ACT XX. スィリィ-5
スィリィ・エレファン。魔法つかいに憧れる女の子♪
レム君にひどい事を言われて落ち込んだり苛立ったりな本日です。
「ちょ、待ちなさ…待ってっスタンピート先生!!」
「ん?…どうかしたか、スィリィ」
どうしてか『俺は全部分かってるぞ』みたいな目線を向けてくる(ようにしか思えない)事が無性に腹立たしく感じるけどっ。
でも今はそれよりも先に聞きたい事がある。
「スタンピート先生、さっきの講義、あれはいったい何ですかっ!?」
「何もないだろ。『烙印解析学』って言葉通りだろ。それ以外に何かあるのか?」
「何かも何も…っ!」
先ほどまでの講義内容…いや、この男が自らの見解として述べた内容はあまりにもおかしかった。
曰く、“烙印”とは捺されるものではなく刻まれるものである
――それは“印”、千差万別の自らの“証”。
曰く、“烙印”とはヒトを護る“外殻”である
――扱いきれぬ力は時に自らも滅ぼしてしまう。
曰く、“烙印”とは文字通り罪の証である
――過去の大罪の残り火、だからこそ、逆に“烙印”を刻まれない事で死ぬヒトすらいるだろう事。
内容自体がおかしいというわけじゃない。いや、話を聞けば筋が通りすぎてさえいた。
だからこそ納得がいかない。このヒトの語った内容は現状の情報だけで推測できるもの……ではあるかもしれないけど、ありえない。
特に最後の言葉。このヒトは確かに私に向ってその言葉を言った。
これで何か知っていないと疑わない方がおかしい。だからこそこうして澄ました顔でいる事が腹立たしい。…って、ああ、そうなんだ。だから私は目の前のこの男の人を見て苛立ってるんだ。
「先生は、私の何を知ってるんです?」
「いきなり意味深な質問だな。と、言うか俺はどこぞのストーカか何かか」
「ふざけないでください、そういう意味じゃないですっ!」
「まあまあ、落ち着けって」
「これが落ち着いて…」
「いいから、少し落ち着け」
「っ」
「――スィリィ・エレファン。魔法科専攻でちょっぴり激情家の女の子。まあ俺がわかってるのはこの程度の事だ」
「いい加減にふざけ」
「ひとつ、いい事を教えてやろう、スィリィ。きっと今後の為にも役立つぞ?」
「…何ですか?」
「知りたいと思った事が何でも教えて貰えると思うなよ、て事でアデュー!」
「って、あ、こら、ちょ…」
「わははははっ、捕まえてごら〜ん?」
「な、え、えぇ???」
逃げられた。
本当に、まさしく逃げられた。何故かスキップしながらありえない速度で逃げて行った。しかも丁寧に(?)花まで周囲にばらまいて。
もう、本当に。
「――何なの、あのヒト?」
◇◇◇
「と、言うわけなのよ」
「ふむ、つまりスィリィはあの冴えない男の人が気になっている、と。…あんなヘタレそうな人のどこがいいの?」
「なんでそうなるのよっ!?」
「えー、だって今の話って遂にスィリィにも春が来ましたよって話じゃないの?」
「あ、あのねぇ…」
「でも意外。スィリィってば母性本能をくすぐられるようなヒトがタイプだったんだねぇ〜」
「……」
頭痛くなってきた。
と、言うよりも私、いくらちょっと混乱してたからって相談する相手がアイネっていうのは間違ってなかった?
今更ながらに相談する相手を間違えた事に気づいた。…遅すぎたけど。
本日の講義も終わってカフェテラスでの穏やかなひと時…の、はずだけど。目の前のアイネの目が輝いている気がする。気のせいね。
「しっかし凄いわよね。もうここまで話題になってるなんて」
「わだい?」
「そ。ヘタ…じゃなくて、もう一人のファアフ先生の方」
「ああ、なるほど〜。本当にすごいよねー。まだ二日目だって言うのにもしかしてこの学園でファアフお姉さまの事知らない子とか、いないんじゃないのかなぁ?」
「お姉さまって…あのね、アイネ」
「え?でもファアフお姉さまはお姉さまでしょ?」
「でしょ、って言われても…ねぇ?」
アイネがファアフ先生の事をそう呼びたい気持ちも分からないでもない。と言うよりも微妙に嫌だけど私にも分かる。そして他の皆も同じだと思う。
人気、なんて言葉じゃ表わせないほどに彼女には人を惹きつける“何か”がある。ほんと、もう一人の方とは大違いなほどに。
「ああ、もうファアフお姉さまに会える明日が待ち遠しいわっ!!」
「今朝は今朝で黄昏の時代がどうのこうのって言ってたのに、凄い変わりようね」
「それはそれ、これはこれよ。確かに黄昏の時代や三神十二使徒に纏わる物語は捨てがたいけど、学ぶことならいつだってできるわ。でもファアフお姉さまに会えるのは今だけなのよっ!!」
「まあ、勝手にしてれば?」
私には関係ないし。助かった?事に私はそこまでファアフ先生にお熱じゃない。
……いや、それよりも今はもっと気になる事が――。
「スィ・リ・イっ、眉間にしわが寄って可愛い顔が台無しになってるぞッ。何か悩み事?」
「あ、うん。悩み事って程でもないんだけど…」
「大丈夫っ、皆まで言うな、お姉さんは全部ちゃんと分ってる!そして恋に悩むスィリィも素敵だヨ!!」
「…まったく分かってないわね」
サムズアップして。いつになく笑顔が輝いて見えるよ、アイネ。
ほとほと、ため息の一つも吐きたくなってきた。それにいつになくアイネのテンションも高いし。
私ってばもっとこう、結構真剣に悩んでたはずなのにな。…まあこれもアイネに話したおかげで気持ちが軽くなったって、取り敢えずは前向きに考えておこう。そうじゃないと余計に疲れてきそうだし。
「まあ相談するほどの事でもないから心配いらないわ」
「そう?でも人に話すだけで気分が楽になるってこともあるのですよ?」
「ま、ね。だからそんなに深刻な悩みじゃないのよ。…ちなみに恋の悩みでもないから、そんなに目を輝かせて私を見ても都合のいい答えなんて言わないわよ」
「や、やだなぁスィリィ。私は親友が真剣そうに悩んでる時まで好奇心を抑えきれないようなゴシップ好きじゃないわよぉ〜」
「あ、そ。……取り敢えずはそう言う事にしておいてあげるわ」
「あは、ははは」
随分と乾いた笑い声ね、アイネ。まあ後生だし、指摘しないであげるけど。
それに悩みとはちょっと違うけどアイネに愚痴って少し気持ちが楽になったのは確かだしね。
「さて、と。それじゃそろそ――、?」
「スィリィ?どうかしたの?」
「ああ、うん。ちょっと見知った顔を見つけてね」
そう言えばスタンピート先生の事で頭がいっぱいだったけど、一番はじめに“烙印”を“こくいん”って言ったのはあの子だったわよね。話を聞いてみても損はないかもしれない。
それに…
「誰?私の知ってる人?」
「ううん、アイネは知らないと思う」
隷属科の子だしね。でもあの子――確かファイって言ったはず――の隣にいた女の子、講義の時には見かけなかった顔のはずけど、どこかで見た事があるような気が…。
「ちょっと言ってくるわ。ちょうど聞きたい事もあるし」
「あ、ちょっと、スィリィ!」
「ごめん、急ぐから」
「待ってよっ!!………じゃ、なくてぇ、もしかしなくてもここの料金って私持ちなの?そうなの??」
走り出した私はすっかりアイネの事を忘れていた。まあそれほど真剣だったって事もあるんだけど、……。
「わたし今お金持ってないって言って、スィリィが払ってくれるって言ったからついてきたのにぃー。…スィリィのばかあぁぁぁぁ!!!!!」
多分、悪いのは私の所為じゃないと思う。
お金をほとんど持ってなかったアイネはお店のお姉さんと交渉して何とか体を売る(不健全な意味じゃなくて働くって意味よ!)事で許してもらったらしい。
ちなみに私はこの話を聞いたあと小一時間ほどアイネから愚痴られた。
うむむ?
…と、言うわけで未登場にもかかわらずメイドさんは大活躍中です。
と、いうかこの長さのものを毎日書くのは私にはつらいのですよぅ。なので短くなるか、日にちが開くかのどちらかになりそうな感じ…。
多分日にちがあく事はないので、一話あたりが短くなる、のか?
ちなみに。
ただいまレム君に対して『養女拉致監禁容疑』がかかっております。もれなく賞金付。