリィ様」
「その、様って付けるのを止めてもらえないですか?」
「それは…」
「おぉ、勇気がある事言うなぁ、スィリィ」
五月蠅い黙れむしろさっさとここからいなくなれ。
「申し訳ございません、スィリィ様。不快にさせてしまいましたか?」
「あ、いいえっ、全然っ、そんな事はないんです、けどっ!!」
こうして普通に話してるだけのはずなのに周りから視線が痛いって言うか、胸の奥がむずむずして幸せになるような寂しい様な……って、だから私っ、血迷ってるんじゃない!!
「スィリィ様?」
「す、済みません。なんでもないです、はい」
「そうですか。ならよろしいのですが」
「おーい、スィリィ、話をずらされてるぞ。様って呼ばなくしてほしいんだろー」
ああ、もうっ。
「スタンピート先生、少し黙――、先生後ろ!!」
「…はえ?」
「レム様〜〜!!!!」
「ど、ぶっ!?!?」
「リッパー様お久しぶり…」
「ああレム様お逢いしたかったです積もる話もいっぱいあります。お部屋もご用意しております。さあ、二人で愛の逃避行を――!」
「……」
「っ、旦那さ」
「…えーと」
今のは一体何だったんだろう?
突然、女の人が現れたと思ったらスタンピート先生に真後ろから体当たりをして、一瞬で何かを口走った――うん、口走ったと思った次の瞬間にはスタンピート先生を抱えて、消えていた。
ファアフ先生も凄い反応速度で消えかかった二人に手を伸ばして、そのまま一緒に消えてしまったのだけど。
…あれ?今、ファアフ先生がスタンピート先生の事を『旦那様』って呼んでた気が…気のせい、かな??
それにあの女の人も、どこかで見た気がする。確かファアフ先生は『リッパー様』って……そー言えばこの国の王女様の名前がリッパー・スフィアだった気がするけど。そう言えば何かの式典で見た王女様とそっくりだった気も……んー、でもおかしいな、確か噂じゃ慎ましくて大人しい、淑女な女性って話じゃ。
大体、あれが王女様だったとして、レム様?スタンピート先生と……その、愛の逃避行??
おまけに旦那様って、何?
それにスタンピート先生、あれって気絶してなかったかな?
「???」
頭がこんがらがってきた。
一瞬に無茶苦茶な事がありすぎたからかもしれない。
そもそも転移魔法って言うのはすっごく高度な魔法で、一級の魔法使いでもホイホイと使える様なものじゃないのに。
「おっはよー、スィリィ!!」
「…あ、アイネ?今さ、ファアフ先生とスタンピート先生、それに王女様が転移魔法でポンって消えて…」
「な〜に訳の分からない事言ってるのかなぁ?それとももしかしなくてもスィリィ、誤魔化す気満々?」
「誤魔化す?何の事?」
「ほほ〜う、それはつまりあれですか?私の事なんて、昨日無銭飲食で危うく犯罪者になるところだった私の事なんてどうでもいいって?」
「は?無銭飲食?…ダメじゃない、アイネ。それは犯罪よ?」
「あ〜ん〜た〜が、い・う・なっ!!」
「???」
「…それは本気で分かってない顔ね。いい、スィリィ、昨日の事を思い出してみて?」
「昨日?」
昨日はスタンピート先生に変な事を言われて、でも誤魔化されて逃げられて。だからファイって子をずっと探し回ってたけど見つからなくって。
それで、だから今日スタンピート先生を問い詰めようと…
「あー!!!」
「ようやく思い出した?」
「これってもしかしなくてもまた逃げられたって事なのっ!?」
「逃げる?何の事?」
「何ってスタンピート先生……あれ?そう言えばアイネ、今思い出したけど昨日って大丈夫だった?」
「……大丈夫って言うのは何の事を聞いてるのかな、スィリィ?」
「そりゃ勿論あれよ。ほら、確か愚痴る為にお金ないって言ってたアイネを無理に誘っちゃったでしょ?それであそこの支払って結局どうなって……あれ?」
そう言えばさっき、アイネが無銭飲食で捕まりそうになったって、言ってた?
なんだかこっちをにこにこ見つめてくるアイネの表情もちょっとだけ……済みません、凄く怒ってる。
「スィリィ?さて、何が大丈夫だった、なのかなぁ?」
「……あのさ、アイネ」
「何、スィリィ?」
「人生、色々な経験って大切だと思わない?」
「親友を犯罪者にしかけておいて言う事がそれかー!!」
「ごっ、ごめんなさーいっっっ」
思わず逃げ出したけどすぐに捕まった。そりゃ、アイネの方が足が速いものね。
ちなみに、
「申し訳ありませんがある――、……レム・スタンピート先生は体調不良の為にしばらく休む事になりました。僭越ではありますが、『烙印解析学』の講義は私、マレーヌが行わせてもらいます」
「マ、マレーヌ!?」
「…どうかしましたか、ファイ?」
「あ、いっ、いいえ、何でもありません。済みませんでした」
「そうですか、ならよろしいです」
スタンピート先生があれ以来体調不良(?)が原因でぱったり見なくなった事で私は彼に問い詰める機会を失ってしまったりした。…と、言うよりも体調不良って、絶対アレの所為よね…?
あと、ファイってば何でマレーヌって子を見てあんなに驚いたのだろう?
……何か最近、変な事で頭を悩ませてばかりいる気がする。
久しぶりにスィリィ嬢のお話…かと思いきや早々にレム君が退場してしまいました…(汗)
リッパー王女に拉致監禁……なんてことは多分ないです。ないと思いたい。
ちなみにリッパー・スフィアのちょっと紹介ですが、彼女の名前は当然?『切り裂き魔』です。刃物を持ったら性格が変わるとか、ないですよぅ?
さて、登場人物も粗方…多分、揃ったのでそろそろ事件が起きそうな気配です。そうじゃないと物語にならないっ!