ど-10. めがね?
風が私を呼んでいる―!
…風になりたい(理由:恥ずかしいから)
「あれ、お前そのメガネどうしたんだ?」
「メガネ?はて、旦那様、一体何の事でございましょうか?」
「お前がただ今目につけている補助硝子の事を一般にメガネと言うんだ。まあ出回ってる数はそれほど多くもないけどな」
「旦那様は大変物知りでいらっしゃるのですね?」
「今更お前の世辞はいい。でも結構似合ってるな」
「……」
「お、何だ、珍しくも照れてるのか?」
「…いえ」
「まあ、いいが…それよりもどうした、目でも悪くしたのか?」
「いいえ。しかし旦那様は頭を悪く致しております。補助器具が用意出来ないのが残念でなりません」
「……、…、そうか」
「はい。しかし、旦那様の仰りようから推測いたしますにメガネと言うものは一般によく知られているようですね。大変珍しい事に私は心底驚いております、旦那様」
「そうか?メガネなんてんな大層なものじゃねえぞ?」
「いいえ、そんな事はございません。今私がしておりますこれは透過晶と名づけまして私が昔探し物をするために作ったものなのですが、名の通り任意の物質を透過して見る事が出来ると言うものです。我ながら傑作かと自惚れていたのですが……そうですか、いまやこのようなものが一般的に普及されているのですか」
「………ゃ、それ、そんな物だったのか?」
「はい、そうですがそれが何か?」
「まて、すると何か、なーんか珍しくもお前が照れてるように思えたのは、つか視るなっ、こっち向くんじゃねえっ!!あ、こらてめえどこ視てやがるんだよっ!?」
「…ぽっ」
「あ、てめ…いや、それとやっぱり訂正しておくぞ。そんな物騒なものメガネじゃ…いや、ある意味メガネだがそんな物は絶対に普及なぞしちゃおらん」
「それは良かったです。これで私の自尊心も保たれます。いえ、そんなものは旦那様の幻想と同じく端から存在いたしませんが。しかし改めてよかったです、これで旦那様の痴権が守られました」
「その、痴権って何だよ?」
「それは旦那様のありもしない沽券に関わりますので申し上げる事が叶いません。ですが敢えて一言申すとすればそれは――平和は守られた」
「おい、それこそどういう意味だよっ!?」
「いえ、旦那様に限るものではございませんが男の方は皆けものと申しますればこそ、この透過晶を渡すわけには参りません」
「あ、忘れてた。そんなもの俺は欲しがりはしないが…てかいい加減視るな、俺を視るなよっ!!」
「仕方ありませんか。それでは捜し物も見つかりました事ですし、透過晶は再び封印しておきましょう」
「…探し物?何を捜してたんだ?」
「はい、テハー様ご愛用の櫛を。うっかりと下に落としてしまったという事ですので捜して参りました」
「下って…もしかして下界に落ちたのか?」
「下界と言う言い方は正しくありませんし好ましくも御座いませんが…確かにその通りでございます。常々思うのですがこの土地が空に浮いているというだけで地上を下界と申されるのはいかがなものかと存じ上げます」
「まあ、それは追々として……しかしよく見つけられたな。……いや、成る程。確かにその透過晶とかいう奴の性能があれば見つけられるか」
「はい。任意の物、つまりテハー様の櫛以外を全て透過してしまえば見つけ出すのは容易い事です」
「言うは易し、行なうは難しだな」
「そうでしょうか?」
「ああ」
「……それで、旦那様」
「ん、何だ?」
「そのメガネ、と言う代物ですが、地上の方へと降りれば容易く見つかるようなものなのでしょうか?」
「まあ、あるところにはあると思うぞ。でもどうしてだ、目を悪くなんてしてないだろ?」
「…黙秘させていただきます」
「そうか。ま、無理に聞きたい事でもないけどな。それに似合ってもいるんだし偶には悪くはねえんじゃないの?」
「…では、テハー様に早々にご報告を致して参りたいと存じますので、これで失礼させていただいてもよろしいでしょうか、旦那様?」
「ん、ああ。急ぎのところ呼び止めて悪かったな」
「いえ。…では、私はこれで失礼させていただきます」
「ああ、じゃ、またな」
「はい、旦那様」
本日の一口メモ〜
『竹龍の地』
元々は太古の龍神が構えていた城でその主は白龍だったらしい場所。別名を天空城と呼んでいたらしい……あれ?
人物紹介
テハー
清掃部に所属する奴隷の少女。館の端の方の草原を担当にしている。櫛が宝物。
追伸:
一応題名の通りのお話ですので、登場人物は決して二人だけじゃありません。ただ登場する機会がまだないだけです…きっとね。